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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2015年1月6日

2015-01-09 22:56:11 | 代謝

概日リズムは皮膚幹細胞の代謝と増殖を調節する
Circadian rhythms regulate skin stem cell metabolism and expansion, study finds



カリフォルニア大学アーバイン校の科学者は、皮膚幹細胞の『時計』が、日々の代謝サイクルと細胞分裂の調節において重要な役割を果たすことを明らかにした。1月6日にCell Reportsで発表される研究で、彼らは体内の昼と夜のサイクル、つまり概日性リズムが、どのようにして幹細胞の分化を保護して維持するかについて初めて示す。さらに本研究は、同期した概日時計の狂いが皮膚の加齢と発癌を促進する一因となるメカニズムに対して、新しい洞察を提供する。

生化学と医学の教授Bogi Andersenと生体工学の教授Enrico Grattonは、表皮の特に幹細胞の研究に集中した。表皮は長命の幹細胞によって維持され回復する皮膚の保護層である。摂食と絶食に関連するプロセス、例えば睡眠や摂食行動、代謝などにおける概日時計の役割は十分に知られているが、概日時計が幹細胞の機能も調節するのかについてはほとんど知られていない。

研究者たちはアーバイン校生体工学部蛍光ダイナミクス研究所の新しい二光子励起(two-photon excitation)蛍光寿命画像顕微法(fluorescence lifetime imaging microscopy)を用いて、生きた組織の自然のままの微細環境(microenvironment)で、たった一つの細胞の代謝状態を高感度かつ定量的に測定した。

研究の結果、概日時計はこれらの幹細胞で酸化的リン酸化と呼ばれる中間代謝(intermediary metabolism)を調節することが明らかになった。酸化的リン酸化による代謝は活性酸素を生み出し、DNAや細胞の構成要素に損傷を与える。実際、加齢に関する理論の1つでは、幹細胞での代謝の結果として生じる活性酸素による損傷の蓄積が加齢の原因であるとしている。

AndersenとGrattonの研究はさらに、酸化的リン酸化が最も活発な間は、DNAが最も損傷しやすい細胞分裂サイクルの段階(S期)を回避するように概日時計が細胞分裂のタイミングを移すことも明らかにした。動物での他の研究も概日リズムの破綻と加齢とを関連づけており、Andersenは「幹細胞の代謝と増殖のサイクルにおける同期の狂い(asynchrony)によって加齢が促進される可能性がある」と言う。

「我々の研究はマウスで実施されたものだが、この研究が示唆するところは概日リズムの破綻がヒトの現代社会でもきわめて一般的であるという事実と関係がある。そしてそのような破綻の結果として、幹細胞の異常な機能と加速した加齢が起きるのかもしれない」、彼は言った。

記事出典:
上記の記事は、カリフォルニア大学アーバイン校によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.単一の幹細胞におけるin vivoでの代謝性変動の検出。

Cell Reports、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150106154607.htm



<コメント>
マウスの表皮の幹細胞で、概日リズムと代謝、そして細胞周期との関係について調べたという記事です。

Abstractによると、マウスが夜に起きている間は表皮幹細胞での解糖系が促進されてNADHの割合が増加し、それは細胞周期のS期への移行と協調的に進行します。

逆に昼の間は酸化的リン酸化が促進されてNADHが使われ(活性酸素が多く発生し)、それにともないS期(DNAの複製)へは進行しなくなりました。Bmal1という概日リズムを調節する遺伝子をノックアウトすると、この概日的な周期変化は消失したとあります。

幹細胞でこのような周期が観察される理由として、研究者は「おそらく酸化ストレスによる傷害から遺伝子を保護するためだろう(perhaps as a protective mechanism against genotoxicity)」と推測しています。

関連記事には今回の記事と関係がありそうなタイトルが並んでいます。

http://www.sciencedaily.com/releases/2013/10/131010124557.htm
Circadian rhythms in skin stem cells protect us against UV rays
肌の幹細胞における概日リズムは紫外線から我々を守る

http://www.sciencedaily.com/releases/2011/11/111110092354.htm
Biological clock controls activation of skin stem cells
生物時計は肌の幹細胞の活性化を制御する

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140624110714.htm
Cell division discovery could optimize timing of chemotherapy, explain some cancers
細胞分裂での発見は化学療法のタイミングを最適化し、いくつかの癌を説明する可能性がある

http://www.sciencedaily.com/releases/2013/12/131219134453.htm
Nutrition influences metabolism through circadian rhythms, study finds
栄養/高脂肪食は概日リズムにより代謝に影響する

最後の記事の元となった研究には、今回の記事にも登場したBMAL1の制御が高脂肪食により抑制され、代わりにPPARγが取って代わるとあります(CLOCK:BMAL1↓ PPARγ↑)。PPARγは炎症の応答と脂肪組織の形成に関与するとされています。

・高脂肪食は概日リズムによる転写と代謝を全体的に再プログラムする
A high-fat diet reprograms the circadian transcriptome and metabolome

・高脂肪食はBMAL1の染色体標的箇所へのリクルートを(肝臓で)抑制する
A high-fat diet impairs BMAL1 recruitment to target chromatin sites

・転写の再プログラムにはPPARγによる遺伝子発現の変動が含まれる
Transcriptional reprograming involves PPARγ-driven oscillation in gene expression

・栄養による概日時計のリモデリングは急速だが可逆的である
Remodeling of the circadian clock by nutrients is rapid and reversible



2015年1月2日

2015-01-04 23:21:46 | 代謝

すべての太った人が過剰な体重と関連する代謝的な問題を生じるわけではない
Not all obese people develop metabolic problems linked to excess weight



ワシントン大学医学部のSamuel Klein医学博士たちの新しい研究によれば、肥満は必ずしも糖尿病や心疾患、脳卒中などにつながるような体内の代謝性変化と関連するわけではない。肥満者の中には肥満と関連する代謝的な異常がない人たちがいる。異常とは例えば、インスリン抵抗性、血中脂質の異常(高トリグリセリドと低HDLコレステロール)、高血圧、肝臓脂肪の過剰などである。

加えて、研究が開始したときにこれらの代謝的な問題がなかった人々は、体重がさらに増加したあとでさえ問題は発生しなかった。この研究結果は1月2日にJCIで発表される。



研究には20人の肥満者(BMI35前後、体重約100キロ)が参加し、数ヵ月間で体重を約15ポンド(6.8キログラム)増やすように求められた。余分な体重がどのように代謝機能に影響するかを確かめるためである。

「我々の目的は、参加者が毎日1,000キロカロリー余分なカロリーを消費してそれぞれの体重が6パーセント増えるまで研究することだった」、筆頭著者のElisa Fabbrini医学博士は言う。

「これは容易ではなかった。体重を減らすのと同じくらい、増やすのも困難である。」

被験者は全員、栄養士の管理下でファストフード店で食べることによって体重を増やした。研究者は、厳密に調節された一人前のサイズと栄養の情報を提供するファーストフード・チェーン・レストランを選択した。研究者は、被験者の体重増加の前後にそれぞれの体組成、インスリン感受性、血糖を調節する能力、肝臓の脂肪などの代謝的な健康状態を慎重に調べた。

その結果、研究が開始したとき正常範囲だった肥満被験者は、体重が増えた後も代謝性プロファイルは正常なままだった。しかし、研究が進む中で代謝性プロファイルがすでに異常だった肥満の被験者は、体重が増えた後の代謝性プロファイルが著しく悪化した。

「肥満の人々の中には中程度の体重増加による有害な代謝的影響から保護される人たちがいる一方で、それらの影響を受けやすい人もいることを我々の研究は証明する」、ワシントン大学ヒト栄養学センターのディレクターであるSamuel Klein医学博士は言う。

「この観察は臨床的に重要である。なぜなら肥満の人の約25パーセントには代謝性合併症(metabolic complications)が存在しないからだ」、彼は付け加えた。

「我々のデータは、彼らは体重が増えた後でさえ代謝的に正常なままであることを示す」、老人病医学部と栄養学部、そしてアトキンス肥満医学一流センター(Atkins Center of Excellence in Obesity Medicine)を管理するKleinは言う。

