雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

夢枕ではないけれど…

2011-11-23 | 日記
 妻が亡くなった時の夢ばかり見ていたのに、初めて元気な姿の妻の夢を見た。 それも真っ昼間の微睡のなか。 台所から居間にはいると、絨毯の上に妻がちょこんと座っていた。 抱きしめて「なんで、なんで」と質問を繰り返すのだが、言っていることはトンチンカン。 「一人で帰ってきたのか?」「先生、かえって良いと言うんか?」「黙って帰ってきたんやろ」 亡くなったことは判っているのに、入院先の病院から抜け出してきたような感覚だ。 妻は、何も言わずに笑っていた。 

 昔、聞いたことがある。「亡くなった人は、夢の中では喋らない」 なるほど、このことかと思ったが、そんなことは無い。 先に亡くなった友達連中は、うるさいほど喋りかけてくる。 妻が何も喋らなかったのは、私の現実から逃避しようと思う意識が、妻を黙らせてしまたのだろう。「夢には色がない」と言うのも嘘だ。私の見る夢は、昔風に書けば「総天然色」だ。 昔、そう主張したら、「色付きの夢を見るのは、気が狂っている証拠だ」と言われた。 「ほっとけ!バカタレ!」と私が言い返したかどうかは定かでない。

 幾度となく入退院を繰り返してきた妻だが、一度たりとも独りで帰ってきたことも、誰か他の人に連れて帰ってもらったことも無い。 必ず私が迎えに行っていた。 迎えに行くと、妻は嬉しそうに怒ってみせた。「遅いなあ、用意してずっと待っていたのに、何しとったん!」 そして、同室の患者さん達に冷やかされるのが常だった。


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