おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「麦酒アンタッチャブル」 山之口洋

2008年09月25日 | や行の作家
「麦酒アンタッチャブル」山之口洋著 祥伝社ノベル(08/09/24読了)

 オリジナリティあり。すごく取材して、勉強して書いているであろうこともわかります。強く強く潜在性を強く感じつつも、でも、途中から、読むのがつらくなって、かなりの斜め読みをしてしまいました。だって、小説としては設定に無理がありすぎるんです。でも、お笑い芸人とVシネマ俳優でメインキャストを固めた深夜枠ドラマの原作としては、結構いけるんじゃないの-というような作品でした。

 自ビール(個人が家庭で作って楽しむ自分ビール=自ビールのこと。地ビールではありません)愛好家グループと、財務省・酒税課の根津との仁義無き戦いの記録である。というと、なんか、酒税のあるべき姿をめぐる激しい哲学論争が展開されるようでいて、両者の戦いは、「“アンタッチャブル”ごっこ」の様相を呈しているのです。そう、「アンタッチャブル」は、あの、ロバート・デ・ニーロ主演のマフィア映画です。酒税課の根津恵理夫は、デ・ニーロ演じるエリオット・ネスをもじったもの。かたや、自ビール愛好家の牙城「河骨庵」も、敵方・アル・カポネを無理やり漢字に当てはめて命名しています。そもそも、「アンタッチャブル」の細かいストーリーなどすっかり忘れていましたが、禁酒法時代の酒の密造とそれを取り締まる当局との闘いの物語だったんですね。無類のアンタッチャブル・フリークである根津は、アンタッチャブルを体現するために、財務官僚になり、しかも、希望して酒税課配属となったという設定。そして、密造ならぬ自ビールの取り締まりに情熱を傾け、映画のワンシーンそのままに、自ビールパーティーの手入れに乗り出す-。根津というよりも、きっと、作者ご本人が、相当のアンタッチャブル・フリークなんでしょうね…

 その後、実際の霞が関ではありえないようなトンデモ人事や、財務省と警察庁の捜査協力などを経て、仁義無きアンタッチャブルごっこが延々と続く。ま、小説なので、ありえないことがあってもいいのですが、アンタッチャブルごっこが、あまりにも長く、冗漫すぎて、ちょっと飽きたなぁ-という感じもありました。そして、ありえないづくしのブッとんだ設定でストーリーが進んだ挙句、最後は、相当ベタなハッピーエンドで拍子抜け。あと、もうちょっと、文章がキレイだといいです。あえて、軽妙な文体にされているのだと思うのですが、「軽妙」というよりも、「雑」という印象を受けてしまいました。

 -と批判めいたことばかりを書いてしまいましたが、でも、改めて、作者のポテンシャリティを感じる作品です。独創的だし、書き手が楽しんでいることが伝わってくるから、読んでいて気持ちいい。それに、私はアルコールは一滴も飲めないのですが、にも関わらず、自ビールを飲んでみたくなるような、とっても、おいしそうな表現ぶりです。

 ちなみに、この本は08年9月17日付け日経新聞・夕刊の書評で紹介されていました。