そのとき、バアさんたちは乙女に還った。
施設のイベントとして
グッディーズという4人組の若いバンドを招き
ミニライブをやってもらった日のことである。
グッディーズは普段は今どきの音楽をやっているが
求められればボランティアで介護施設を回ることもあるらしく
そんな時は昭和歌謡のオンパレードを披露してくれる。
五番街のマリー
愛燦燦
津軽海峡冬景色
釜山港へ帰れ
バイオリンを含めた演奏もなかなかだし
ヴォーカルの甘い歌声も昭和歌謡によくハマる。
何よりバアさんたちに向けるかわいくて人懐こい笑顔
これがなんとも魅力的だ。
私は記録係として動画撮影をしていたのだが
その被写体は、途中から
グッディーズではなくバアさんたちになる。
だって、普段は無表情のカヨコも
寂しそうにしている認知症のレイコも
認知症を虐めている偉そうなサツキも
みんな、その目が恋する乙女になっているんだもの。
こんな表情、見たことない!
こんな輝いた目、見たことない!
嬉しくて嬉しくて、私は彼女たちの笑顔を撮影し続けたのだった。
段取りでは
いったんはけた彼らがアンコールで再び登場する時
バアさんたちの席を回ることになっており
その時、直前に持たせておいた花を
バアさんたちが彼らに手渡すことになっていた。
いい? お兄さんたちが戻ってきて席に近づいてきたら
この花を渡してね。
ところが感極まったバアさんたちはすっかり段取りを忘れ
アンコールが始まる前に立ち上がってしまう。
仮設ステージからいったん去ろうとしている彼らを追いかけるように
花を持って立ち上がってしまう。
車椅子のタエコやトシコまで
思わずヨロヨロ立ち上がろうとしてしまう。
バンドの追っかけをする女子と同じような行動をするバアさんたちに
戸惑いながらも胸を熱くした。
ああ、この人たち、ときめいてるんだ。
この人たちの心に、まだ、乙女が残っているんだ。
グッディーズの皆さん、本当にありがとう。
あなたたちの歌と演奏で
ウチのバアさんたち
1時間だけ乙女に還ることができました。