研究者は、代謝的に問題を持つ肥満者と正常な被験者を識別するためのいくつかの重要な測定値を特定した。1つは、肝臓内の脂肪(intrahepatic triglyceride)の存在である。異常代謝を持つ人々の肝臓には脂肪が多く蓄積した。

もう一つの違いには、脂肪組織の遺伝子の機能が含まれる。太っているにもかかわらず正常な代謝の人々は、脂肪の産生と蓄積を調節する遺伝子をより多く発現した。そして代謝的に正常な人々は、体重が増えたときでさえそれらの遺伝子の活性は増加した。それは代謝異常のある被験者には当てはまらなかった。

「これらの結果が示唆しているのは、健康なやり方で体脂肪が拡張して増加できれば、肥満と体重増加に関する代謝的な問題から保護されるという可能性である」、Kleinは言う。



研究が進む中、HBOのドキュメンタリー「国の重さ」で特集された。研究にフォーカスした10分間の特集は、以下のHBOビデオ中の42:10から始まる:

https://www.youtube.com/watch?v=-pEkCbqN4uo

記事出典:
上記の記事は、ワシントン大学医学部によって提供される素材に基づく。


学術誌参照:
1.代謝的に正常な肥満の人々は、体重増加の後でも有害な影響から保護される。

JCI、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150102172716.htm

<コメント>
太っている人の中には、血液検査などで異常が見られない代謝的に正常な人がいます。その正常な人と異常な人との違いは、皮下(subcutaneous)脂肪組織での脂肪生成(lipogenesis)に関する生物学的経路と遺伝子発現が増加するかどうかによるという記事です。

代謝的に問題がない人は、腹部などの皮下脂肪組織(abdominal adipose tissue)での脂肪生成やグルコース取り込みが増加して肥満による影響から守られますが、そうでない人は肝臓内の中性脂肪(intrahepatic triglyceride; IHTG)が蓄積して、インスリン抵抗性などの数字が悪化しました。

具体的な数字はというと、正常群では平均2.4%だったIHTGが体重増加後は3.9%になり、異常群では15.2%から22.8%に増大しました。肝臓の重量/体重比を3.0%程度とすると、被験者たちの体重は約100kgなので、肝臓内の中性脂肪の量は研究開始時で70g対450gと6倍以上も異なっていたことになります。

以前にも、肥満ながら代謝が正常な群と異常な群についての記事がCellに掲載されていました。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/0944228ce81312199f7a259264b435d8
>肥満であるとされる人の4分の1は代謝的に健常で、2型糖尿病を発症する危険が高くない。肥満は糖尿病の重大なリスク因子だが、2つの条件は必ずしも連鎖していない。
>Cellで7月3日に発表される研究によれば、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)という分子のレベルが高い肥満の人は代謝性健康が劣っており、2型糖尿病のリスクの増加と関連がある。


2014年12月22日

2014-12-28 22:41:05 | 代謝

レスベラトロールが健康への効果を発揮するための基本的なメカニズムが新たに発見される
New, fundamental mechanism for how resveratrol provides health benefits uncovered



スクリップス研究所(The Scripps Research Institute; TSRI)の科学者は、かつては若さの万能薬(elixir of youth)として宣伝された赤ワインの成分レスベラトロールが、ヒトの細胞で進化的に古くから存在するストレス応答経路を強力に活性化することを発見した。この発見は、レスベラトロルが本当はどのように作用するかという謎と論争の多くを追い払うはずである。

「このストレス応答経路は、これまでほとんど見のがされてきた生物学の階層を示す。レスベラトロールは以前の研究と比べて非常に低い濃度でもその応答を活性化することが判明した」、TSRIのSkaggs化学生物学研究所の一員で、シニア研究員のPaul Schimmel教授は言う。

「レスベラトロールのこれまで知られてきた有益な作用には、未知の根源的なメカニズムがある。」

この発見は12月22日のNatureオンライン先行版で報告される。



レスベラトロールはブドウやカカオ豆、日本のタデ(knotweed)などの植物から得られる化合物であり、病原体への感染やかんばつ、紫外線放射などのストレスに反応して作られる。

レスベラトロールは過去10年間、広範囲にわたって科学と大衆の関心を引きつけてきた。その理由は、レスベラトロールが肥満のマウスで寿命を延長して糖尿病を抑制し、通常のマウスでは車輪の上でのランニングのスタミナを上げたと研究者が報告したことによる。

しかし最近、レスベラトロールが健康を促進するために活性化するシグナル経路に関してこの分野の科学者の意見は一致せず、想定されている健康効果のいくつかは疑問視された。特に、非現実的なほど高い投与量を与えた実験に関して。


SchimmelとSajishは、この論争については『部外者』だった。Schimmelの研究室はレスベラトロールではなく、古くから存在する酵素のファミリーであるtRNA合成酵素に関する研究で知られている。この不可欠な酵素が果たす主な機能は、遺伝子の配列をアミノ酸へと翻訳してタンパク質を作るのを助けることである。しかしSchimmelたちが1990年代後半から示してきたように、tRNA合成酵素は哺乳類において広範な追加機能を獲得した。

以前TSRIで化学生理学と細胞分子生物学部の教授でSchimmelの研究室の一員だったXiang-Lei Yangは、いくつかのヒントを見つけた。アミノ酸のチロシンを運ぶtRNAにチロシンを結合させる「TyrRS」というtRNA合成酵素はストレスの多い状態下で細胞核に移動することが可能であり、それは一見するとストレスに応答する保護的な役割に関与するようだった。

Sajishは、レスベラトロールにもTyrRSと同様のストレスに応答する特性が広範囲に見られることに注目した。更に、レスベラトロールはTyrRSの正常な結合パートナーであるチロシンに似ていた。

「私はレスベラトロールの潜在的な標的としてTyrRSを調べ始めた」、彼は言った。

今回の新しい研究でSajishとSchimmelはTyrRSとレスベラトロールを共に配置してX線結晶構造解析を含む試験を行い、レスベラトロールは実際にTyrRSのチロシン結合ポケットにぴったり適合するほど非常にチロシンに似ていることを示した。

TyrRSはレスベラトロールに結合すると、そのタンパク質を翻訳する役割から離れて細胞核での機能に向かう。研究者は核内でレスベラトロールと結合したTyrRSを追跡して、PARP-1というタンパク質をつかまえて活性化することを確認した。PARP-1は寿命に対する重要な影響を持つと考えられる主要なストレス応答・DNA修復因子である。

TyrRSによるPARP-1の活性化は、次に宿主保護的な遺伝子の活性化につながった。その遺伝子には癌抑制遺伝子p53遺伝子、長寿遺伝子FOXO3AとSIRT6が含まれる。



2000年代前半のレスベラトロールに関する最初の研究では、その健康に対するプラスの効果の一部はSIRT1を活性化することによって発揮されることが示唆された。そしてSIRT1は長寿遺伝子であるとも考えられた。しかし最近になって、これまで報告されてきたレスベラトロールの健康を促進する効果に対して、SIRT1が特定の役割を果たしているのかが疑われるようになった。

しかしながら、TyrRS-PARP-1経路は、以前の有名な研究のいくつか(SIRT1に焦点を合わせた研究を含めて)で用いられた用量より1,000倍も低い量のレスベラトロールによって明確に活性化されることを研究チームの実験は示した。

「これらの結果に基づくと、レスベラトロールが豊富な赤ワインを2グラス適度に消費すれば、この経路によって保護的な効果を引き起こすのに十分なレスベラトロールが得られると考えられる」、Sajishは言う。非現実的なほど高い投与量だけに現れたレスベラトロールの効果は、いくつかの先行発見を混同したのかもしれないと彼は考えている。



なぜレスベラトロールは植物で作られるにもかかわらず、ヒトのストレス応答経路を強力に、しかも特異的に活性化するのだろう?

