長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・ボーイズ シーズン1〜2』

2021-10-04 | 海外ドラマ(ほ)

 エミー賞ドラマシリーズ部門作品賞ノミネートを受けての製作陣の第一声が「あいつら(アカデミー会員)どうかしてんな」だったというのだから、『ザ・ボーイズ』はやっぱりけしからんドラマだ。
 アメリカはヴォート社(アルバカーキから遥か彼方の銀河系まで暗躍するジャンカルロ・エスポジート社長)がプロデュースするヒーロー集団“セブン”によって守られている。メンバーはどう見てもスーパーマンなホームランダーを筆頭に、どう見てもワンダーウーマンなクイーン・メイヴ、どう見てもアクアマンなディープなどなど、どうにもコスプレ感の漂う連中ばかり。そして目にも止まらぬスピードで走るクイックシルバーなヒーロー、Aトレインによって主人公ヒューイーは恋人を轢き殺されてしまう。今まで誰もツッコんで来なかったが、ヒーローの活動の影で絶対に何人か死んでるよな。

 『ザ・ボーイズ』はDCもMCUも敵に回すドス黒い笑いと、TVシリーズの限界に挑むゴア描写で現代アメリカのヤバさをえぐり出す。ヴォート社はヒーローを兵器化することでアメリカ政府から国防を買い付けようと画策。ついには中東にスーパーヒーローと同等の力を持った“スーパーヴィラン”を作り出し、国家の危機を捏造する。彼らの支持母体は熱烈なキリスト教原理主義団体で、新ヒーロー"スターライト”はまるで90年代ハリウッド映画に出てきそうな典型的白人ブロンド美少女だ。

 これらはキリスト教原理主義に支配されたアメリカ共和党と、9・11から連なる対テロ戦争そのものだ。ホームランダーは2000年代アメリカ右派政治の象徴であり、シーズン2ではここにドイツ系のスーパーヒーロー、ストームフロントが合流する。彼女はフランクな物言いと、炎上も見込んだアジテーションで瞬く間に人気を獲得するが、その名の由来は実在するネオナチグループの連絡サイト名だ。軍産複合体×キリスト教原理主義のホームランダーに白人至上主義×2010年代型ネトウヨスキームのストームフロントが文字通り悪魔合体。それは共和党がトランプに乗っ取られて以後、ただただ人種差別の荒野だけが残った現在のアメリカが重なる。このグロテスクさ際立つシーズン2は今年1月に発生した連邦議事堂占拠事件をも予見。エグゼクティブプロデューサーにはセス・ローゲンが名を連ねており、単なる悪ふざけには終わらない批評性がある。

 このセブンに対抗する生身の人間達が“ザ・ボーイズ”だ。カール・アーバンがリーダーのブッチャーを豪放に快演。トマー・カポン演じるフレンチーには毎話、素晴らしいダイアログが用意されており、福原かれんが『スーサイド・スクワッド』ではなくDCもMCUも敵に回した本作でブレイクしたのは胸がすく。
 それでもやっぱりデタラメなセブンに目が行ってしまう。とりわけ僕は第1話で性的暴行によりキャンセルされて以後、落ちぶれていくディープが可笑しいったらなかった。そうそう、『ザ・ボーイズ』は各方面を敵に回しているが、一番ヤバいのは動物愛護団体だ。海洋生物愛好家には卒倒もののシーンがあるので気をつけるように!

 こんな鬼っ子がメインストリームから登場し、大ヒットできてしまうのもスーパーヒーローものというジャンルの懐の深さ、複雑さと言えるだろう。けしからんようでいて、テーマは至極真っ当。どんなに強大な権力でも、それが間違っているのならNOと言い続けなくてはならない。ブッチャーの「腐るなよ」というセリフは僕ら日本の観客にも大いに響くハズだ。


『ザ・ボーイズ』19〜・米
製作 エリック・クリプキ、セス・ローゲン、他
出演 ジャック・クエイド、カール・アーバン、トマー・カポン、マーヴィン・T・ミルク、福原かれん、アントニー・スター、エリン・モリアーティ、ドミニク・マケリゴット、アヤ・キャッシュ、エリザベス・シュー、ジャンカルロ・エスポジート


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