(前日よりの続き)
夜半過ぎ、やはり背中が寒くて目が覚めた。冬の山のテント内で快適に眠った記憶は、一度たりともない。覚悟していたこととはいえ、かなりこたえる。装備的にはまず全身用のインナーに身を入れてから腹部まで覆う半シュラフに入り、上は羽毛服を着た上で最初に入ったインナーを頭までたくし上げ、さらにシュラフカバーで全身を寒さから保護する。これ以上は自分の弱さだと諦めて、我慢するしかない。
外に出てみると森閑とした森の上に、冬の凍れる月がまさに異彩を放つかのように照っている。眠っていた間に少し雪が降ったようだったが、その雪雲は凄みを見せて煌々と輝く月の光に押しやられ、雪の森は明るく見えている。
テントの中に戻り、ラジュースに火を点け湯を沸かした。暖を取るためだけにストーブを空焚きするということは、したことがない。次第にふるえる身体が温まり、無造作に飲み込んだドロンとしたウイスキーが内側からも冷え切った身体に効いてきた。沸騰し始めた湯に紅茶のパックを落とし入れ、いつもより甘くして、そして今度はゆっくりと味わうように飲んだ。それは、冬山の孤独に、ぽっと点るような安堵感だった。
早朝、アタックザックに羽毛服と簡単な行動食、それに万一のためヘッドランプを入れて出発した。雪の尾根には先行者の足跡はない。できるだけきれいなラインを引こうと意識しながら急登する。
「岩登り熟達者でなければ危険」とかつてガイドブックで読んだガリーへ出た。「熟達者」ではなかったが、技術的には問題なさそうだった。構わず登行を開始する。アイゼンの前爪が小さなスタンスによく効く。時折、風が昨夜降った雪を舞い上げ襲ってくる。しかし、登行に影響するほどのことはない。吹き溜まりの雪はズボズボと踏み込んで足場を作り、さして緊張することもなく上に出た。そこからは、風に吹き飛ばされて現れた凍てついた地表や雪庇を避けて、締まった雪面をひたすら登ると、誰もいない頂上に着いた。
強風に翻弄される雲のために視界は明けてもすぐに閉ざされ、それが何度か繰り返されたが、そういう頂上の方が何故かそのときは、自分の心境には合っていた。(某月某日の「山行記」より)
山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。12月5日、9日も参考にしてください。また、スノーシュー(ズ)は、富士見パノラマリゾートのレンタル用を、1日2000円でここでも利用できるように話し合い中です。2泊3日の場合、出発地のパノラマリゾートで借りれば6000円ですが、ここで仮に1日だけの使用なら、2000円で済むというわけです。