荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ローン・サバイバー』 ピーター・バーグ

2014-04-10 00:13:24 | 映画
 アメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズが、アフガニスタンの山地でタリバンの幹部を暗殺する計画を実行し、ひょんな運命のいたずらから作戦が無惨に失敗していくさまを、単調さということをまるで恐れていないかのごとく、夥しいカットを畳みかけながら辿っていく。
 どちらかというと軽薄な作風が魅力と言えば言えなくもない作り手であるピーター・バーグだけに、受け手としては、画面に漲る生真面目な緊張感に対して眉に唾をつけたくなるのが人情ではないだろうか。本作でタフな隊員を演じたベン・フォスターとは、本作を見た一週間後、愛すべき作品『セインツ 約束の果て』で再会することになる。マイケル・チミノ『ディア・ハンター』のロバート・デ・ニーロばりにあご髭をたくわえつつ、夫不在の母子家庭にしけ込む警官を演じていたのだが、これには、なにやら知り合ったばかりの友に、予想せぬ場所で再会してしまったかのような感慨をもよおした。
 この『ローン・サバイバー』を強力に定義づけるのは、『シン・レッド・ライン』や『父親たちの星条旗』と同様、山地での軍事行動に避けられぬ斜面という空間性が突きつける恐怖である。銃撃戦にしろ、追撃にしろ、斜面においては上側の軍にくらべて下側で退却を余儀なくされる軍は、圧倒的な不利で悲惨な敗戦を強いられる。ネイビーシールズはこの斜面の下側で退却に次ぐ退却を続けるほかはなく、それがこの映画がやっていることのすべてと言っていい。
 彼らは下から上に向かって抗戦することで、重力の受難を甘受しなければならないし、一足跳びの敵前逃亡を図って崖から飛び降りるという無茶な作戦を実行すれば、当然彼らの身体は深刻なダメージを被る。おそらく、笑っては失礼だが、アメリカ海軍の訓練メニューには、絶体絶命の事態において高所からの飛び降りというものも含まれているのであろう。


TOHOシネマズ日本橋(三越前)、シネスクとうきゅう(新宿歌舞伎町)ほか全国で公開中
http://lonesurvivor.jp


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