風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『幕が上がる』

2015-02-28 22:33:13 | ももクロ





                     


「ももクロの映画だということを忘れていた」と、ある方が評したそうですが、これホントです。




映画は割とあっさり始まります。夏菜子が、しおりんが、れにちゃんが、そしてあーりんが登場しますが、なんとなくいつものようなオーラがない。「あれ?」っという、なんとなく肩すかしを食ったような感じ。

「大丈夫か、これ?」ちょっと不安になる。

演劇大会のシーンで、ももかが他校の生徒として登場。おお!この子はオーラが出てる。それもどこか孤独で寂しげだ。うんうん、ももかは大丈夫そうだ。

こんな感じで、ちょっと小首を傾げながらの鑑賞スタートでした。



これが、黒木華演じる吉岡先生の登場辺りから、俄然変わってきます。

夏菜子演じるさおりは、無理矢理演劇部の部長をまかせられたものの、具体的に何をして良いかわからず、自信無げで所在無げでイライラしている。これが元「学生演劇界の女王」と謳われた吉岡先生との出会いによって、演劇の楽しさに目覚めてくる。さおりをはじめとして、しおりん演じるユッコ、あーりん演じる明美ちゃん、れにちゃん演じるがるるが、演劇部員たちがどんどん輝きだす。それまで停滞気味だった映画の展開が、一挙にテンポよく進みだす。

それに伴い、観客はどんどん映画に惹きつけられていきます。冒頭の不安感など、もう完全に払拭されてます。輝き始めた彼女達に魅せられて、どんどん映画の世界に嵌って行く。

もはやそこに「これはももクロの映画だ」「アイドル映画だ」という意識すら無くなってくる。アイドルとしてではなく、一女優として彼女達を受け入れている自分がいる。

これは私のようなモノノフよりも、むしろももクロになど興味のなかった方達の方が強く感じるのかも知れない。

驚きと感嘆をもって、女優、ももいろクローバーZをそこに見ることになるのです。


アイドル舐めんなよ!

というより

ももクロ舐めんなよ!

といったところでしょうかね(笑)

なんかね、モノノフであることを誇りに思いますよ。ホント、ももクロは凄い。

一体何処まで行くんだ?この子たちは。






さおりは必ずしも演劇に興味があったわけではなく、ユッコのつきそいで演劇部を見学しそのままなんとなく入ってしまう。部長を嫌々押し付けられ、仕方なくやっているような状態。

これは、ももクロにおける夏菜子の位置と見事にシンクロしています。

夏菜子は今でこそももクロ不動のリーダーの地位を確立していますが、ホントはリーダーなどイヤで仕方がなかったそうです。

普段から屈託ない明るさで、周囲を照らしている夏菜子ですが、実は引っ込み思案で、前に出るのが苦手だった。それがももクロの活動を通して、色々学んでいく。

そんな夏菜子の歩みと、さおりが部長として演劇部を引っ張って行く過程とが、見事にシンクロしているんですね。

私は以前「夏菜子は苦労知らず」みたいなことを書いたかと思いますが、このさおりという役を通して、夏菜子もああ見えて(失礼)、実は苦労しているのだなと気付かされます。

お父さんとしては、何やら感慨深いモノがありますね。



しおりん演じるユッコは、演劇部の看板女優。華のある役柄は、ももクロ一アイドルらしいアイドル、しおりんにぴったり。れにちゃん演じるがるるは、変な踊りを踊るムードメーカーで、れにちゃんそのまま(笑)しっかり者の後輩明美ちゃんは、あーりん以外いないでしょう。

演劇の強豪校から転校してきた「スーパー転校生」中西さんを演じるのは、ももか。御存じの通りももかは、ももクロに途中加入したメンバーです。子役の経験もあり、EXILEのバックで踊っていたキッズ・ダンサーでもあり、歌も踊りも演技もこなす。ももかの加入がももクロに多大な刺激を与えたことは間違いなく、この「スーパー転校生」役はももかのためにあるような役です。

本広監督は、ももかの演技力を相当信頼していたようで、クールであるようでいて、実はナイーブな面を持つという複雑な演技を、ももかに要求しています。

さおりと中西さんが、無人の駅で語り合う場面は、この映画屈指の名場面です。ももかは見事に計算された演技で、中西という複雑なキャラクターを演じ、それを夏菜子の自然体の演技がふんわりと包み込んでいく。中西さんが目に涙を溜めながら空を見上げる場面は、この映画の白眉です。



                   



それにしても、黒木華です。

華と書いて「はる」と読みます。「はな」じゃないですよ。お間違え無く。

黒木華演じる吉岡先生ですが、あれの意味するところは、間違いなく「あかりん」ですね。

早見あかり、愛称あかりん。あかりんはももクロのサブ・リーダーとしてももクロのメンバーを支え、とりわけ夏菜子を支えた精神的支柱でしたが、予てからの夢であった女優の道を目指すため、ももクロを脱退します。

吉岡先生も演劇部のまさに精神的支柱であり、とりわけさおりは全面的な信頼を吉岡先生に寄せており、なにかというと頼っていました。

その吉岡先生が、やはり自身の夢を叶えるために、突然辞めてしまう、いなくなってしまうんです。

精神的支柱を失い、そこから立ち上がって行く姿、さおりと吉岡先生との関係性は、そのまま夏菜子とあかりんの関係性にシンクロしているように思えてなりません。

このような演出が出来たのも、監督の本広克行がモノノフだったからこそですが、原作を書いた平田オリザ氏は、ももクロのことをほとんど知らなかったそうです。

しかし小説を読む限り、どう考えても、ももクロを念頭に置いてアテ書きしたようにしか読めない。

不思議です。このような小説が存在し得ていたことも不思議だし、何もかもが、ももクロのために用意されていたようにしか思えない不思議さを感じます。

ももクロが「持って」いるものって、一体何なのでしょうね。







ももクロの映画であることを忘れさせる、と書きました。

ももクロのファンでなくても、モノノフでなくとも、十二分に楽しめ感動できる、上質の映画に仕上がっています。どストレートな青春映画が御望みの方、感動の涙にむせびたい方には、十二分に満足できること請け合いです。

でもね、上記に書いたような意味では、やはりこれは「ももクロ映画」でもあるのです。

ももクロファンでなければ、モノノフでなければ分からないような「仕掛け」が、映画の随所に盛り込まれているんです。これを見つけた時の楽しさったら、

モノノフ冥利に尽きるってもんです(笑)

流石モノノフ監督、本広克行だ(笑)

ああ良かった。モノノフで(笑)







『幕が上がる』
原作 平田オリザ
脚本 喜安浩平
音楽 菅野祐悟
監督 本広克行

出演

百田夏菜子

玉井詩織

有安杏果

高城れに

佐々木彩夏



黒木華

ムロツヨシ


天龍源一郎
内田春菊
辛島美登里

松崎しげる
藤村忠寿
三宅正治
たこやきレインボー



清水ミチコ

志賀廣太郎



笑福亭鶴瓶


制作 フジテレビジョン
   東映
   ROBOT

平成27年(2015)



※ちなみに、エンディングタイトルのシークエンスは、本広監督が心酔している映画監督、大林宣彦監督の作品で、原田知世主演による映画『時をかける少女』へのオマージュとなっています。

わかる方にはわかる。