荻野洋一 映画等覚書ブログ

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オランダ 1-3 ロシア

2008-06-22 14:59:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、大会15日目。準々決勝3日目。
 思わずウームと呻かずにいられない試合だった。ロシアが劇的に進化しているのは、先日のスウェーデン戦を見ればわかる。

 だがそれにしてもこれは、背信行為ではないのか。グループリーグでのオランダは、ベスト8ではかなく散るには、あまりにも輝かしいフットボールを実践していた。それをこんな不完全燃焼で終わらせてしまうとは。

 敗因は本当にたくさん思い当たるけれど、あえてミクロなものを記しておきたい。早産の赤ん坊と死別するという悲劇に見舞われた右SBブーラルーズが緊急帰国からトンボ返りで舞い戻ってきて、ファン・バステン監督は彼をいきなりスタメンで起用した。悲壮な決意と共にピッチに立ったブーラルーズだろうが、ではなぜ後半9分という段階で交代させてしまったのか? 「とりあえず後半の頭まではがんばれよ」という事前の約束でもあったのか。
 ならばなぜオーイエルと、代わって入ったハイティンハとの間で右サイドのケアをめぐって、あんな無様な混乱が生じたのか? オーイエルは「だれか、俺の右をケアしろよ」と言わんばかりに自分の右側のスペースを指さした。だが、この交代からたったの2分後。一瞬の隙に無人検問所と化したオランダの右脇腹は、アルシャフィンのパスを受けたセマクにあっさりえぐられ、パヴリュチェンコの先制ゴールを許す形となってしまった。

 先発メンバーも交代メンバーも最後までペースに乗れず、ファン・バステン監督の采配も精彩を欠いた。やはりオランダのサッカーはどこかで不安定で、移ろいやすいものだった。今度こそ、魅せるサッカーで勝つという理想を実現させるのではないか、と期待させたが今となっては、敗残の夢遠く、だ。

 あとはスペインに、クアトロ・フゴーネスと2人の若き天才ストライカーに、フットボールの偉大な進化への希望を託したいところだが、それもなんだか、はかないものであるように思えてきた。『ラ・マンチャの男』でドン・キホーテが歌い上げる「はかない夢」だ。超一流のマタドールのごとく、イタリアという牛の突進を、あざやかな身のこなしでかわしつつ、一気呵成に急所を突いてもらいたいのだけれど。

クロアチア 1-1 (PK 1-3) トルコ

2008-06-21 21:58:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、大会14日目。準々決勝2日目。
 トルコが、またやってくれた! 今大会3度目のミラクルは、信じられない驚異だ。終了間際の劇的な同点ゴールは、鳥肌ものだ。

 クロアチア、トルコとも、冷涼な気候のバーゼルとジュネーヴをもっぱら舞台にして戦ってきた。準々決勝、初めて乗り込んだウィーンはもう夏本番の様相。この蒸し暑さと、連戦の疲労が両チーム選手の体力を前半から蝕み、試合は停滞を余儀なくされる。特にトルコは、これまで右サイドバックをつとめてきたハミト・アルトゥントップを、インサイドMFに起用したことが裏目に出、代わりに右サイドを担当したカズムとサブリがあまり機能せず、サイドの攻防は、プラニッチとラキティッチで左サイドを崩してくるクロアチアが完全に優位を保った。しかしそのクロアチアも、絶好の得点機を逸し続け、0-0で今大会初の延長戦へ。

 118分、土壇場で前試合のヒーロー、クラスニッチがゴールをもぎ取り、もうこれでタイムアップだろうと普通は考えるものだが、事がトルコだけに、私は「まだあるぞ!」と叫んでいた。そして、122分。まだ、あったのである。

ポルトガル 2-3 ドイツ

2008-06-20 15:15:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、大会13日目。準々決勝の初日。

 ドイツの先制点は、ポルトガルのお株を奪うような流れる展開から生まれた。ポドルスキーからバラック、バラックからまたポドルスキー、そのままポドルスキーがドリブル突破で左サイドをえぐり、グラウンダーの折り返し。2列目から走り込んできたシュヴァインシュタイガーがスライディングシュートを決めた。
 ドイツの首脳陣は、不調にあえぐFW陣と心中するのをやめて新たな戦略を用いたが、これが奏功した。これまでのボックス型4-4-2をあっさり撤回し、いわゆるACミラン型「クリスマスツリー」の変型(中盤は逆三角ではなく正三角形ではあったが)、つまりドイツ国内では「タネンバウム・ズィステム」と呼ばれる4-3-2-1フォーメーション。
 1トップのクローゼの後方左に今大会好調のポドルスキー、後方右に前試合レッド退場の汚名返上に燃えるシュヴァインシュタイガー。
 これで、マイボール時の後方からの追い越しの動き、バラックを頂点とする正三角形を基点にディアゴナルにボールを動かしていくことに成功していた。そして、これはポルトガルが本来なすべきことだった。

