ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ワタシノコトヲ、シッテイマスカ?

2020-11-07 00:33:00 | 日記
もし
知らない人たちに囲まれて
朝も昼も夜もない
色も音も匂いもない世界で
自分の存在さえわからなくなってしまったら…
それはどんなに怖いことだろう。

チエミは今、そんな世界にいるのかもしれない。

チエミは80歳。
2年前にウチに入居してきたときは軽い認知症を患う程度だったが
大腿骨を骨折して入院してからというもの
坂道を転がるがの如く崩壊しはじめた。

言葉は支離滅裂で、字も読めない。
昼夜を問わず裸足で建物内を徘徊し
自分の名前すら忘れてしまった。

周囲は彼女の奇異な言動を嘲り、ときに怒鳴りつける。
それがますます、症状を加速させてしまったのだろう。

認知症の進行過程でよく見られる、不安と恐怖。

チエミも人を捕まえては
「ワタシハドウシタライイノ?」
「ワタシハバカニナッチャッタノ?」と問いかけるようになった。

なんとかしてあげたい。

話を聞いたりアクティビティに参加させたり
かつて趣味としていた編み物をさせてみたり
出来る限りのことはやっている。
でも、どれも効果なし。
夫もすでに亡くなり、もともと子供もいなかったので
家族の支援すら受けられない。

彼女を救う手立てが見つからないのだ。

そしてきのうのこと。

唯一の救いらしい事務所の扉を叩いて、彼女が言った。

「ワタシノコトヲ、シッテイマスカ?」

勤めはじめてから8年。
こんなに悲しい言葉を聞いたことはない。
彼女は人に尋ねることで
自分の存在を確かめようとしているのだ。

知らない人たちに囲まれて
朝も昼も夜もない
色も音も匂いもない世界で
自分の存在さえわからなくなってしまったら…
それはどんなに怖いことだろう。

不謹慎であると承知で神様に願う。

チエミを天国に連れて行ってあげてください。








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