北三陸の人達は本当に強い。
大吉さん(杉本哲太)等北鉄職員は、地元の人たちの足である、北鉄を止めてはなんねえと、震災後わずか五日で、一区間だけとはいえ復旧させます。これはモデルとなった三陸鉄道で、実際にあったことでもあります。
その電車(ディーゼルだから汽車ですか)の帰りを、車庫で待っている鈴木のばっぱ(大方斐紗子)。
「おらの命を助けでけだ北鉄さ、お礼ばいわねばなんねえ」
鈴木のばっぱやユイちゃん(橋本愛)の乗っていた汽車は、大吉さんの好判断でトンネル内で停車したため、津波に呑まれなかったんですね。
鈴木のばっぱは出番は少ないですが、要所要所で登場する、東北のおばあちゃんの代表的なキャラクターです。
帰ってきたアキ(能年玲奈)をさっそくホームページにアップし、オタクさん達を呼び込み、尚且つ「K3RKDNSP」(北三陸をこんどこそなんとかすっぺ)Tシャツまで売り出すしたたかさ。
「だって被災地だもん」
しれっとして言ってのける菅原さん(吹越満)。これって結構ギリギリのセリフかも(笑)
アキは海女に戻って海へと潜りますが、震災の影響で海底にはガレキやヘドロが堆積し、ウニは一匹もいない。
北三陸高校潜水土木科の“いっそん”こと磯村先生(皆川猿時)は、ガレキやヘドロの撤去には、早くて今年いっぱいかかるといいます。
「一か月でやれ!」と檄をとばす夏ばっぱ(宮本信子)。
「ウニは銭!同情するならウニ獲らせろだ!」吠える“メガネ会計ババア”ことかつ枝さん(木野花)。
いっそん「男がここまで言われて、動かないわけにいかないでしょ!」
アキ「いっそん、かっけー!」
いっそん「初かっけー、いただきましたー!」
みんな自分が出来ること、やるべきことに動き始めていました。
では、アキは何がしたいのか。
アキがしたいことは、被災した「海女カフェ」を復活させること、そして再びお座敷列車で歌うこと。
ユイと一緒に。
しかし、ユイは頑なに拒み続けます。
「海女カフェ」復活にはかなりの費用がかかり、現実的にはほぼ不可能といっていい状況でした。
或る晩、アキは一人で、廃墟となった海女カフェの中で佇んでいました。そこへ現れる人影。
その人物はなんと、アキの母親、春子(小泉今日子)の若き日の姿をしていたのです。
若春子(有村架純)はアキに、アキがレコーディングした「潮騒のメモリー」のCDの、ボロボロになったジャケットを手渡します。おそらくはガレキの中から拾い上げたものでしょう。
この時現れた若春子が何を意味しているのか、ずっと考えていました。
若春子が、歌手になれなかった春子の無念が生んだ生霊であるという解釈は、基本的には間違っていないでしょう。
しかしそれだけでは、この場に現れた意味がよくわからない。
若春子の生霊を目撃するのは、基本、アキだけなんです。
荒巻さん(古田新太)も目撃しましたが、それはアキの存在を通してのこと、アキの姿を通して若春子を目撃しているんです。
どうやらこの若春子。春子が生み出しているのではなく、アキ自身が生み出しているように思えます。
アキの前に若春子が現れ始めたのは、春子と鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の間の秘密をアキが知ってからです。正確には春子と鈴鹿ひろ美が、無頼鮨で「対決」して以降のことだったはず。
この「対決」シーンをよく見ていると、鈴鹿ひろ美が春子の秘密に気が付いているんじゃないか?というような表情をする箇所があるんです。
自分の歌として発売された「潮騒のメモリー」が、実は吹き替えられていたということは、おそらく最初から知っていたのでしょう。でも騙されたフリをしていた。一生騙され続けるつもりだった。
それがアキを通して、図らずもかつての「影武者」と対面してしまった。その時鈴鹿ひろ美の内面に生じた罪悪感。アキはそれを潜在意識で、というか魂の奥側で敏感に感じとったのではないでしょうか。ただそれは、あくまで魂の奥側で感じ取ったことで、表面的には気が付いていないんです。
若春子とは、そんな鈴鹿さんの罪悪感と、春子の無念とが、アキの中でミックスされて生み出されたものなのではないでしょうか。
つまりそれは、アキ自身の心の声なんです。春子と鈴鹿さんと、二人の間にあるものを昇華させて、ククリ合わせなさい、という心の声の表れなんです。
東京編でのアキの行動は、よく見ていると、この二人の心残りを昇華させ、ククリ合わせるための行動だったとしか思えないんですね。もちろんアキ自身は気が付いていないんですが、結果的にそうなっているんです。
そのククリ合わせの総仕上げが、「海女カフェ」での鈴鹿ひろ美リサイタル。
だから、その夜現れた若春子の生霊は、時空を超えたアキ自身のメッセージを伝えに来たんでしょう。「海女カフェ」を復活させて、鈴鹿ひろ美が「潮騒のメモリー」を生で歌うことで、すべてが昇華され、ククリ会されるんだよというメッセージを伝えに来たんです。
だから、がんばれと。
アキの一連の行動は、鈴鹿ひろ美や春子だけではなく、多くの人達を癒し、元気づけ、前向きにさせて行く。ユイもアキがいたからこそ、潮騒のメモリーズ再結成に前向きになれた。
生きている人間が実際に動かなければ、物事は動いて行かない。一人の少女の行動が、多くの人を、物事を動かして行き、さらには無念を抱いた魂をも昇華させていく。
これは拡大解釈すれば、生きている人間が前向きに歩み続ける姿こそが、死者たちの魂をも癒し、昇華成仏させていくという風にも解釈できます。
トンネルはまだまだ続く。問題は山積しており、実情は甘くない。なかなか先は見え難い。
それでも、トンネルの先の光へ向かって進み続けるしかない。トンネルを抜けても、その先のレールは途切れたままかもしれない。でもその途切れたレールにしたって、努力し続ければ必ず繋がる。
そしてそれは必ず、死者たちへの「鎮魂」へと繋がっていく。
苦難を越えて前向きに生きようとする人々を描きつつ、死者達の鎮魂も忘れていない。『あまちゃん』の世界観の深さを感じます。
3月11日。今日この日に、この記事を書かせて頂けたことを感謝します。
私が動かなければ、皆が動かなければ、なにも動かない。
一人一人に出来ることは小さくとも、それが積み重なることでおおきなうねりになっていく。
それを信じて、今日という日を越えて行きたい。
ありがとうございました。
「忠兵衛さんに引き合わせてくれた海が、家族におまんま食わせでくれた海が、一回や二回へそを曲げたくらいで、遠くへ逃げるべなんて、おら、ハナっから、そんな気持ちで、生きてねえ」
by夏ばっぱ