その理由はおそらく、植物の細胞においてもほぼ同じだからである。そしてその理由はおそらく、またもTyrRSによる。

TyrRSはアミノ酸に結合するという生命にとって非常に根源的なタンパク質であり、動物と植物が進化的に独立した道のりを別々に進み始めた時から何億年たってもあまり変化しなかった。

「我々は、TyrRSが根源的な細胞保護メカニズムのトップレベルのスイッチ、つまり活性化因子として作用するように進化したと考えている。それは生命のほとんど全てのタイプで作用する」、Sajishは言う。

レスベラトールが哺乳類において自然に持つどんな活性であれ、それはホルメシス(hormesis; 毒物が毒にならない程度で刺激効果を示すこと)の例であるかもしれない: 健康を促進する程度の、ストレス応答経路の軽度の自然な活性化。

「もしレスベラトロールが重要な利益を哺乳類にもたらすならば、哺乳類はレスベラトロールを作る植物との共生関係(symbiotic relationship)を進化させたのかもしれない」、Sajishは言う。



「我々はこれが氷山の一角でしかないと考えている」、Schimmelは言った。

「レスベラトロールのような有益な効果を持つアミノ酸の『模造品』がもっとたくさんあると考えられる。我々は今それに取り組んでいる。」

Schimmelと彼の研究室は、レスベラトロールよりもさらに強力にTyrRSストレス応答経路を活性化できる分子も捜している。

記事供給源:
上記の記事は、スクリップス研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ヒトtRNA合成酵素は、レスベラトロールにとって強力なPARP1活性化エフェクター標的である。

Nature、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141222111940.htm

<コメント>
レスベラトロールはチロシンtRNA合成酵素のTyrRSの活性部位に対してチロシンの代わりに結合して核に移行させ、PARP-1と結合してp53、FOX3A、SIRT6を活性化させるという記事です。

Natureではチロシンとレスベラトロールを並べた図を見ることができます。






2012年1月26日

2014-12-28 00:23:47 | 代謝

手術前のタンパク質またはアミノ酸の制限は、外科合併症のリスクを低下させる可能性がある
Limiting protein or certain amino acids before surgery may reduce risk of surgical complications



ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の研究結果によると、手術前の数日間に特定の必須栄養素(タンパク質またはアミノ酸のどちらか)を制限すると、深刻な外科合併症(例えば心発作または脳卒中)のリスクを低下させる可能性がある。この研究はScience Translational Medicineの2012年1月25日号で出版される。

「ストレスへの抵抗性を上げる方法として食品を制限するのは、直観に反するように見えるかもしれない。しかし実際には、栄養が十分な状態はこの種の傷害に対して影響を受けやすくすることを我々のデータは示す」、HSPHで遺伝学と複合性疾患の助教授であるジェームズ・ミッチェルは言う。

ミッチェルと、HSPHで以前ポストドクターだったWei Pengたち研究者は、マウスを2つのグループに分けて分析した。1つ目のグループは6日~14日間普通に食べさせた; もう1つのグループにはタンパク質を含まないか、アミノ酸の1つであるトリプトファンが欠けた食事を与えた。次に双方のグループは、腎臓または肝臓を害する可能性がある外科的侵襲(surgical stress)を受けた。その結果、通常通り食べることを許されたマウスは約40パーセントが死亡した。タンパク質とアミノ酸を含まない食事のマウスはすべて生き残った。

さらに、アミノ酸の濃度を感知する遺伝子を除去するとこの保護的な作用は打ち消された。このことは、特定のアミノ酸の欠乏よりも、むしろ欠乏によって活性化される経路こそが、実験で観察された有益性の要因であることを示唆し、その経路を標的にする薬への可能性を開くものである。

この結果が重要である理由は、合併症を避けるために手術前の食事から除去する成分としてタンパク質を特定したためである。心臓血管外科に関連した脳卒中リスクは手法によるが0.8%から9.7%の範囲であり、心発作リスクは3%~4%である。



数十年にわたる多くの動物実験で、科学者は長期の食事制限が健康状態を改善して寿命を長くする可能性があることを発見してきた。この恩恵にはストレス抵抗性の増加、炎症の減少、血糖調節と心血管健康の改善が含まれ、その多くはヒトにも当てはまる。しかしながら、恩恵がカロリーの供給源のどれか(脂肪、糖質、タンパク質)を制限していることによって生じているのか、または単純に総カロリーの制限から生じるのかについては議論がある。

ショウジョウバエに関する最近の研究は、タンパク質を限定する恩恵を証明した。HSPHの研究は、齧歯動物においてタンパク質またはアミノ酸制限の恩恵を確定することによってさらに利益を明快にすることを目指したものである。

次のステップとしてミッチェルは、食事前処理(dietary preconditioning)がマウスと同様にヒトでも作用して手術関連のリスクを低下させるかを確かめようとしている。彼らはボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院の同僚たちと共に、手術前のタンパク質を含まない食事での臨床試験の計画を実施している。

本研究は、米国国立衛生研究所の米国立老化研究所と米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所、Ellison Medical Foundation、アメリカ老化問題研究連盟(American Federation for Aging Research)、そして、William F. Milton Fundによって支援された。

記事出典:
上記の記事は、ハーバード公衆衛生大学院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.マウスでの単一のアミノ酸欠乏によって誘導される手術侵襲抵抗性は、Gcn2を必要とする。

Science Translational Medicine、2012;

http://www.sciencedaily.com/releases/2012/01/120125143113.htm

<コメント>
前回の関連記事です。トリプトファンを制限すると外科的侵襲から保護されますが、それにはアミノ酸の不足を感知してタンパク質の翻訳を阻害するGcn2というキナーゼが必要であるという内容です。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/08ef498cd34459a32830865d82343ed1
メチオニンとシステインを制限すると硫化水素の産生が増加して、虚血後の再灌流障害から保護する

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a851c519fb9007934c774d69a3e99e79
イブプロフェンはトリプトファンの取り込みを阻害して、寿命を延長する

2014年12月23日

2014-12-26 16:21:22 | 代謝

食事制限による健康的な効果の分子メカニズムが特定される
Molecular mechanism behind health benefits of dietary restriction identified



ハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health; HSPH)の研究者は、食事制限による健康効果の背後にある重要な分子メカニズムを特定した。ここでいう食事制限とは栄養失調にならない程度に食品の摂取を減らすことであり、カロリー制限とも呼ばれる。

食事制限が実験動物の加齢を遅らせることはよく知られているが、今回の研究でメチオニンとシステインという2つのアミノ酸を制限すると硫化水素(H2S)の産生が増加して、虚血後の再灌流障害(ischemia reperfusion injury)に対して保護されることが示された。再灌流障害とは、臓器移植や脳卒中の間に起きるような血流の中断の後に生じる組織の損傷である。

食事制限に応じて増加するH2S産生は、ワームとハエ、そして酵母での寿命の延長とも関連していた。



大量のH2Sガスは非常に有毒であるが、自然に生じる硫黄泉に存在する程度のH2Sは健康効果と長い間関連していた。哺乳動物の細胞も少量のH2Sを生じるが、しかしこの分子が直接食事制限の健康効果へ関連づけられたのはこれが初めてである。

「今回の発見は、H2Sが食事制限による有益性の一因となる重要な分子の1つであることを示唆する。それは哺乳類でも下等動物でも同様である」、シニア・オーサーであり遺伝学と複合性疾患(complex diseases)の准教授でもあるジェームズ・ミッチェルは言う。

「H2Sがどのようにその有益な作用を発揮するかを理解するためにはもっと多くの実験が必要ではあるが、この結果はヒト疾患と加齢を防ぐための我々の努力においてどの分子を治療的な標的とすればいいのかについての新しい見通しを我々に与える。」

この研究は2014年12月23日のCellオンライン版で公開される。



食事制限とは食事への介入であり、それには食品摂取全体の減少、タンパク質のような特定の多量栄養素(macronutrients)の消費の減少、または間欠的な一定期間の絶食などが含まれる。

食事制限は組織傷害からの保護や代謝の改善といった有益な健康作用を持つことが知られ、酵母から霊長類まで複数のモデル生物の寿命を延長することも示されている。これらの作用の分子的な説明は完全には理解されていないが、それには食事制限それ自体に起因する軽度の酸化ストレスによって活性化される保護的な抗酸化応答が必要であると考えられた。

