荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『最強のふたり』 エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ

2012-10-05 01:54:06 | 映画
 フランスで1/3の人が見たというデータが景気づけにやたらと伝えられているが、日本最高の『千と千尋の神隠し』(2001)でさえ日本国内の1/5であることを考えると、作品としての価値以前にまず、映画というジャンルの社会的認知にこれほど貢献した例は稀だという点だけで特筆に値する。
 そして、こうした商業的に大成功する美談にありがちなことだが、ウェルメイドな手つきとはいえ、すべてが単純な解答のみを求める。一方は全身麻痺した白人の大富豪、もう一方は無職の黒人青年。一方はパリ中心部の高級アパルトマン、もう一方はバンリュー(周縁部)の貧困層用公営住宅。クラシック音楽とアメリカ製ブラック・ミュージック。高級スーツとスウェット。文字どおり「白黒」のはっきりした世界だ。しかもそれは、「実話」という最強のエクスキューズに支えられてもいる。
 黒人は白人の付き添いでオペラ座の座席に着いたものの、開演と同時にあまりの退屈さ、大仰な衣裳とベルカント唱法の滑稽さを笑い飛ばしてみせる。いくらスラム育ちの黒人だからといって初めてオペラを知ったかのような過剰反応。ずいぶんと陳腐なシーンだった。これと対比的にたのしく奏でられるのが、もっぱらクール&ザ・ギャングやアース・ウィンド&ファイアーといったブラック・ミュージックの有名ナンバーであるが、白人でも理解可能で、なおかつレトロ趣味のディスコ音源が防御的に選ばれている。「招かれざる客」に見せかけつつ白人社会に受容されうる黒人像の雛型が、「実話」という名の最強のエクスキューズと共に単純明快に彫り起こされたのである。
 これだけが商業的成功の要因ではないだろう。だが驚かされるのは、いまだこのようなクリシェときまじめに格闘せねばならぬほど世界が変わっていないということだ。


TOHOシネマズシャンテ(東京・日比谷)ほか全国で公開中
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