荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『花荻先生と三太』 鈴木英夫

2014-10-18 04:27:19 | 映画
 劇団民藝が映画の自主製作に積極的に乗り出していた時代がある。近代映協などの協力を得ながら、1950年代初頭からずいぶん作っている。50年代終わりごろには日活への団員貸し出しが多忙となり、自主製作のほうは途絶えてしまう。
 なかんずく、神保町シアターで開催中の《生誕100年記念 宇野重吉と民藝の名優たち》で上映された鈴木英夫監督の『花荻先生と三太』(1952)は初期に作られたもので、これは隠れた逸品であった。田舎に赴任した女教師と生徒たちの愉しい日々を綴るという点で、のちの中川信夫『青ヶ島の子供たち 女教師の記録』(1955)、清水宏『しいのみ学園』(1955)、田坂具隆『はだかっ子』(1961)を予告した内容だ。しかも『はだかっ子』以外のすべてに宇野重吉は出演していて、いずれも校長や園長、村長といった役どころである。今回の場合、田舎といっても神奈川の相模湖なのだが、1950年代初頭の相模地区は完全に地方の村落である。
 映画評論家の大黒 “えんま帳” 東洋士がシナリオを書いているのが興味深い。また、撮影を渡辺公夫が担当していて、アップ&ダウンの激しいロケーションのなかで子どもたちの運動感を出していく画面が、じつにすばらしい。私は市川崑『日本橋』、衣笠貞之助『白鷺』、三島由紀夫『憂国』など渡辺公夫の撮影が大好きで、これほど白黒とカラーの双方に長けたカメラマンは、なかなかいまい。そんな渡辺の初期作品である今作を見て、あらためてこの人の才能を確認した次第だ。

 だが、最もすばらしいのは、女教師役の津村悠子の清新な美しさである。上写真の「毎日グラフ」はグラフ雑誌のくせに、ちっともこの女優の良さを撮れていないようである。当初、生徒たちは新任の先公をいじめて追い出してやれなどと打ち合わせしていたのだが、赴任初日に、津村悠子がスカートを太ももあたりまでズルッとめくってみせるバックショットが飛び出し、あれで男子生徒も女子生徒もノックアウトと相成る。ノックアウトを喰らったのは生徒だけでなく、われわれ観客も同様である。
 民藝の新人として大抜擢の主演となったが、Googleで検索したら、津村悠子のその後の映画出演は数えるほど。民藝の上演記録を辿ってみると、コンスタントに役が付いているので、活動はもっぱら舞台となった模様。ところが、1955年3月~4月にTOMさん(村山知義)が演出したシラー『ヴィルヘルム・テル』を最後に民藝のリストからも名前が見られなくなる。念のため、1961年上演の『火山灰地』を録画したDVDをざっと見直してみたが、少なくともメインキャストに彼女の顔は見えなかった。そうなるとNHKのアーカイヴにも、彼女の舞台映像は残っていないものと思われる。


神保町シアター(東京・神田)で《生誕100年記念 宇野重吉と民藝の名優たち》開催中
http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/


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2 コメント

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津村悠子 (ヒマな人)
2015-10-29 10:06:06
TVですが「図々しい奴」(その4)というTBSドラマに出演していました。
10年位前にCS放送で録画したものを久しぶりで観ていたら見つけました。
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図々しい奴 (中洲居士)
2015-11-01 11:45:03
TBSの『図々しい奴』というドラマに出ていたのですか。1963年ですか。そのドラマは見たことがありません。柴田錬三郎を東宝と東映が競作映画化してもいるんですね。それも見ていません。

貴重な情報、ありがとうございました!
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