ファースト・オーサーであり遺伝学と複合性疾患学部のリサーチ・フェローでもあるChristopher Hineたちは、1週間の食事制限が抗酸化応答を上昇させ、マウスを肝臓虚血再灌流障害から保護することを証明した。

しかし驚くべきことに、この保護的な作用は、そのような抗酸化応答を持たない動物でも損なわれなかった。その代わりにこの保護はH2Sの産生の増加を必要とすることを研究者は発見した。そしてそれは2つの含硫アミノ酸、メチオニンとシステインの食事摂取量の減少によって生じた。食事にこれらの2つのアミノ酸を補うとH2Sの産生は増加せず、食事制限による有益性も消失した。

さらに、酵母とワーム、ハエなど他の生物での食事制限による寿命延長のためには、H2S産生に関与する遺伝子が必要であることも明らかになった。

「これらの発見は、食事介入がどのように寿命を延長して組織傷害から保護するかについての我々の理解を深めるものである。臨床的にすぐに活かすとすれば、手術のように虚血性傷害のリスクが比較的高く、計画された急性ストレスの前に、何を食べるべきで何を食べないべきかについて重要な影響を持つ可能性がある」、Hineは言う。

記事出典:
上記の記事は、ハーバード公衆衛生大学院によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.内因性の硫化水素産生は、食事制限の有益性のために必須である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141223122220.htm



<コメント>
食事制限でメチオニン(methionine)とシステイン(cystein)の摂取を減らすと、体内での硫化水素(H2S)の産生が増加して、「虚血後の再灌流による傷害」に対する保護が得られるという記事です。

Abstractにはこう書かれています。

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食事制限 (DR) によるストレス抵抗マウスモデルにおける含硫アミノ酸 (sulfur amino acid; SAA) の制限は、含硫置換基移動(transsulfuration)経路 (TSP) のシスタチオニンγ-リアーゼ (CGL) を増加させ、その結果として硫化水素 (H2S) 産生が増加して肝臓での虚血再灌流による傷害 (ischemia reperfusion injury) から保護する。

SAAの補足/mTORC1の活性化、または化学的/遺伝的なCGLの阻害はH2S産生を減少させ、DRによるストレス抵抗性を阻害した。In vitroではミトコンドリアタンパク質のSQR (succinate-coenzyme Q reductase; コハク酸CoQレダクターゼ/複合体II) が、栄養/酸素の不足している間のH2Sによる保護に必要である。

含硫置換基移動/TSP経路に依存的なH2S産生は、酵母、ワーム、ショウジョウバエ、げっ歯類を含む食事制限/長寿動物モデルで観察される。
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虚血性心疾患の再灌流による傷害はコハク酸の蓄積によるという研究が最近ありました。今回の研究もコハク酸が関係しているようです。


食事制限により増加するというシスタチオニンγ-リアーゼ(Cystathionine gamma-lyase)は、ビタミンB6の活性体であるピリドキサールリン酸を補酵素として、L-システインからピルビン酸+NH3+H2Sを生じるなどの反応を触媒する酵素です。以前ハンチントン病と関連があるという記事が掲載されました。

イブプロフェンが酵母におけるトリプトファンの取り込みを阻害して寿命を延長するという記事が少し前にありましたが、今記事の関連記事にも手術前のタンパク質/トリプトファンの制限は手術後の合併症のリスクを低下させるという記事があります。今回と同じハーバード公衆衛生大学院のジェームズ・ミッチェルたちの研究グループによるもので、マウスでトリプトファンを欠乏させることで手術によるストレスへの抵抗が誘導され、そのためにはGcn2が必要という研究です。

Gcn2は、アミノ酸の不足またはTORC1の不活化により活性化して、翻訳開始因子のeIF2αをリン酸化してタンパク質の生合成を阻害するキナーゼです。


2014年12月18日

2014-12-24 23:53:05 | 代謝

イブプロフェンはいくつかの種で寿命を伸ばす
Ibuprofen use leads to extended lifespan in several species, study shows



Texas A&M(agricultural and mechanical)AgriLife Researchの科学者によると、薬局で普通に買うことができる解熱鎮痛剤は長寿と健康の鍵を握るかもしれないという。PLOS Genetics誌で発表される研究でイブプロフェンは標準的な投与量で複数の種の寿命を延長した。

「我々は最初に加齢モデルとして確立されているパン酵母を用いて、イブプロフェンを投与した酵母の寿命が長くなることに気がついた」、カレッジ・ステーションのAgriLife Researchの生化学者であるMichael Polymenis博士は言う。

「次に我々はワームとハエで同じプロセスを試みて、同じように寿命の延長を観察した。さらにこれらの生物はより長く生きるだけでなく健康そうに見えた。」

ヒトで推奨される投与量に相当する量を与えられた生物は、約15パーセント寿命が延長した。ヒトで言えばそれは健康な人生が十数年ほど増えることに等しいだろう。



イブプロフェンは1960年代の前半にイギリスで生み出された比較的安全な薬である。最初は処方箋が必要だったが、1980年代には世界中でOTCで購入できるようになった。WHOの基本的な健康システムのために必要とされる「必須の薬剤のリスト」にはイブプロフェンが含まれる。イブプロフェンには解熱鎮痛作用があり、炎症を抑制するための「非ステロイド系抗炎症薬」と説明される。

Texas A&M 大学の生化学と生物物理学部の教授でもあるPolymenisは、Buck Institute for Research on Aging(カリフォルニア州ノヴァト)の社長兼CEOであるBrian Kennedy博士と、さらにロシアとワシントン大学の研究者たちと共に研究を進めた。Polymenisたちの3年をかけたプロジェクトにより、イブプロフェンはトリプトファンを取り込む酵母の能力に干渉することが示された。トリプトファンはあらゆる生命が利用し、ヒトにとっても必須のアミノ酸である。我々はそれを食事中のタンパク質から得ている。

「これがなぜ作用するかについては不明だが、これはさらに調べるに値する。本研究は、ヒトにおける一般的で比較的安全な薬がきわめて多様な生物の寿命を延長することができることを示す原理証明(proof of principle)であった。ゆえに、イブプロフェンのような他の薬が見つかる可能性は存在するはずである。それは寿命を延長する能力がさらに高く、健康に過ごす時間を増やす目的で使うことができる。」

記事出典:
上記の記事は、Texas A&M AgriLife Communicationsによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.イブプロフェンによる寿命の延長は複数の種で保存され、それは酵母ではトリプトファン取り込みの阻害を通して生じる。

PLoS Genetics、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141218141004.htm

<コメント>
解熱鎮痛剤のイブプロフェンが長寿の薬のヒントになるかもしれないという記事です。

本文によれば、イブプロフェンはトリプトファンに親和性が高い輸送体(aromatic amino acid transporter/permease)を不安定にして分解させることで作用します。

ただしイブプロフェンによって寿命が延長した酵母のトリプトファン濃度の低下は15%から20%で、細胞内のアミノ酸が極端に欠乏する程ではありません。

>Finally, we would like to note that when ibuprofen was added at the dose that extended RLS (replicative lifespan), the drop in tryptophan levels was 15–20% (Fig. 2B and S3 Table).
>Hence, the cells were not severely limited for tryptophan, or any other amino acid (Fig. 2B and S3 Table),

少ない投与量での細胞周期(G1)の適度な遅れが、寿命の延長に効果があると推測されているようです。

>Perhaps a moderate delay in G1 progression produces such beneficial effects in lifespan.

>At low doses, ibuprofen causes a moderate cell cycle delay, mimicking the profile of LL mutants (Fig. 5), and extends lifespan (Fig. 1A).

>At higher doses, however, ibuprofen delays cell proliferation more severely (Fig. 5).

