
台風は去ったというのに空模様は変らず、きょうも曇天が続いている。久しぶりに霧の中から鳥の声が聞こえてくるが天気は下り坂のようで、この分だと雨になるかも知れない。気温は暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい。
囲い罠の中にはまだ1頭だけ鹿がいる。あの鹿は、罠のゲートが開いているのを知っていながら逃げていくことができないでいるのだ。上から落ちてくる所謂「断頭台型式」のゲートに対してはどの鹿もかなり警戒するが、この鹿は特に臆病のようで、ゲートの近くまで行っても未だに決心できないでいる。
アレが中にいる間は罠を仕掛けるのを控えてきたが、いつまでもそうしているわけにもいかなくなってきた。きょうあたり、追い出すしかないだろう。
あの鹿が誘引用の塩を目当てに仕掛けに接触しただけてもゲートは落ち、罠は閉じてしまう。そうなれば、捕獲したも同然のたった1頭の獲物にさらに罠を仕掛けたことになり、その結果は他の鹿の捕獲の機会を封じてしまうことになる。ましてや、たった1頭の邪魔ものを始末するために、下から鉄砲撃ちにお越しを願うことなどできない相談でもある。
また一段と霧が濃くなってきた。鳥の声もしなくなった。マルバタケブキの黄色い花だけが見通しの効かない灰色の空間に目立って、時間があの霧のようにゆっくりと流れていく。
先程からずっと名前を思い出せないでいたが、イタドリの葉が少し色付き始めているのに気付いた。落葉松の木はそろそろ水の吸い上げを止めるようになるだろうし、盆が過ぎたから、里を流れる天竜川の川面もその色を変え、何となく流れの音も寂しく聞こえるようになるはずだ。
そう言えば、先日里へ下った時、松倉の集落でたくさんのコスモスの花が咲いているのを目にした。いつもの秋ならその花を廃屋の目立つ芝平の谷で目にするのだが、6月の大雨以来、あの集落を抜けてオオダオ(芝平峠)へ通じる道は通行できなくなってしまった。この秋は一つの馴染んだ風景が消えてしまう。
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本日はこの辺で。