入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’19年「春」 (19)

2019年03月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 南アルプス、就中仙丈岳に見送られて上京し、また迎えられて帰ってきた。これまでだと、新宿駅の雑踏の中を歩いているうちにいつの間にか、あの街でずっと暮らしながら、毎日同じことを繰り返していたような錯覚に陥ったものだが、今回はそうではなかった。人生の半分以上を暮らしたわけだが、さすがにそれからすでに15年もの年月が経ち、何だか他所の土地に来たようで、懐かしさも、親しみも消えて、東京は他人行儀な印象の薄い街になってしまっていた。
 会いたいと思っていて、会えた人もいれば、手違いで会えなかった人もいた。急な事情で、当初の予定を1週間ばかり早めたことで、連絡するのを断念せざるを得なかったということもあった。それでも、それは仕方ないと、淡々と受け入れた。人ばかりではなく、行ってみたい場所も幾つかあることはあったが、わざわざ電車に乗ってまで訪ねていく気にはならなかった。ただ今回も、いつも行く靖国神社と上野の森だけは一人で出掛け、精神的な義理のようなものを果たしておいた。あの二か所だけは穏やかな幾つかの記憶が、初夏を思わせる陽気の中に変わらずに待っていてくれ、久闊を語るようにしばしの時を過ごせた。桜の開花宣言は翌日だったらしい。

 今回もFMZ君には特段の世話になった。本郷の寿司屋ではマグロを一貫しか食べず、四谷のホテルの中華料理店でもあまり箸を付けなかった、とか。どちらも高級店で、そういう席での会食は「共同作業」だと口酸っぱく言われながら、ビールをチェイサー替わりにして酒を飲むばかりで、彼の折角の心配りを台無しにしたかも知れない。それでも有難く、嬉しかった。皆、みんな、ありがとう。
 家に帰り、落ち着いた途端に東京でのことは、遠い靄のような記憶となってしまった。ホテルの部屋からカイツブリらしきの浮かぶ外堀や、その向こうに延々と続く無機的なビルの乱立を所在無い思いで眺めていたあの三日間の朝夕も一緒に・・・。

 行き帰りのバスから眺めた富士見のスキー場や入笠山周囲の山は、とっくに終わってしまったと思っていた冬の景観そのものだった。その入笠牧場、仕事開始の日もついに残り1ヶ月を切った。今年度の契約は上京する前に済ませておいたが、13年目のその日も、あっという間に来るだろう。

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