過剰なタンパク質の摂取は癌や糖尿病のリスクを高めるという記事や、トリプトファンから変換されるキヌレニンがうつ病の一因になり得るという記事が過去にありました。タンパク質の摂取は控え目にしておくのが今のところは良いと思われます。


2014年11月24日

2014-11-25 23:23:25 | 代謝

まれなタイプの糖尿病の治療薬として見込みがある筋弛緩薬
Muscle relaxant may be viable treatment for rare form of diabetes



筋弛緩薬のダントロレンは、ウォルフラム症候群の動物モデルならびに症候群の患者から得られた細胞モデルにおいて、インスリン産生ベータ細胞の破壊を阻止する。この結果は11月24日のPNASオンライン版で発表される。

ウォルフラム症候群は50万人に1人がかかる病気であり、多くの患者は40歳までに死亡する。一般にウォルフラム症候群患者は幼い子どもの頃に1型糖尿病を発病する。この症候群は聴力と視力の障害、そしてバランスの障害も引き起こす。

研究者は、カルパイン2という酵素の高いレベルが脳細胞とインスリン産生細胞の主な死因であることを発見した。ダントロレンはその酵素を阻害して、更に障害の動物と細胞モデルで脳細胞死を阻止した。

この薬は食品医薬品局(FDA)の承認を得ているので、ウォルフラム患者の臨床試験は比較的急速に進ませることができるだろうとシニア研究員の浦野文彦医学博士は言う。

「我々はまず成人のウォルフラム症候群の患者で薬を試験したいと思う。もしポジティブな結果が得られれば、子供でも試験をするだろう。」



ダントロレンは脳性麻痺または多発性硬化症の筋肉の痙縮(けいしゅく)を治療するためにしばしば処方される。もしウォルフラム症候群患者で効果があれば、ダントロレンはより一般的なタイプの糖尿病患者でも使える治療薬になるかもしれない。カルシウム代謝に関与するカルパイン2は、糖尿病のより一般的なタイプの患者の細胞モデルでも過剰に活性化している。

浦野たち研究チームは、ウォルフラム症候群の患者と彼らの近親(両親または兄弟)の幹細胞に対するダントロレンの影響を研究した。臍帯血から採取される成人の幹細胞や胚から作成される幹細胞とは異なり、本研究の幹細胞は皮膚細胞から育成された。研究者は幹細胞に成長因子を投与して特異的な細胞(ニューロンとインスリン産生細胞)に分化させた。

その結果、ウォルフラム患者に由来する細胞はカルパイン2の産生レベルが高く、細胞死を引き起こした。しかし研究者が細胞にダントロレンを投与すると何もかもが変化した。酵素のレベルは低下して、細胞は死ぬのを止めた。

研究者はダントロレンが1型と2型糖尿病にも効果があることを期待している。

「ウォルフラムは最も難しい種類の糖尿病である。彼らは血糖に関する問題と、非常に多くの他の課題を抱えているためだ」、浦野博士は言う。

記事出典:
上記の記事は、ワシントン大学医学部によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.カルシウム依存性プロテアーゼ(カルパイン)は、ウォルフラム症候群の潜在的な治療目標である。

PNAS、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141124152604.htm

<コメント>
少し前に抗不整脈薬のベラパミルが糖尿病に有効かもしれないという記事がありましたが、今回は抗痙攣薬のダントロレンについてです。ベラパミルはカルシウムチャネル遮断薬でしたが、ダントロレンは筋小胞体からのカルシウムイオン遊離を抑制することでこむら返りなどを抑制します。

ウォルフラム症候群は糖尿病と神経変性が特徴で、その原因はWFS1WFS2/CISD2という2つの遺伝子の変異による機能不全です。

Abstractによれば、カルシウム依存性プロテアーゼのカルパイン2はWFS2との相互作用により抑制的に調節され、WFS1の機能喪失を介する細胞質の高いカルシウム濃度によってカルパインの活性化が誘導されます。高濃度のカルパイン2はウォルフラム症候群でのβ細胞と神経細胞の細胞死の主な原因です。そしてカルパイン2はウォルフラム症候群だけでなく、一般的な糖尿病でも過剰に活性化しているということのようです。

カルパインの1と2の違いは、活性の発現に必要なカルシウムの濃度によります(カルパイン2は1よりも高濃度で活性化する)。カルパイン2は、触媒サブユニットのCAPN2と、調節サブユニットのCAPNS1から構成されるヘテロ二量体です。小胞体のWFS2は細胞質のCAPN2と相互作用し、さらにCAPNS1のユビキチン-プロテアソームによる分解を促進します(WFS2の機能変異によりCAPNS1が分解されなくなる)。

WFS2をノックダウンしたマウスではカルパイン2が過剰に活性化され、それにより基質であるカスパーゼ3の切断が増加してアポトーシスが促進されました(特に小胞体ストレス時)。

ダントロレン(dantrolene)は小胞体に局在するリアノジン(ryanodine)受容体の阻害剤で、小胞体から細胞質へのカルシウムイオンの漏出を阻害する作用があります。WFS1は、筋小胞体カルシウム輸送ATPアーゼ(sarco/endoplasmic reticulum calcium transport ATPase; SERCA)の活性化の調節などに関与するイオンチャネル調節因子であることが示されています。

WFS1をノックダウンした細胞では細胞質のカルシウム濃度が上昇しましたが、ダントロレンの投与は上昇したカルシウム濃度を低下させました。

本文を見ると、ピオグリタゾン、DHA、GLP-1等でも細胞死が回避されたとあります。これらは小胞体ストレスによる糖尿病の治療や予防に役立つとされています。


2007年5月

2014-11-17 12:20:28 | 代謝

TXNIPはヒトの末梢グルコース代謝を調節する
TXNIP regulates peripheral glucose metabolism in humans.



要約

背景:
2型糖尿病(T2DM)の特徴はインスリンの分泌と作用における障害である。骨格筋のブドウ糖取り込みの障害はT2DMの自然経過における早期の特徴の1つであると考えられているが、その根底にあるメカニズムは不明瞭なままである。

方法と結果:
我々はヒトインスリン/ブドウ糖クランプ生理学的研究をゲノム全体の発現プロファイルと組み合わせ、チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)の遺伝子の発現がインスリンによって強力に抑制され、しかしブドウ糖によって刺激されることを特定した。

健康な個人におけるTXNIPの発現は、全身でのブドウ糖取り込みと逆相関していた。培養脂肪細胞におけるTXNIPの強制的発現はブドウ糖の取り込みを著しく低下させた一方で、脂肪細胞ならびに骨格筋においてRNA干渉によりサイレンシングするとブドウ糖の取り込みは促進された。これによりTXNIPの遺伝子産物はブドウ糖取り込みの調節因子でもあることを確認した。

TXNIPの発現は糖尿病前症と糖尿病の患者の筋肉で一貫して上昇するが、しかし4,450人のスカンジナビア人パネルではTXNIP遺伝子の一般的な遺伝子的な変異とT2DMの間に関連は見られなかった。

結論:
TXNIPは、ヒト骨格筋におけるブドウ糖取り込みのインスリン依存性の経路およびインスリンとは独立した経路を調節する。TXNIPがグルコースによる膵β細胞の障害に関与することを示す最近の研究と合わせて考えると、我々のデータは、T2DMの発症に先行するブドウ糖ホメオスタシスの障害においてTXNIPが重要な役割を果たす可能性を示唆する。

学術誌参照:
PLoS Med. 2007 May;

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17472435

<コメント>
TXNIPに関する以前の記事と関係がありそうな論文を見つけたので、Abstractを訳しておきます。




革新的な臨床試験: 糖尿病を打ち消す高血圧薬

2014-11-11 00:42:22 | 代謝

Groundbreaking clinical trial to test blood pressure drug that reverses diabetes in animal models

アラバマ大学バーミングハム校で実施される新しい研究は、広く使われている高血圧・不整脈の治療薬であるベラパミルが動物モデルで糖尿病を完全に打ち消すことを示した。

3年間で210万ドルのJDRF(Juvenile Diabetes Research Foundation; 国際若年性糖尿病研究財団)からの助成金により、UABの研究者は2015年に革新的な臨床試験を実施してそれがヒトでも同様の効果があるかを確認する。この「1型糖尿病のベータ細胞生存療法としてのベラパミルの再利用」という試験は来年早くに開始する予定で、UABの総合糖尿病センターでの10年以上の研究努力の後に実現した。

