おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「弩」 下川博

2010年05月23日 | さ行の作家
「弩」  下川博著  小学館 (10/05/22読了)

 私個人としては、「神奈川県横浜市金沢区にある真言律宗称名寺は鎌倉時代から続く古刹だが…」、という最初の一行でノックアウト。

というのも、称名寺は私には馴染み深い寺なので。通っていた小学校から歩いて15分ぐらのいところにあり、ちょっとした遠足、写生と、何度も行った場所。中学生の頃は部活の友達と集まって、除夜の鐘を撞きにも行きました。

自分自身に少しでも接点のある地名や人名が出てくると、どうしても引き込まれてしまうものです。でも、それがなくとも、十分に面白い作品です。鎌倉時代末期から南北朝初期の因幡の国(現在の鳥取県)百姓を主人公にした物語。時代モノというと、有名武将を中心に描かれる作品に偏りがちですが、名も無き人々にスポットを当てた作品は好感が持てます。

どのように交易がおこなわれていのか、どうやって産業が発展したのか-この作品を通じて、その一端を垣間見られました。因みに「弩」は、文字の作りを見ればわかる通り、弓の一種で、西洋ではクロスボウ(ボウガン)と呼ばれるもの。百姓たちが、厳しい年貢に堪えかねて、「弩」で武装して領主の侍と戦うという-戦闘シーンがクライマックスなのですが… 圧倒的に、物語の前段で描かれていた、村が産業によって発展していく様子が面白い。そして、「荘園」制度など、遥~か昔に社会の授業で勉強した細い記憶を辿るのも、楽しいものです。

ただ、ちょっと残念なのは、イマイチ、文章が雑な感じがしました。せっかくチャレンジグな作品なので、メリハリつけて、美しい日本語にしてスタイルアップしたら、もっともっと楽しく読めたのに…という感じです。



碁太平記白石噺 @ 国立劇場

2010年05月23日 | 文楽のこと。
碁太平記白石噺 @  国立劇場
 
 話の本筋としては、無実の罪で父親を殺された田舎娘・おのぶが、阪東巡礼の旅をよそおって浅草で売れっ子の花魁となった姉・宮城野を訪ね、「共に、父の仇打ちをしよう」という、涙無しでは聞けない(?)話らしい。

 しかし、どうも、端場があまりにも面白すぎて、本筋がどうでもよくなってしまうという落とし穴あり。私は、まんまとハマって、肝心のところは沈没・爆睡しました。
 
まずは、簑二郎さん扮するどじょうという手品師が登場。手品の腕前もなかなかのものなのですが… なぜか「雷門」のロゴが入ったペットボトル(!)からお茶を飲んだり、最後は三越の紙袋を手に舞台からはけていったりと… 文楽としては珍しい、おちゃらけた演出。開幕2日目に拝見した時には、ちょうど母の日ということもあり、ラッピングしたカーネーションが手品で飛び出し、それを会場に投げ入れて、やんややんやの喝さいを浴びていました。ま、たまには(あくまでも、たまにはです!)こういうお遊びがあるのも楽しいものです。

 そして、簑二郎さん最大の見せ場は、お地蔵さまに扮して、カネを借りた相手である観九郎から、逆に50両を巻き上げるシーン。いやぁ、大いに笑わせて頂きました。もちろん簑二郎さんのみならず、左さん、足さんもナイスです。そして、床の千歳さん、清介さんも大熱演。千歳さんは、こういう楽しい場面がしっくりきます。客席からは何度も温かい拍手が沸き起こりました。 でも、私的勝手配役が許されるのであれば、ここは吉穂さん大抜擢したいところです。

 文楽としては、極めて珍しい江戸の作者による、江戸を舞台にした作品。そのせいなのか、東北から上京してきたおのぶの訛りをクスクスと笑う場面が何度かあって、昔から江戸っ子は地方をバカにしていたのか…と、ちょっとイヤな感じ。

 春巡業で文雀さんが八重垣姫を遣われた時には散々なことを書いたような記憶がありますが…、今回のおのぶは子供らしい可愛らしさが出ていてよかったです。

 劇場からの帰り、その文雀さん(多分、見間違いではないと思う)を半蔵門駅でお見かけしました。小柄で、杖をついた、足元も覚束ない、おじいちゃま。文楽を見たことの無い人がみても、だれも、人間国宝だと気付かないだろうなぁ。まぁ、文雀さんに限らず、演者の皆さん、あまりにも普通に地下鉄を利用されています。先日も、私は「あっ、清介さんとすれ違っちゃった、ウフ♪」と思ったのに、一般の人はまったく無関心に通り過ぎていくので「皆さ~ん、この人スターさんですよ~。めちゃめちゃセクシーに三味線弾かれる人なんですよ!」と宣伝したくなってしまいました。