荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

阮玲玉の旧居をたずねる

2012-07-18 01:53:40 | 身辺雑記
 蘇州から上海に帰ってきた翌日となるきのう、夕方2時間ほどのあいだに、気になる故人の旧居を急いでたずね歩くことにした。

 1920年代末から30年代に活躍した上海映画の女優・阮玲玉(1910-1935)の旧居は、上海市静安区の「名人名居文化游 A線」に指定されている。地下鉄1号線「漢中路」駅で下車し、恒豊路を南下。そのまま高架橋で呉淞江という川を渡り、大閘路で右折。東京の同潤会を彷彿させる「沁園邨」(1932年建造)という古風で静謐な数棟のアパート群のなかに、阮玲玉の旧居はあった。敷地との境界線にはアーチが設けられ守衛も駐在しているが、私が入っていっても咎められることはない。この「沁園邨」には、双子女優で知られる梁賽珍、梁賽珠姉妹も住んでいたが、姉妹の部屋は「名人名居文化游」に指定されてはいない。
 阮玲玉というと、スタンリー・クワン監督の伝記的ドキュドラマ『ロアン・リンユィ 阮玲玉』(1991)でマギー・チャンが力演した民国時代の最大のスターであるが、異性関係のスキャンダルが報じられるなか、「人の言葉はおそろしい」の遺書をのこして1935年3月7日夜、この「沁園邨」9号の自室にて睡眠薬自殺を遂げた。享年24。

 夕闇迫るなか、日没前にアパートに辿り着きたいとあせったが、ぎりぎり間に合ったか。高層ビルがニョキニョキとそびえ立つ周囲のなかで、このアパート群だけはあたかも阮玲玉の高潔なる亡霊に守られるようにして、時間の止まったように静謐に往時の面影を残していた。「名人名居文化游」の記念プレートは埋め込まれているが、とくに記念館めいた事業が展開されているわけでもなく、そこには現在の住人が普通に暮らしている。
 私がパチパチと、角度を変えながら何度もカメラのシャッターを押していると、道行く人が私の視線の先に何が見えるのかと不思議そうに目で追いながら、通り過ぎていった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