荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『SP 野望篇』 波多野貴文

2011-01-03 21:46:11 | 映画
 わさわさと理不尽なほど大勢の群衆が、幾重もの人壁をつくり、要人暗殺の未遂犯(丸山智己)とSPの主人公(岡田准一)の捕り物に、障害物競走のようなゲーム性を付加するために協力している。六本木ヒルズ周辺であるとか麻布界隈であるとかに、これほどの人垣ができるということじたい不自然なことだ、などとぶつくさ考えながらスクリーンを漫然と見つめ続けていると、今度はみるみるうちに、画面内から人の姿がなくなっていく。北朝鮮の弾道ミサイルが発射されても、内閣官房長官が何度もテロリストに狙われても、国会議事堂前で派手な市街戦が勃発しても、東京の街は不気味なほどに寝静まったままだ。
 東京はもう目覚めない。クライマックスのさなか、駐車した二輪車の陰で、酔っ払いが寝そべっている光景をカメラがとらえた時、画面はまさにそうつぶやいているのである。画面の内部に人らしい人が現れなくなり、『ウルトラミラクルラブストーリー』の青森の寒村とさして変わらぬ人口密度となっていく。いや、あれ以上に人がいないだろう。ラストシーンで夜の闇を鋭く見つめる大鴉だけが、主人公とスナイパーのあいだの空虚を埋める。私は、これはどうせ『殺しの烙印』をやるのだろうと予想したのだが、はたしてこの大鴉、何もしてくれなかった。
 こういうのを「理屈抜きのエンタメ」などと口々に噂しながら劇場に駆けつけてくれるのだから、お客というのは本当に「神々」の変態なのかもしれぬ。だが私には、私自身も含め、上映後に一斉に立ち上がる「神々」の変態たる観客たちが、フィクションの中のエキストラとして、抽象的な時空間に吸い込まれていくようにも感じられたのである。


TOHOシネマズ シャンテほか全国各地でMO
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