この試験ではβ(ベータ)細胞と呼ばれる膵臓の細胞を助けることに焦点を合わせるという、現在のあらゆる糖尿病治療薬とは異なるアプローチをテストすることになる。



UABの科学者は長年の研究を通して、高血糖はTXNIPというタンパク質の過剰生産を引き起こすことを明らかにしてきた。TXNIPは糖尿病に応じてβ細胞内で増加するが、それがベータ細胞にとってどれほど重要であるかはまったく知られていなかった。膵β細胞内の過剰なTXNIPは細胞死につながり、インスリンの分泌を妨害して糖尿病の進行に関与する。

しかしUABの科学者は、ベラパミルという高血圧と片頭痛の治療薬がβ細胞内のTXNIPレベルを低下させることも発見した。300mg/dLを上回る高血糖の糖尿病マウス・モデルにベラパミルを投与すると、糖尿病は根絶された。



臨床試験では1型糖尿病の診断を受けて3ヵ月以内の、19歳から45歳の間の52人を登録する予定である。登録された患者はインスリン・ポンプ療法は継続し、さらにベラパミルまたはプラセボのどちらかの1年間の投与にランダムに割り振られる。

「最良のシナリオとしては、患者のβ細胞が十分なインスリンを生み出せるほど増加して、インスリン注射を全く必要としなくなることである。しかし1年という短期間であることを考慮すれば、今回の試験ではそれは無理そうである」、UAB総合糖尿病センターの責任者であり、ベラパミル臨床試験の主任研究員でもあるAnathシャレヴ医学博士は言う。

「我々は以前の大規模な臨床研究から、患者自身の残っているβ細胞の量がわずかであっても非常に有益な結果が得られ、合併症を低下させるということを知っている」、シャレヴは言った。

「それはおそらく、ほんのわずかな数のβ細胞でも血糖のきわめて微細な変動に対して非常に適切に反応することができるからだろう。それはインスリン注射や、より精巧なインスリンポンプの反応よりもずっと適切である。」

研究グループは現在、TXNIPを阻害するための分子を積極的に探している。

記事出典:
上記の記事は、アラバマ大学バーミングハム校によって提供される素材に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141106082041.htm

<コメント>
ベラパミルというカルシウムチャネル遮断薬(calcium channel blocker)は、チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)を抑制してβ細胞の生存を助けるという記事です。

カルシウムチャネル遮断薬には第1世代、第2世代、第3世代があり、ベラパミルはその第1世代です(動物実験で胎児毒性が報告されているため妊婦または妊娠の可能性がある人は禁忌)。

TXNIPは、高血糖、ERストレスROSなどによって誘導されるタンパク質で、チオレドキシンと結合して阻害することでROSをさらに促進したり、アポトーシスを誘導します。

高血糖の状態が続くと、過剰なグルコースの代謝産物Xu5pがPP2Aを活性化させ、炭水化物応答配列結合タンパク質ChREBP)を脱リン酸化します。脱リン酸化されたChREBPは核へ移行してTXNIPの転写を促進します。

2012年の彼らの論文によれば、ChREBPはPP2B/カルシニューリンでカルシウム依存的に脱リン酸化して核へ移行します(カルシニューリン阻害剤でも抑制できる)。


2014年11月6日

2014-11-09 00:16:53 | 代謝

糖尿病の女性の妊娠で増加する神経管欠損の原因となる分子経路
New step in molecular pathway found responsible for neural tube defects, a birth defect that is increased in diabetic pregnancies



ジョスリン糖尿病センターの研究員であり、ハーバード医科大学院の准教授でもあるMary R. Loeken博士は、糖尿病中の妊娠で神経管欠損の原因となる分子経路を発見した。彼女による最新の研究はDiabetes誌の10月号で発表された。



1990年代前半、科学者は遺伝子のPax3が神経管の閉鎖のために必要であることを知った。しかしそれから20年間、糖尿病の女性が妊娠するとこの遺伝子の機能不全が引き起こされる理由は、これまで正確には知られていなかった。

妊娠する糖尿病の女性は、赤ちゃんの神経管が折り重なって閉じられる間に無脳症や二分脊椎を発症するリスクが平均より高い。神経管は脊髄と脳を組み立てる最初の段階であり、それは妊娠から最初の2~4週以内に起こる。



Loeken博士は妊娠中の糖尿病の女性でPax3の機能不全がどのように、そしてなぜ生じるかについて20年以上研究してきた。

以前の研究で彼女はPax3が高レベルのブドウ糖に感受性であることを発見した。高血糖イベントにさらされると、Pax3はオンにならない。

このことは特に危険である。なぜなら神経管の閉鎖が生じるのは最初の妊娠月であるため、糖尿病の女性が妊娠していることを知らない可能性があるからである。彼女は血糖をコントロールするための血糖測定をしていないかもしれない。



今月のDiabetesの論文でLoeken博士は、何がPax3のスイッチを妨害するかについて記述する。重要なのは、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNA Methyltransferase; Dnmt)、特にサブタイプDnmt 3bと呼ばれる酵素である。DNAメチルトランスフェラーゼはDNAの化学的構造に変化を加える酵素のファミリーであり、4種類の塩基の一つ、シトシンにメチル基を加える。

正常な発達において、Pax3遺伝子が動き出す前にDnmtはPax3遺伝子の周辺のDNAにメチル基を付け加え、それから急に先細り(taper)になる。

Loeken博士はブドウ糖がDnmt 3bを過剰に刺激することを発見した。過剰に活性化したDnmt 3b酵素は、Pax3遺伝子の近くでメチル基をシトシンに加え続け、Pax3がオンにならないように阻害する。その結果、Pax3は神経管を閉じることができなくなる。

Loeken博士によると、Dnmt3bが完全に悪い酵素であるというわけではない; Dnmt3bは胚の生存のために必須である。



Loeken博士は、この研究が幹細胞による治療につながる可能性があると言う。

「我々は、これらの経路を利用してより有効な幹細胞を作ることで、先天性の奇形を修復することが可能かもしれない。」

「そして、それは糖尿病だけに限らない。」

神経管欠損は非糖尿病性の妊娠でも起きる。米国では毎年およそ1,500人、世界的には約30万人がその影響を受ける。Loeken博士の研究は神経管欠損に取り組む他の科学者の注目をすでにとらえている。



治療薬が開発されるまでの間、糖尿病の妊娠の合併症から保護するために最善の方法はしっかりと妊婦の血糖値をコントロールすることであるとLoeken博士は指摘する。それは妊娠前から開始し、そして計画的に妊娠することが重要である。

「母親がきわめてしっかりした血糖管理下にあり、細胞にブドウ糖が急激に流入するレベルを上回らないように気をつけていれば、過剰なメチル化のようなイベントはきっと生じないだろう。」

記事出典:
上記の記事は、ジョスリン糖尿病センターによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.DNAメチルトランスフェラーゼ3bによって媒介されるCpGアイランド・メチル化の増加は、糖尿病の妊娠中の酸化ストレスによって刺激され、神経管と神経堤の発達のために必要とされる遺伝子の発現を阻害する。

Diabetes、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141106113200.htm

<コメント>
妊娠初期の高血糖はDNMT3bによる過剰なメチル化を刺激して神経管/神経堤の発達に必要なPax3の発現を阻害し、先天性奇形(congenital malformations)の原因になりうるという記事です。

その原因として酸化ストレス(oxidative stress)が挙げられています。医学大辞典によれば、不飽和脂肪酸は易酸化物質であるため酸化ストレスの障害を受けやすいとあります(『酸化ストレス』の項)。妊娠前後は、おそらく揚げ物のような加熱した油の過剰な摂取は控えた方がいいのでしょう。


2014年11月3日

2014-11-06 23:25:49 | 代謝

How bile acids could fight diabetes
胆汁酸はどのように糖尿病と戦うか




スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Ecole Polytechnique Federale de Lausanne; EPFL)の科学者は、胆汁酸はほとんど注目されていない受容体を活性化することをイタリアとオランダの研究者たちと共に示した。



糖尿病はインスリンに関する問題があるときに発症する。これは膵臓が十分なインスリンを作り出すことができないか、または人体が効果的にインスリンを使えないときに起こる。

