分子の競合は成体幹細胞の専門化を促進する
ショウジョウバエからヒトまで、成体の有機体には『成体幹細胞』が存在する。それは古くなったか損害を受けた細胞を置き換えるために必要な特殊な細胞に分化する一方で、一部は細胞分裂を通して自分自身を新しくする。
成体の幹細胞で自己複製と分化の釣合いを制御する分子のメカニズムを理解することは、組織を再生する治療法を作り出すための重要な基礎である。
ストワーズ医学研究所の科学者は、2つのタンパク質(BamとCOP9)の競合が、ショウジョウバエの卵巣で生殖細胞系幹細胞(germline stem cell; GSC)の自己複製と分化機能のバランスをとることを報告する。
「BamはメスのショウジョウバエのGSCシステムのマスター分化因子である」、ストアーズ研究者のティン・シェ博士は言う。
「自己複製から分化への転換を行うために、Bamは分化因子の機能を活性化すると同時に、自己複製因子の機能を不活性化しなければならない。」
Bamはショウジョウバエの分化している細胞で発現が高く、GSCでは発現が非常に低い。
そしてCOP9シグナロソーム(CSN)は、Bamによって目標とされる自己複製因子の一つである。COP9は進化的に保存されてきた多機能複合体であり、8つのタンパク質サブユニット(CSN1からCSN8まで)が含まれる。
シェたちは、BamがCOP9のサブユニットの一つであるCSN4を隔離して拮抗することによって、COP9の機能を『自己複製』から『分化』へと変更できることを発見した。
「BamはCSN4と直接結合する。そして競合により他の7つのCOP9成分との会合を妨害する」、シェは言う。
CSN4は、Bamと相互作用することができる唯一のCOP9サブユニットである。
シェの研究室は以前、BamがE-カドヘリンの発現を抑制するために必要であることを発見している。
E-カドヘリンは成体幹細胞を組織ニッチにつなぎ留めてGSCの自己複製を促進する(Bamは自己複製を抑制する)。
さらに、Bamは別のGSCの自己複製(真核生物翻訳開始因子-4A; eukaryotic initiation factor-4A; eIF4A)のプロモーター機能も不活性化する。
他の研究室も、BamがNanosの発現を抑制することを明らかにしている。Nanosはメスのショウジョウバエで自己複製するGSCを確立して維持するために必須であると考えられている。
学術誌参照:
1.タンパク質競合は、COP9の機能を自己複製から分化へと変える。
Nature、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/08/140806134420.htm
<コメント>
ショウジョウバエの生殖細胞系幹細胞では、Bamが自己複製を抑制して分化を促進するという記事です。
Bam─┤COP9/CSN4、eIF4A、Nanos
Bamが変異したショウジョウバエの卵巣は、下図のように赤色の成体幹細胞様細胞(adult stem cell-like cells)がほとんどを占めるようになります。
緑色は球状スペクトロゾーム(spherical spectrosome)というショウジョウバエ幹細胞の細胞小器官です。