雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「卯の花姫伝説」

2015-01-10 | エッセイ
 山形・長井市にライダーたちのお参りが絶えない、通称ライダー神社(?)、由緒ある「総宮(そうみや)神社」という大社がある。この総宮という名は、長井郷四十四ヶ村の神社を合祀合祭して鎮守とした時に付けられたもので、総合の意がある。
 総宮神社には、古式ゆかしい黒獅子舞が伝承されるが、これは「卯の花姫伝説」から発祥したものだ。

 今から約千年前に、朝廷から奥羽制圧の命(めい)を受けた朝廷軍と、それに反抗する奥羽軍の戦い「前九年の役(えき)」が勃発する。朝廷軍は源頼義、義家親子、奥羽軍は安倍頼良(頼時)、貞任親子である。安倍貞任(あべのさだとう)には、気丈で美しい「卯の花」という姫が居て、要害の地すなわち敵が攻めにくい長井の郷を果敢に護り抜いていた。
 苦戦を強いられた源頼義は、息子の義家を卯の花姫に近付かせるように仕向ける。

 ある日、卯の花は山中で道に迷った凛々しくも美形の若い男をみつける。
   「如何なさいました?」
   「道に迷って難儀をしています」
   「それはお気の毒なこと、わたくしが郷まで道案内を致しましょう」
   「忝のうございます」
 二人は他愛のない話をしながら歩いたが、最後には笑いが出るほどにも打ち解けた。
   「また、姫にお逢いすることが出来ればよいものを…」
 別れ際に言った男の言葉に、姫もまたそれを願った。
   「明後日、またここでお逢いしましょう」
 姫は、そういうと、再び今来た山道を引き返して行った。

 何度か逢瀬を重ねたある日に、男は姫に尋ねた。
   「もしや、あなたさまは安倍殿のご息女、卯の花姫ではございませんか?」
   「如何にも卯の花でございます」
 男は、いきなり姫の前に土下座をして涙を零した。
   「わたしは、何を隠そう姫の怨敵、源頼家に御座います」
 頼家、「何という悲しい運命、こんなことであれば姫と出逢うのではなかった」と嘆いた。
   「わたしは、戦を憎みます」
 もとより、戦などというものが無ければ良いと願っていた頼家であるが、朝廷の命に逆らえず奥羽の地に攻め入った。
   「姫、どうぞ敵であるわたしを、この剣で刺し殺してくだされ」
   「戦を憎むは、わたくしとて同じこと、どうぞこの場よりお立ち去りください」
 頼家は感涙に咽んだ。
   「わたしは戻って、奥羽の地が安泰ありますように祈り、帝にこの制圧を止めるよう奏上致します」
 卯の花姫も、もとより頼家と同じ思いであった。
   「次は戦のない世の中で、愛しあう男と女として、ここでお逢いしましょう」
 卯の花は、戦を制止するためという頼家の言葉に酔い痴れ、奥羽軍の戦略を語ってしまうのであった。

 朝廷軍は、次々と奥羽軍の要害を破り、卯の花姫の父、安倍貞任は討ち死にする。頼家を信じた姫は、騙されてたことに気が付き、自分の所為で父を死なせてしまったと嘆く。敵の勢力は止むことなく、長井にまで及び、阿倍の一族は次々と倒された。卯の花姫は逃げ場をなくし、最後に頼りとした僧兵も破れ、堂宇に火を放たれたと知らされる。卯の花姫は断崖に立ち、もはやこれまでと三淵に身を投じた。一族のものは討ち死にし、残ったものは姫の後を追った。

 
  これは「卯の花姫伝説」に、猫爺の想像を加えた「セリフ入りエッセイ」であります。
  総宮神社の宮司さんのお名前は「安倍」さんとおっしゃいます。これは偶然ではなく、安倍一族の末裔でいらっしゃるのでしょう。(猫爺)
 

 


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