93歳のHさん(女性)は
夕食時に介助によって食堂に出てくる以外、寝たきりの生活。
口だけはお達者で驚くほどウィットに富んだジョークを飛ばすが
自力で起き上がったり歩いたりする体力はない。
そのHさんが、近頃ますます弱ってきた。
2週間ほど前、呼びかけにもまったく反応しなくなって
急遽ドクターに往診を依頼したところ
「一時的な脳虚血」とのこと。
いますぐ危ういということではないらしく
その後まもなく元に戻ったので安心していたのだが…
おとといの私の夜勤中に、またしても同じ状態に陥った。
Hさん、Hさ~ん!
どんなに呼びかけても、肩をたたいても
目を開けず、言葉も発しない。
呼吸は規則正しく脈も正常だったので
この間と同じ状態なのだろうと慌てることなく
家族に報告の電話だけして様子を見ることにした。
その後2回部屋を訪ねたが反応はなく
いつまでこの状態が続くのかといささか不安になる。
そして夜間3回目の訪室。
恐る恐るベッドに近づき、顔を覗き込む。
すると
「あ、オンタイ…」
寝ぼけた感じの頼りない口調だが、それでも
喋った~!
帰ってきた~!
バンザ~イ!!!
実はこの「オンタイ」(御大)というのは
彼女だけが使う私のニックネームである。
説明するまでもないだろうが、“御大”とは“御大将”の略である。
何ゆえ私をそう呼ぶのか。
一度たずねたら「だって、御大は御大だからよ」とのこと。
弱った老婆を子分扱いしていると誤解されそうだが
決してそういうことではない。
私はまだ、そこまで腐ってはいない。
とにもかくにも
彼女は一時的な脳虚血状態から生還し
私の顔を見て開口一番、「オンタイ」と言った。
そしてにこっと微笑んだ。
このときの「オンタイ」ほど、嬉しく耳に響いたことはない。
夕食時に介助によって食堂に出てくる以外、寝たきりの生活。
口だけはお達者で驚くほどウィットに富んだジョークを飛ばすが
自力で起き上がったり歩いたりする体力はない。
そのHさんが、近頃ますます弱ってきた。
2週間ほど前、呼びかけにもまったく反応しなくなって
急遽ドクターに往診を依頼したところ
「一時的な脳虚血」とのこと。
いますぐ危ういということではないらしく
その後まもなく元に戻ったので安心していたのだが…
おとといの私の夜勤中に、またしても同じ状態に陥った。
Hさん、Hさ~ん!
どんなに呼びかけても、肩をたたいても
目を開けず、言葉も発しない。
呼吸は規則正しく脈も正常だったので
この間と同じ状態なのだろうと慌てることなく
家族に報告の電話だけして様子を見ることにした。
その後2回部屋を訪ねたが反応はなく
いつまでこの状態が続くのかといささか不安になる。
そして夜間3回目の訪室。
恐る恐るベッドに近づき、顔を覗き込む。
すると
「あ、オンタイ…」
寝ぼけた感じの頼りない口調だが、それでも
喋った~!
帰ってきた~!
バンザ~イ!!!
実はこの「オンタイ」(御大)というのは
彼女だけが使う私のニックネームである。
説明するまでもないだろうが、“御大”とは“御大将”の略である。
何ゆえ私をそう呼ぶのか。
一度たずねたら「だって、御大は御大だからよ」とのこと。
弱った老婆を子分扱いしていると誤解されそうだが
決してそういうことではない。
私はまだ、そこまで腐ってはいない。
とにもかくにも
彼女は一時的な脳虚血状態から生還し
私の顔を見て開口一番、「オンタイ」と言った。
そしてにこっと微笑んだ。
このときの「オンタイ」ほど、嬉しく耳に響いたことはない。