 その後のセットプレーからの追加点は一見、高さに勝るドイツお家芸の反復に見えるが、囮の動きをまじえつつ、フリーの受け手を作り出すなど、駆け引きの面でも、ポルトガルDF陣より頭脳的だった。
 ポルトガルは、ボジングワからの絶妙なクロスにジョアン・モウティーニョの惜しいシュートがあったり(足で撃つかヘッドで撃つか、一瞬迷ってしまったようだ)したが、どれも単発的だった。ポルトガルの選手たちはみな、抜けきる前にクロスやラストパスを上げてしまい、なおかつそれがフワリとした浮き球だったりすることが多く、ちょっときつかった。

 4年前には、決勝でギリシャに敗れて涙に暮れたクリスティアーノ・ロナウドだったが、今回は涙なくピッチを去っていった。その淡々としたバストショットにはむしろ、完敗を甘受している心情が表れていたように思える。
 もちろんそれは、前夜ロシア戦後のイブラヒモヴィッチが敵将ヒディンクとの抱擁の際に浮かべた冷笑のごとき、仲間の不甲斐なさに対する、育ちの悪い嘲笑的態度に比べれば、はるかに清雅なものであるが。

宵醒閑話: 忍び泣き

2008-06-19 01:07:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008の映像業務のため、毎晩、深夜の隅田川をそぞろ渡り、地下鉄に乗り込む日々が続いている。
 昨晩、下町の某駅で乗り換えようとしていると、駅構内にて携帯電話で話しながら忍び泣きしている女を見かけた。これが、渋谷や六本木、原宿のようにすっかり砂利餓鬼ご用達となり果てた街であれば、ごく日常的に見かける他愛ない光景だが、下町という土地柄、その忍び泣きの震えた声は、いささか凄惨な響きにも聞こえる。現代の東京下町は、このような凄惨さが色濃い土地柄となりつつあるように思える。衰退という現象も、ある程度の年数を過ぎるとひとつの色となるのだろうか? 階段でプラットフォームの方に降りながら、どんな顔の女か覗き込みたかったが、まあ一応やめておいた。

 プラットフォームに降りて白線の前に立つと、眼下の線路から「チュー!」という悲鳴が響き上がり、思わず後ずさりした。すぐに気を取り直して下を覗き込むと、案の定ネズミである。こげ茶の体毛と文字通りネズミ色の尻尾をした2匹ほどがじゃれ合いながら、チューチューチューチューと元気よく声を上げつつ線路脇を疾走している。このネズミの鳴き声と、階上にいた忍び泣きの女とが、深夜の静まりかえった大都市の地中で、好対照をなしている。

 そんな比較対照をしながら、茫漠たる思いで放送センターに到着する。
 茫漠たる思いは、徐々に氷解し、現実へと引き戻されていく。3時間ほどのち、連夜のゴラッソに絶叫を挙げている自分たちがいた。かかる私たちの生態は、どちらかというと、線路脇のチューチューチューに近似しているだろう。

フランス 0-2 イタリア

2008-06-18 11:40:00 | サッカー
 UEFA EURO 2008、11日目。
 
 いったい何なのだ、フランスの体たらくは! リベリ負傷退場の後はすっかり意気消沈し、アビダルがルカ・トーニを倒して退場となった後は、見るも無惨な姿を晒し続け、無策のまま大会から姿を消した。レーモン・ドメネクの不可解な長期政権もついに終わる。
 2006年ワールドカップでジダンが予想外に復活したりしつつ決勝まで行ってしまう、などといった諸要素によって、図らずも引き延ばされてきたフランス黄金時代終焉の、真のピリオドが、今朝打たれたのだ。あとは、暗黒時代への突入を回避すべく、協会挙げて奮闘努力しなければ、プラティニ引退後の険しい時代の二の舞となってしまう。

 一方、イタリアも決して褒められたものじゃない。イタリアらしいと言われればそれまでだが。
 これで準々決勝において、早くもスペインvsイタリア(D組1位vsC組2位)という組合せが実現してしまう。今大会、実に美しいサッカーを体現するスペインには、フットボールというジャンルそのものを擁護するために、勝ち残って準決勝で最強オランダと激突してほしいのだが、イタリア相手となるとかなり嫌な予感がする。