まれな腎臓癌の配列決定は、テロメラーゼに関わる独特の変化を明らかにする
Sequence of rare kidney cancer reveals unique alterations involving telomerase
ベイラー医科大学を中心とした国際的な共同研究は、珍しい腎臓癌の遺伝子の変化についての手掛かりを明らかにした。
国立衛生研究所の癌ゲノムアトラス主導のプロジェクトは色素嫌性腎細胞癌(chromophobe renal cell carcinoma; ChRCC)の配列決定を完了し、その結果をCancer Cell誌で発表した。
「癌ゲノムアトラスは連邦によって資金助成された国家的な努力であり、癌の多くのタイプの配列をすでに完成させた(例えば卵巣癌、乳癌、肺癌)。現在、このプロジェクトはよりまれなタイプの癌を配列決定するために枝分かれしている」、チャド・クレイトン博士は言う。
色素嫌性腎細胞癌はまれなタイプの腎臓癌で、米国では毎年約2,000人が新しく診断される。悪性度は低く、大多数の患者は疾患を生き残る。
「腎臓腫瘍の病理が色素嫌性だと大部分の患者は安心するが、我々はみな色素嫌性腎臓癌が転移して死亡した患者を看護してきた」、ノースカロライナ大学チャペルヒル校ラインバーガー総合癌センターの准教授、Kimryn Rathmell博士は言う。
「今回の報告はこれらの患者を看護する医師にとって信じられないほどエキサイティングである。我々のすべての治療計画は、より一般的な腎臓癌タイプの生物学に基づいていたからである。」
研究チームはベイラーのヒトゲノムシーケンシングセンターで66の腫瘍サンプルを配列決定した。
これらのサンプル上で他のタイプのデータも集められ、遺伝子発現とエピジェネティックなデータを含む塩基配列決定データに統合された。
塩基配列決定した既知の遺伝子に加えて、ミトコンドリアと全ゲノムのDNAも配列決定された。
その結果、サンプルの大多数(86パーセント)は染色体の1つのコピーまたは多くのコピーを失っていた(染色体1、2、6、10、13、17)。
また、染色体3、5、8、9、11、18、21の喪失は頻度が高い(12~58パーセント)として注目された。
科学者は変更されたか失われた遺伝子を探索したが、かなり大きな頻度で確認されたのは2つの遺伝子(TP53とPTEN)であった。
彼らが最も驚いた重要な発見は、チームが「余分な分析」をしたあとだったとクレイトンは言う。
「我々は詳しくエクソームを見る代わりに、全ゲノムを分析した。これは通常はこのようなゲノム研究では実行されない」、クレイトンは言う。
エクソームは全ゲノムのたった1パーセントで、他の99パーセントは研究でしばしば無視される。
「遺伝子ではない部分を観察すると、ずっと多くのことが進行している」、クレイトンは言う。
「例えば、ゲノムの遺伝子を調節する特質は変更されている可能性がある。」
全ゲノムの分析から、研究チームはかなりの量の構造的再編成(ブレイクポイント; 区切り、中断点、ゲノムが連続していない状態)がTERTという遺伝子のプロモーター領域に関与することに気が付いた。TERTはテロメラーゼ複合体の最も重要なユニットをコードする。
テロメラーゼは細胞の『時計』を示す。
「このことは細胞分裂において決定的な役割を果たす。実際、多くの癌細胞でテロメラーゼのレベルは高い。どんなに分裂しても『時』は決して尽きず、細胞は決して死ななくなる。」
影響を受けたのは実際の遺伝子ではなくプロモーター領域であった。
「この異常は遺伝子の中ではないので、全エクソーム分析で拾われない。」
また、今回の研究はミトコンドリアDNA変化の役割と、癌開始に関与する原因となる細胞の役割についての興味深い質問も生じた。
「我々は、他のタイプの癌の調節性領域も調査する必要がある。」
癌ゲノムアトラスのあらゆるプロジェクトからのデータは、研究に世界中の科学者に利用できる。
「この努力は、我々がどのようにして癌を全体として調査するかという大きなインパクトを示している」、クレイトンは言う。
学術誌参照:
1.色素嫌性腎細胞癌の体細胞ゲノム・ランドスケープ。
Cancer Cell、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/08/140821124829.htm
<コメント>
癌の全ゲノム、エピジェネティック、ミトコンドリアなど、すべてのデータを統合した研究についての記事です。
色素嫌性腎細胞癌(ChRCC)は、腎明細胞癌(ccRCC)と比較しても、ミトコンドリアDNAを含めたあらゆる性質が全く異なっているようです。