荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『国際シンポジウム溝口健二没後50年「MIZOGUCHI2006」の記録』(朝日選書)

2007-06-27 04:29:00 | 
 人が虚心坦懐に、ある作り手を賞讃するという行為は何と、それを読む読み手を快くさせてくれるのだろうか。それは、おととしに刊行された『現代映画講義』(青土社)の書評を頼まれたときにも書いたことがあるが、批評の基本そのものである。

 そんなことは当たり前ではないか、という声が聞こえてくるようだが、賞讃とはそれほど容易な行為ではなく、それ相応の実力というものが必要だ。『現代映画講義』のパネラー出席者たちの言動には、それ自体に賞讃という行為の模範的な虚心坦懐さというものが見いだせた。

 その点で本書『国際シンポジウム溝口健二~』(朝日新聞社刊)は、『現代映画講義』の大部分の発言より質という点で少し劣るかもしれない。だが、私が読んだ限りの判断ではあるが、さすが阿部和重の語る溝口評は、口頭でなされたものとしては一等地を抜け、他の発言者の質を圧倒している。流石と言わなければならない。もちろん、ビクトル・エリセの個人体験談はちょっと誰も近寄れない輝きを放っているが、阿部発言はそうした特権性をまったく駆使していない点が素晴らしい。

 とはいえ、山崎貴、井口奈己といった新進作家たちも、その場に立てばそれなりに堂に入った言葉を紡いでしまうのだから、作り手たちというものは、やはり見上げたものだ。

シンポジウム出席者の氏名:蓮實重彦/山根貞男/阿部和重/井口奈己/山崎貴/田中徳三/ジャン・ドゥーシェ/ビクトル・エリセ/賈樟柯(ジャ・ジャンクー)/香川京子/若尾文子


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