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荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『誤発弾』 ユ・ヒョンモク(兪賢穆)

2015-06-28 01:26:32 | 映画
 韓国文化院(東京・四谷)で一週間にわたって開催された〈1960・70年代日韓名作映画祭〉は、開幕日に『糞礼記』(1971)、会期最終日に『誤発弾』(1961)と、まさにユ・ヒョンモクに始まり、ユ・ヒョンモクに終わったイベントであった。両ユ作品以外では、シン・サンオク『ロマンスパパ』(1960)、既見作品ではハ・ギルチョン『馬鹿たちの行進』(1975)を再見したもののイ・ジャンホ『星たちの故郷』、キム・ギヨン『下女』は回避した。イ・マニの遺作『森浦への道』(1975)をスケジュールの都合で逸したのは痛かった。生きているうちに『森浦への道』を見る機会は再びやって来るだろうか? たとえば私が最初に『馬鹿たちの行進』を見た時から現在までの年数を、私がこれから生きるとは思えないから…。
 ユ・ヒョンモクク(兪賢穆 1925-2009)の『誤発弾』は、朝鮮戦争の帰還兵たちがソウルでの市民生活に適応できない、そういう男たちがバーのような雀荘のようなところでうだうだしている、そのメランコリーで胸が痛くなってくる。彼らはひがな一日を酒に酔ったまま過ごし、定職に就く者は誰もいない。彼らのうちの一人に恋をした娘にもメランコリーが伝染し、売春婦に身をやつしていく。この娘の兄は安月給のサラリーマンで、母は狂気の世界に生きている。兄嫁は分娩時に出血多量で死ぬ。弟の帰還兵はずさんな銀行強盗を試み、失敗する。
 母が狂い、弟が銀行強盗で逮捕され、妹が売春に走り、妻が産婦人科で死ぬ。安月給のサラリーマンの身にいっぺんに降りかかる不幸の連鎖。「いくらなんでもこんなことある?」という疑問は、観客の誰もが抱くだろうが、それにしてもユ・ヒョンモクの、不幸に絡めとられるにまかせた、集中したマゾヒズムに呆気にとられたまま、眺めることしかできない。
 留置された弟に面会するために警察署に行き、妻の死顔に会うためにソウル大学病院の霊安室に行ったあと、彼はなぜか、ずっと痛んでいた親知らずを抜歯するために歯科医に行く。彼はタクシーに乗車して警察署に戻ってみたり、ソウル大学病院に戻ってみたり、行き先が定まらない。タクシー運転手が言う「誤発弾みたいな客だ」というセリフ。それはまるで、ロベルト・ロッセリーニの悲愴なる傑作『ドイツ零年』(1948)ラスト、父を殺してしまった主人公の少年のあてどない絶望的なベルリン徘徊を思い出させるものだった。


韓国文化院(東京・四谷)の〈1960・70年代日韓名作映画祭〉にて上映
http://www.koreanculture.jp/


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1 コメント

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森浦へ行く道 (のびのび太)
2017-01-22 13:00:12
 映画は大きなスクリーンで見なければならない、とお考えであれば別ですが、韓国映像資料院が過去の韓国映画を無料で(しかも英語字幕付きで)インターネット上で公開しております。「森浦への道」はhttps://www.youtube.com/watch?v=Drz_bK4GkTE で視聴可能です。
 一覧はhttps://www.youtube.com/user/KoreanFilm/videosで。
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