風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『小さき勇者たち ~ガメラ~』

2015-02-11 12:45:10 | 特撮映画




                     



1995年より99年に亘って公開された、金子修介監督の「平成ガメラ三部作」は、大人の鑑賞に耐えうる怪獣映画を目指し、特に一作目『ガメラ大怪獣空中決戦』は、そのハードでリアルな世界観が怪獣映画ファンのみならず、多くの一般映画ファンをも取り込み、95年度の各映画賞において多くの賞を受賞するほどの完成度を誇りました。

個人的に嬉しかったのは、キネマ旬報の読者選出映画第2位に選ばれたことでした。「映画秘宝」ならともかく(当時はなかったけど)キネ旬ですからね。

しかしこのシリーズも回を追うごとに興行成績が落ちて行き、三作をもって制作は打ち切られます。それから7年後の、2006年、昭和ガメラとも金子ガメラとも一線を画した、まったく新しい設定で製作されたのが、本作『小さき勇者たち ~ガメラ~』です。

********************


母を亡くした少年、透(富岡涼)はある日、浜辺で光る物体を見つけます。それは真珠のような赤い石と、その上に乗った小さな卵でした。

その卵から孵化したのは亀でした。透は亀に「トト」と名付けます。

透の家は食堂なのでペットを飼うことは禁止されていました。透は父親の孝介(津田寛治)にないしょでトトを飼いはじめます。

しかしトトは成長が異常に早く、ついには空中に浮かび始めてしまいます。気味が悪くなった透はトトを捨てようとしますが、どこまでもついてくるトトを捨てきれず、連れて帰ってきます。

ついに1メートル台に達したトトを、浜辺の小さな小屋に隠す透。秘密を共有するのは親友・勝(石川眞吾)とその弟・克也(成田彰吾)。そして透の隣家に住む、心臓病を患う少女・麻衣(夏帆)。

麻衣は、トトの特殊能力が、33年前にギャオスと戦い、人間を守って自爆した怪獣ガメラにそっくりだと指摘します。麻衣は心臓手術のために、名古屋の病院へ入院するため町を離れます。

そんな麻衣に、透はお守りだとして、トトの卵の下にあった赤い石を預けます。

はたして、トトはガメラなのか…。

折しも、太平洋上で船舶の遭難が連続して発生。そして透たちの住む海辺の町に、突如トカゲのような巨大生物が上陸します。

町を破壊し人々を喰らう。謎の巨大生物に追い詰められる透たち。

そこへ、巨大な影が立ちふさがります。それはさらに大きく成長したトトでした。

トトと怪獣との壮絶な戦い。劣性を強いられるトトでしたが、必殺の火球攻撃で辛くも怪獣を海に追いやりますが、力尽きて動けなくなってしまう。

トトは自衛隊によって名古屋の大学の研究所へ運ばれます。

大学には、33年前の事件以来、ガメラを研究している学者・雨宮(石丸謙二郎)がおりました。

雨宮は、33年前のガメラが自爆した破片とされる緋色真珠からガメラのエネルギーを採取し、ととに注入、復活させて「ジーダス」と名付けられたトカゲ型怪獣とぶつけようとします。エネルギー液によってより巨大化したトトでしたが、目覚める気配は有りません。力尽きてしまったのか。

透と勝、克也の三人は、トトを助けるためには赤い石が必要だと考え、麻衣の入院する病院へ向かいます。透たちが名古屋へ到着したちょうどその時

その名古屋に、ジーダスが上陸します。

その気配を察知し目覚めるトト。

トトは果敢に戦いを挑みますが歯が立ちません。劣性に次ぐ劣性。

透たちはガレキの転がり、非難する住民が右往左往する市街をなんとか病院へたどり着きますが、麻衣たちはすでに避難しており病院はもぬけの殻。そこへ駆けつける孝介。

孝介は勝兄弟に避難所の地図を渡し避難するよう指示、なおもトトの元へ行こうとする透を諭します。
「あれはガメラだ。もうお前のトトじゃない」
しかし透は言います。
「トトは僕の目の前で生まれた、僕よりずっと子供なのに逃げずに戦っている、だから僕も逃げない!」


トトの戦いをモニターで見ていた麻衣は、手元にある赤い石をトトに返そうと、手術が終わったばかりの身体を懸命に起こしてトトの元へ向かおうとします。それを止める大人達。

