ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

86歳のビリー・ミリガン

2018-11-20 23:12:31 | 日記
若い頃、ダニエル・キイスの本にはまった。
「アルジャーノンに花束を」は名作で
もちろん面白かったけれど
多重人格を描いた「24人のビリー・ミリガン」を読んだときの衝撃は
今でも忘れられない。

多重人格(解離性同一障害)。

そんなことがホントにあるのか?
一人の人間の中にいくつもの人格が存在するなんて
そんなことありえるのか?

あれからウン十年。
すっかり忘れていたが
認知症が悪化するユキエを見ていて、久しぶりに思い出した。

通常のユキエは人懐こく世話好きなオバアチャンだが
ふいに人格の変化を見せる。

あるときは悲しい表情を浮かべ
「お母さんが怖くて帰りたくないの」と
夜中に建物内を徘徊し
あるときは険しい表情で
「あの野郎、頭にくるんだよ」と
蓮っ葉な言葉を繰り返し
あるときは晴れやかな顔で
「これから卒業式なの」と
一張羅の黒いブレザーを着て部屋から出てくる。

この間は私がヘアスタイルを変えたのを見て
「お姉さんキレイ!
私も大きくなったら美容院に行くんだ」と
弾むような声で言っていたっけ。

そしてきのう…
なかなか朝食を食べにこないので迎えに行くと
胃がムカムカするという。

普段は痛みや不調を訴えることがないので
本気で心配した。
吐き気はある? お通じは?

しかしそんな心配をヨソに
彼女はとんでもないことを言った。
「ほら、私、妊娠してるじゃない?
つわりだから、仕方ないのよね」

おおい、お前はもう90に近いんだぞーーー!

認知症が進んでいるのだと思っていた。
が、もしかしたら、もしかしたら
ユキエは日本のビリー・ミリガンなのかもしれない。