2型糖尿病は一般に肥満によって引き起こされるが、2型糖尿病の主要な問題の1つはそれがしばしば脂肪組織での慢性的な炎症と同時に起こるということである。この炎症は脂肪組織内のマクロファージと呼ばれる免疫細胞の活動から生じる。そして、脂肪組織は化学的シグナルによりさらに多くのマクロファージをリクルートする。

マクロファージの蓄積は、適切にインスリンに反応する脂肪細胞の能力に干渉する。この状態は「インスリン抵抗性」として知られている。それゆえに、製薬会社は脂肪組織でマクロファージの蓄積を最小限に抑えることができる治療薬を緊急に求めている。



EPFLのクリスティーナSchoonjansが率いる研究チームは、マクロファージ上に存在する受容体が2型糖尿病の炎症を阻害できることを発見した。このマクロファージの受容体はTGR5と呼ばれ、我々の胆汁に含まれる化学物質によって活性化される。この化学物質をまとめて「胆汁酸」という。

胆汁酸は小腸に限定され、そこで脂質の消化を手伝うだけであると伝統的に考えられてきた。しかし最近の研究(その多くはSchoonjansによって実施されたものである)は、胆汁酸が血流にも入ってホルモンのようにふるまうことを示してきた。胆汁酸はTGR5のような受容体に作用し、様々な細胞のふるまいに影響を与える。

研究者は、TGR5が脂肪組織に多くのマクロファージを引きつける化学的シグナルを阻害できることを発見した。彼らが胆汁酸に類似する化合物でTGR5受容体を活性化すると、そのシグナルは細胞内で分子カスケードを引き起こしてマクロファージの蓄積を低下させ、2型糖尿病と関連する炎症を著しく抑制した。

マクロファージのTGR5に対する胆汁酸の影響を模倣できる分子は、新しい抗肥満薬・抗糖尿病薬になりうる。

「もちろん、我々は糖尿病の治療のために胆汁酸を使いたくはない」、研究の筆頭著者であるアレッシアPerinoは言う。

「我々は胆汁酸の影響を模倣できる分子を見つけることに非常に興味がある。実際、我々はそのような分子をすでにいくつか発見している。」

記事出典:
上記の記事は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.TGR5は、mTORによって誘導されるC/EBPβの差動的な翻訳によりマクロファージの移動を低下させる。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141103192038.htm

<コメント>
胆汁酸は腸での消化だけでなく血液中でホルモンのように作用して、TGR5受容体を介してマクロファージによる炎症を抑制するという記事です。骨髄細胞(myeloid cell)特異的にTgr5をノックアウトしたマウスは、食餌で肥満を誘導すると脂肪組織の炎症と共にインスリン抵抗性を生じました。

本文によれば、マクロファージをLPSで刺激すると転写因子C/EBPβの発現が増加しますが、TGR5作動薬のINT-777で活性化するとC/EBPβの発現は変わらないままで炎症性のC/EBPβアイソフォーム(liver activating protein; LAP)の割合が減少し、N末端の転写活性化ドメインを欠くため炎症を活性化しないアイソフォーム(liver inhibitory protein; LIP)の割合が増加したとあります。

転写因子C/EBPβは炎症性サイトカイン遺伝子(CCL2、CCL3、CCL4)のプロモーター領域に結合するため、TGR5により転写活性がないアイソフォームに切り替わると炎症も抑制されます。このアイソフォームの切り替えは、LPSとTGR5によって誘導されるAkt/mTOR/p70S6K/4E-BPのリン酸化に依存的であるとのことです。

ところで、興味深いのは次の一文です。

>BAs(bile acids) are robustly induced in human plasma after a glucose challenge (86) and correlate with enhanced insulin sensitivity (26, 87).

胆汁酸は、グルコースチャレンジ(OGTT)でヒト血漿中に誘導されるようです。

もちろん、砂糖水で糖尿病が防げるという意味ではありません。念のため。


2014年11月4日

2014-11-05 15:57:00 | 代謝

赤身肉は心臓を危険にさらすが、問題は腸で始まる
Red Meat Endangers The Heart, But The Problem Starts In The Gut; Treating Heart Disease In The Stomach



ラーナー研究所のStanley Hazenの研究チームは赤身肉の消化を追跡して、我々の腸内細菌がいくつかの「危険な消化」をしていることを発見した。

赤身肉に多いL-カルニチン(L-carnitine)が我々の腸に入ると、それはトリメチルアミン-N-オキシド(trimethylamine-N-oxide; TMAO)と、そしてγ-ブチロベタイン(γ-butyrobetaine)というもう一つの物質に変わる。それらはどちらもアテローム性動脈硬化症を引き起こすことが判明した。

研究者たちは体内でのL-カルニチンの役割を疑っていたが、しかし実際にはγ-ブチロベタインがTMAOの形成より1,000倍も速く蓄積することを発見した。L-カルニチンが分解する時にこの2つの異なる消化経路と変換が生じ、それは完全に異なる速度である。

赤身肉はタンパク質と脂肪の巨大な供給源だが、あなたが遺伝的に心疾患がある場合は赤身肉を節制することが最善である。それらを安全に消化することによりプラーク増強を抑制する薬が開発されない限り。

落ち着こう。これは赤身肉があなたを殺すことを意味しない。ただ単に、節制は長く健康な生活を送るための重要な鍵であるということである。

学術誌参照:
1.γ-ブチロベタインは、L-カルニチンからTMAOへの腸微生物の代謝における中間体であり、アテロームの形成を促進する。

Cell Metabolism 2014.

http://www.medicaldaily.com/red-meat-endangers-heart-problem-starts-gut-treating-heart-disease-stomach-309200



<コメント>
赤身肉に多いカルニチン(L-carnitine; 3-hydroxy-4-trimethylammoniobutanoate)は腸内細菌によってヒドロキシ基が外され、
γ-ブチロベタイン(γ-butyrobetaine; 4-trimethylammoniobutanoate)へと変換され、
その速度はトリメチルアミン(TMA)の形成より1000倍も速いという記事です。

トリメチルアミンは肝臓でトリメチルアミン-N-オキシド(trimethylamine N-oxide; TMAO)へと変換され、アテローム性動脈硬化を促進することが報告されています。



2014年11月04日

2014-11-05 13:13:50 | 代謝

微小管モーターKIF12を含む抗酸化シグナル伝達は、ベータ細胞における栄養過剰の細胞内標的である
Antioxidant Signaling Involving the Microtubule Motor KIF12 Is an Intracellular Target of Nutrition Excess in Beta Cells



ハイライト

・KIF12ノックアウト・マウスは、糖尿病のベータ細胞リポ毒性のモデルを提供する

・KIF12は、Sp1安定化により抗酸化活性を発揮する

・Sp1は、Hsc70転写を増強して、適切なペルオキシソーム生合成を促進する

・過剰な脂肪酸摂取は、KIF12を下方制御することによって、ベータ細胞を害する



概要

酸化ストレスに起因するベータ細胞の傷害は、栄養過剰によって引き起こされる糖尿病の典型的な病因である。しかしその正確なメカニズムは不明なままである。

ここで我々は、微小管モーターのKIF12がベータ細胞の抗酸化カスケードを仲介し、過剰な脂肪の摂取(リポ毒性)の細胞内標的であることを証明する。

KIF12ノックアウト・マウスは、ベータ細胞の酸化ストレス増加による低インスリン血症の耐糖能異常を生じる。

我々はこのモデルを用いて、転写因子Sp1の足場(scaffold)としてのKIF12を含む抗酸化シグナル伝達カスケードを特定した。

新しく生じた(nascent)Sp1の安定化は、Hsc70発現の増強による正確なペルオキシソーム機能のために必須であるようだ。

テプレノン(teprenone/geranylgeranylacetone; ゲラニルゲラニルアセトン。セルベックス)によりHsc70の発現を薬理学的に誘導すると、酸化ストレスは中和された。