「トトに…トトに…」か細い声で云い続ける麻衣の元へ、同じ避難所にいて、やはりトトの戦いを見ていた少女が歩み寄ります。

じっと麻衣を見つめる少女に、麻衣はモニターに写るトトを指し「トトへ…」

少女は「トトへね」と答えると石を受け取り、走り出します。

それを見て、麻衣は安心したように眠りにつきます。


逃げ惑う群集と逆方向へはしる少女。向かうは一路、トトへ。

石は途中で多くの子供達にバトンタッチされ、リレーされていきます。ただ一言「トトへ」そして一方向を指し示す。

それだけでわかる。

それだけで伝わる。

子供達は知っている。

自分達を守ろうとしているのが誰なのか。

だから、子供たちもまた、守りたいのだ。

助けたいのだ。

そこに理屈はない。

あるのは

強く、純粋な想いだけ。


石のリレーはついに勝の手元まで届き、勝はこれを透に託します。

ここに至り、孝介も透と行動を共にすることを決意。親子はトトの元へ向かいます。

折しもトトは、ジーダスの攻撃によりタワービルに頭から突っ込み、身動きがとれなくなっていました。

はたして透は、無事トトへ石を届けられるのか、トトはジーダスを倒せるか…。


********************



「小さき勇者たち」とあるように、主役は名も無き多くの子供達なんですね、ガメラじゃない。

いや、この場合、トトはまだガメラに成り切れてはいない。まだ子供なんです。そう意味では、トトもまた「小さき勇者」です。大きいけど…(笑)

ラスト・シーンで飛び去って行くトトに、透は初めて「ガメラ」と呼びかける。つまりこの戦いを通じて、トトはガメラに成長したんですね。ガメラとして自立した。

同時に透も、トトから自立したわけです。

先述したように透は母親を亡くしており、幼馴染の少女は心臓に病を抱えている。そんな折にトトに出会い。透は命というものの大切さ、愛おしさを実感していく。

その命を守るための、戦いに挑んでいく。


少年の成長譚として非常に良くできています。個人的には、幼馴染の少女への仄かな純情みたいな部分があれば、もっと「少年の映画」になったかな、とも思いますが、それをやっちゃうと話が煩雑になると判断されたのでしょうね。合ってもいいと思うんだけどねえ。透は絶対、麻衣に恋してるって(笑)。

それと、津田寛治演じる孝介は、子供の頃にガメラが自爆するところを見ているんですね。その時に感じた想いを、息子の透を通して思い出したのだと思うんです。だから最後には、透と行動を共にした。

かつて子供だった大人が、子供の頃の想いを蘇らせられるような作りになっている。

そこがまた上手いです。


まあ、怪獣映画としてみた場合、定番nである自衛隊との攻防戦が一切無いし、都市破壊シーンも少ない。ジーダス登場シーンも意外とアッサリしているし、抑々このジーダスって何者なのかさっぱりわからない。怪獣の出自等が皆目わからないし、描き方もアッサリサッパリで、ほとんど印象に残らない。敵怪獣に魅力がないというのは、かなり致命的です。

合成やミニチュアワークがよく出来ているだけに、その点が非常に残念。


ですから、この映画を「怪獣映画」として観るか、「ファミリー映画」「少年映画」として観るかで、随分評価は違ってきます。私個人としては、あの「石のリレー」のシーンで思いっきり点数が上がっちゃいますね(笑)。

「小さき勇者たち」が活躍するあのシーンが、この映画の要です。結局あのシーンをどう感じるかが、すべてを決める。そう思います。



子供達の「純」なる魂を信じられるかどうか。それがすべて。








『小さき勇者たち ~ガメラ~』
企画 佐藤直樹
制作 黒井和男
脚本 龍居由佳里
音楽 上野洋子
特撮演出 金子功
監督 田崎竜太

出演

富岡涼
夏帆

津田寛治
寺島進
奥貫薫
小林恵

石川眞吾
成田翔吾

石丸謙二郎
田口トモロヲ

渡辺哲
弓削智久



小野ひまわり
磯村洋祐
諏訪圭亮
鷹尾星奈
片岡皇杏



佐々木俊宣
吉田瑞穂

制作 角川ヘラルド映画

配給 松竹

平成18年(2006)