荻野洋一 映画等覚書ブログ

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蘇州にて

2012-07-16 00:44:02 | 身辺雑記
 上海を経由して陸路、江蘇省の蘇州市に来ている。
 蘇州といえば日本人にはなんといっても、李香蘭主演・伏水修監督の佳作『支那の夜』(1940)の劇中歌「蘇州夜曲」だが、2002年に田壮壮がリメイクした中国映画史上最高傑作のひとつ『小城之春』(1948 監督・費穆)における運河を滑っていく舟から見た緩やかな横移動ショットが思い出される。山村聰の『鹿島灘の女』(1959)ではないが、水郷とはなんと良いものであろうか。
 前にも拙ブログに引用したことがあったかもしれないが、呉中四傑のひとり高啓(1336-1374)の詩《尋胡隠君》が思わず口をついて出てしまう。春の散歩を詠った季節はずれの詩ではあるが、簡単だからすぐに暗記できる。

尋胡隠君  高啓(明初)

渡水復渡水
看花還看花
春風江上路
不覺到君家

(読み下し)
水を渡り また水を渡り
花をみ また花をみる
春風江上の路
覚えず君が家に到る

 ここで言う「君家」というのは決して女の家ではないのである。詩・画・書について遠慮なく話し合える親友を意味している。高啓がふらふらと水辺を散歩していたら、いつのまにか親友の住まいに着いてしまった。おそらくその手には、上等な酒瓶が吊り下げられていたことだろう。すばらしいイメージの緩やかな移動感である。きょう私は、水路を滑る小舟に乗りながら、それをまさに体感した。


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