KIF12は脂肪酸への慢性的な曝露により転写的に下方制御されることから、このKIF12とHsc70を含む抗酸化カスケードは糖尿病におけるベータ細胞内の栄養過剰の重要な標的であることが提案される。

http://www.cell.com/developmental-cell/abstract/S1534-5807(14)00559-0



<コメント>
脂肪酸過剰─┤HNF1α→KIF12転写→Sp1安定化→Hsc70転写→ペルオキシソーム生合成

ペルオキシソームは、脂肪酸・アルコール・アルデヒドの分解に関与し、過酸化水素を分解するカタラーゼ等が含まれる重要な細胞内小器官です。

ScienceDailyには掲載されないと思うので、Abstractを訳しておきます。

毎日新聞の記事はこちら


2014年10月9日

2014-10-11 23:17:00 | 代謝

合成油脂を含む食事は、マウスの自閉症スペクトラム障害を改善する
Mouse version of an autism spectrum disorder improves when diet includes a synthetic oil



レット症候群というまれな自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder; ASD)の若いマウスモデルに合成油脂のトリヘプタノインを追加した食事を与えると、そのマウスは通常の食事のマウスよりも長生きした。

重要なことに、トリヘプタノインを追加した食事後は、身体的および行動に関する症状の重症度が低下した。

研究者はトリヘプタノインがミトコンドリアの機能を改善したと考えている。ミトコンドリアの障害は他のASDでも観察されるため、研究者はこの実験的結果がレット症候群だけでなく、より一般的なASD患者を助けることができる望みを与えると言う。



レット症候群はメチル-CpG-結合タンパク質2(MeCP2)をコードするMECP2遺伝子の突然変異によって引き起こされる珍しいASDである。

レット症候群で見られる徴候は他のASD患者でも観察されるが、このことは根底に存在する類似性を示唆する。

研究チームはMeCP2タンパク質を欠損するマウスを使用した。MeCP2の欠如はマウスに重度のレット症候群を引き起こす。

それらのマウスを調べる際にポストドクターMinユング・パーク博士の目を引いたのは、、健康なマウスと同じ重さだったにもかかわらず脂肪が大量に蓄積し、脂肪を含まない組織(例えば筋肉)は少なかったということである。

これに対してジョンズ・ホプキンス医科大学の研究プロジェクトのリーダーであるカブリエーレRonnett医学博士は、カロリーが正常な組織の機能を養うのに用いられず、代わりに脂肪として貯蔵されていると考えた。

この可能性はRonnettと彼女の研究チームにミトコンドリアの役割を考慮させた。ミトコンドリアは栄養分を高エネルギー分子であるATPに変換し、ATPは筋肉の構築と神経細胞の成長のようなプロセスを促進する。

ミトコンドリアはTCA回路と呼ばれる一連の生化学的な反応を使用してATPへの変換を可能にする。研究メンバーのスーザンAja博士助手によると、

「TCA回路の成分が減少するとTCA回路は停止して栄養分は適切に処理されず、ATPがつくられない。それらは代わりに脂肪として貯蔵される。」



Ronnettは、レット症候群の神経症状のいくつかは脳細胞の不完全なミトコンドリアとエネルギーの低下によって引き起こされる代謝性欠乏(metabolic deficiencies)から生じる可能性があると推測した。

「レット症候群は生まれて6ヶ月から18ヵ月で明らかになる。それは新しい神経結合が多く作られている期間であり、脳のエネルギー必要性が特に高い時期である」、Ronnettは言う。

「ミトコンドリアに障害があるかストレスに曝されている場合、そのような需要の増大を満たすことはできないだろう。」



以前の異なる代謝異常の人々における小規模な臨床試験は、トリヘプタノインによる食事介入が助けになる可能性を示唆した。

トリヘプタノインは無味無臭で、オリーブ油より少し薄い(thinner)。

それは容易に加工処理されて、TCA回路の成分の1つを生み出す。



実験ではレット症候群マウスは生後4週間目で離乳され、カロリーの30パーセントがトリヘプタノインになるように正常なペレット食に混ぜて与えられた。

結果、治癒からは遠いもののトリヘプタノイン処置の結果は印象的であったと研究者は言う。

処理されたマウスは、ミトコンドリアが健康になり、運動機能は改善され、他のマウスに対する社会的関心は増加した。そして、油を与えなかったマウスよりも4週間(30パーセント)長く生存した。

また、研究チームはトリヘプタノインを添加した食事が体脂肪・ブドウ糖・脂肪の代謝を正常化することを発見した。



「レット症候群モデルマウスのミトコンドリアは、穴が開いて破損したバケツであると考えることができる。そこからはTCA回路の成分が漏れてしまい、漏れた成分は脂肪になる」、Ajaは言う。

「我々はどのようにバケツの穴をふさぐかについて理解していなかった。しかし、今の我々はバケツをいっぱいのままにしておくことができる。トリヘプタノインを与えてTCA回路を補充(replenish)することによって。」

「このオイルがASDのヒトで機能すると仮定するには早過ぎるが、これらの結果は我々に望みを与える」、Ronnettは言う。

現在トリヘプタノインは研究目的のためにだけ使われ、ヒトの薬剤または栄養補助食品として利用することはできない。

記事供給源:
上記の記事は、ジョンズ・ホプキンス・メディシンによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.MeCP2ヌル・マウスにおける補充的トリヘプタノイン食は、ミトコンドリアの基質利用を促進してメタボロームを改善し、寿命と運動機能、社交性を改善する。

PLoS ONE、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/10/141009141452.htm

<コメント>
レット症候群という自閉傾向を伴う発達障害のモデルマウスではミトコンドリアのTCA回路が上手く回っておらず、トリヘプタノインを与えることにより様々な徴候が改善したという記事です。

以前トリヘプタノインがGlut1欠損による癲癇(てんかん)を改善するという記事がありました。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/26dc841dbc7d25c72156dffba447ac93

>G1Dで唯一証明された治療は高脂肪のケトン誘発食だけであり、しかもそれは患者のおよそ3分の2にしか効果がない。加えてケトン食は腎結石と代謝性異常のような長期リスクがある。

>本研究の結果によれば、トリヘプタノインはケトン誘発食と同程度に効果的なように見える;

2014年9月30日

2014-10-02 08:51:00 | 代謝

遺伝子の研究は、ビタミンDによる2型糖尿病の発症阻止について更なる疑いを投げかける
Genetic study casts further doubt that vitamin D prevents the development of type 2 diabetes



大規模な遺伝子の研究により、ビタミンDレベルと2型糖尿病の発病の間に因果関係のエビデンスは存在しないと研究者は結論した。

ケンブリッジ大学の科学者によって実施された今回の研究は、循環血中のビタミンDの高い濃度が2型糖尿病を阻止する可能性を示唆する以前の観察研究によるエビデンスを検証した。以前の研究は観察的なものであり、2つの状態の因果関係を直接調べることはできない。

ケンブリッジ大学臨床医学部の医学研究審議会(MRC)疫学ユニットのNitaForouhi博士たちは、ビタミンDの血中濃度を制御する遺伝子を評価することにより糖尿病リスクとビタミンDの関連を調べた。

著者たちは、ビタミンDレベルを制御するそれぞれの遺伝子変異体と2型糖尿病を発病するリスクの間に関連を発見しなかった。さらに研究ではビタミンD状態と2型糖尿病のいくつかの生理的特徴(例えばブドウ糖や糖化ヘモグロビン)の関連も調査したが、因果関係のエビデンスは発見されなかった。

学術誌参照:
1.循環血中の25-ヒドロキシビタミンDと2型糖尿病との間の関連:
メンデルランダム化研究。

ランセット糖尿病及び内分泌学(2014);

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140930212038.htm

<コメント>
ビタミンDと2型糖尿病の関連についてです。

本文には、血液中の25-ヒドロキシビタミンD / 25(OH)Dの濃度は必ずしも生物学的利用能(bioavailability)を反映しないため、1,25(OH)2Dも調べる必要があると書かれています。


>The DBP gene encoding vitamin D-binding protein, involved in 25(OH)D transport, is an unconfounded determinant of 25(OH)D concentration, but might have an opposing genetic effect on 1,25(OH)2D.

>The DBP gene product associated with increased 25(OH)D concentrations might sequester 25(OH)D in blood and reduce bioavailability of 25(OH)D.

>Therefore, 25(OH)D represents vitamin D status, but not necessarily the amount of bioavailable vitamin D.

>1,25(OH)2D, need to be studied.