シネマヴェーラ渋谷の千葉泰樹特集で『二人の息子』(1961)を初見。かねてより1960年代千葉では屈指の作品と友人から聞かされていたが、噂にたがわぬ素晴らしい作品だった。
すでに暗くなっているヴェーラの場内に入り、急いで席に座ると、流れてくるのは数秒で伊福部昭とわかる音楽。ざっと「日本映画データベース」で検索しただけだが、本作が公開された1961年11月に伊福部昭が音楽を担当した作品は、11/1 三隅研次『釈迦』、11/8 伊藤大輔『反逆児』、11/12 千葉泰樹『二人の息子』と続いている。なんだろう、このすごさは。さらに翌年2/21には三隅研次『婦系図』、4/18 三隅『座頭市物語』、6/10 田坂具隆『ちいさこべ』もやっている。あまりにも偉大な音楽家である。その年の夏休みには当然『キングコング対ゴジラ』もある。
一家の父の藤原釜足が嘱託の裁判所勤めをクビになったことから、長男・宝田明、次男・加山雄三、末っ子の藤山陽子の人生も狂わせていく。
藤山陽子に捨てられて傷心の田浦正巳がカード占いで凶を引いて、やはりこれは悲劇に終わるのかと観客を不安にさせるのがいい。エリート社員の不誠実さに愛想を尽かし、元の鞘におさまって、貧しいながらも幸福をつかむ女性──というシナリオになるケースは多いが、今回、東宝の通常メジャー作品であっても、松山善三の筆は酷薄さをどこまでも失わない。
はるか以前、シネフィリー全盛期に成瀬巳喜男の『乱れる』について、「松山善三のシナリオなのにすごい」とか「加山雄三でさえすごく見える」とかいう話がシネフィルのあいだで飛び交ったりしたのだが、そういう痛快な皮肉は『二人の息子』の前にあえなく否定される。田浦正巳の結末は凄惨である。
この凄惨さ、私の勝手な連想に過ぎないのだけれど、昨夏に韓国文化院で見たユ・ヒョンモク(兪賢穆)の『誤発弾』に似通っていると思った。偶然にも同じ1961年の作品である。ソウルの貧困家庭を襲う不幸の連鎖。起こることの悲惨さ、救いのなさでは『誤発弾』に軍配が上がるが、画面から漂うエグミみたいなものは共通している気がする。作風が同じとか同時代性とかそういうことではまったくないのだけれど。
シネマヴェーラ渋谷(東京・渋谷円山町)千葉泰樹特集は4/22まで開催
http://www.cinemavera.com/
すでに暗くなっているヴェーラの場内に入り、急いで席に座ると、流れてくるのは数秒で伊福部昭とわかる音楽。ざっと「日本映画データベース」で検索しただけだが、本作が公開された1961年11月に伊福部昭が音楽を担当した作品は、11/1 三隅研次『釈迦』、11/8 伊藤大輔『反逆児』、11/12 千葉泰樹『二人の息子』と続いている。なんだろう、このすごさは。さらに翌年2/21には三隅研次『婦系図』、4/18 三隅『座頭市物語』、6/10 田坂具隆『ちいさこべ』もやっている。あまりにも偉大な音楽家である。その年の夏休みには当然『キングコング対ゴジラ』もある。
一家の父の藤原釜足が嘱託の裁判所勤めをクビになったことから、長男・宝田明、次男・加山雄三、末っ子の藤山陽子の人生も狂わせていく。
藤山陽子に捨てられて傷心の田浦正巳がカード占いで凶を引いて、やはりこれは悲劇に終わるのかと観客を不安にさせるのがいい。エリート社員の不誠実さに愛想を尽かし、元の鞘におさまって、貧しいながらも幸福をつかむ女性──というシナリオになるケースは多いが、今回、東宝の通常メジャー作品であっても、松山善三の筆は酷薄さをどこまでも失わない。
はるか以前、シネフィリー全盛期に成瀬巳喜男の『乱れる』について、「松山善三のシナリオなのにすごい」とか「加山雄三でさえすごく見える」とかいう話がシネフィルのあいだで飛び交ったりしたのだが、そういう痛快な皮肉は『二人の息子』の前にあえなく否定される。田浦正巳の結末は凄惨である。
この凄惨さ、私の勝手な連想に過ぎないのだけれど、昨夏に韓国文化院で見たユ・ヒョンモク(兪賢穆)の『誤発弾』に似通っていると思った。偶然にも同じ1961年の作品である。ソウルの貧困家庭を襲う不幸の連鎖。起こることの悲惨さ、救いのなさでは『誤発弾』に軍配が上がるが、画面から漂うエグミみたいなものは共通している気がする。作風が同じとか同時代性とかそういうことではまったくないのだけれど。
シネマヴェーラ渋谷(東京・渋谷円山町)千葉泰樹特集は4/22まで開催
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「リュミエール」誌における松林宗恵監督インタビューのことはよく覚えております。監督がゆたかな白髭と共に福々しい笑顔を見せた掲載写真が印象的でした。あのインタビューがきっかけで松林宗恵もちゃんと見なければと教えられました。同誌はいま、全巻が実家にあるので、次回に実家に寄った折にピックアップして再読したく思っております。
彼女は、自分には親兄弟がいないから「その方がさっぱりするわね」と自嘲していましたから、天涯孤独な戦災孤児なのかもしれませんね。そんな彼女が水商売から主婦になり、自分の城を守ることに専心していたのに、いま、夫が弟のために金を渡すという、未知の体験をしているのでしょうね。