(前日から続く)
本当にキクはどこへ行ってしまったのだろう。充分に時間があったにもかかわらず、なぜ雪の山を選び、小屋へ来ることをしなかったのだろう。あれからもう、1週間が過ぎた。
こちらの呼びかけが届いていながら姿を見せなかったということなら、それはキクの意思だから仕方ない。野生に帰り、もう人間に飼われることを望まぬということだろう。それもキクらしいといえるかも知れない。
しかし普通に考えたら、何かの間違いでキクは後を追えなかったと思うしかないだろう。そして雪の山を彷徨した挙句、力尽きたか、運よくどこかの人里にたどり着き、そこで誰かから保護を得ているか・・・。そう願いたい。
いつか会える日が来るかも知れない。もしも新しい飼い主に大切にされていて、古い飼い主のことなど忘れてしまっていたとしても、それならそれでもいい。あるいは野生の中で、誇り高い川上犬として、狼や山犬の血の命ずるままに生きるならそれでもいい。死なずにいてくれたら、今はそれだけでいい。
今日は雪催いの天気だ。昨夜降った雪が残っている。いつもキクの定位置だった場所は、そこだけポッカリと風景に穴があいてしまったようだ。
アサンジ・アジモヘタ・キク