長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ブギーマン』

2023-09-19 | 映画レビュー(ふ)

 北米では当初Huluでの配信限定作品として製作されていたが、テスト試写での評判から急遽サマーシーズンに公開され、初登場3位のスマッシュヒットを記録。今やハリウッドでこんなポジティヴな話が聞けるのはホラー映画界隈くらいなのか。スティーヴン・キングの小説『子取り鬼』を原作とする本作は、エンドロールが流れる頃にはすっかり暗闇が怖くなる演出に加え、クリス・メッシーナ、ソフィー・サッチャーら俳優陣の献身的演技によって恐ろしいだけではなく、ハートに響く作品となった。

 最愛の母を不慮の事故で亡くしたセイディと妹のソーヤー。時が経ち、ようやく学校への登校を再開しようとするも、未だ気持ちは晴れない。ソーヤー(『オビ・ワン=ケノービ』で幼少期のレイア姫を演じたヴィヴィアン・ライラ・ブレア)はクローゼットの暗闇から怪物が現れると信じており、夜は灯りを消して眠ることもできないのだ。父はセラピストとして事故後も患者とのセッションを欠かさず、かえって患者たちから「先生の方こそ大変だろうに」と声をかけられる。職業倫理がそうさせるのか、娘たちのケアは他の医師に任せきりで、父自身はセルフケアもできていない。そこへ自らの子供を殺したと言う不気味な患者(デヴィッド・ダストマルチャン)が現れ…。

 スティーヴン・キングの原作はこの患者のモノローグを中心とした短編小説で、これを『クワイエット・プレイス』シリーズのスコット・ベックとブライアン・ウッズ、マーク・ヘルマンの3人がかりで脚色し、キングワールドを拡張した。キング作品の全てが同じユニバースに存在し、事象や人物が時に名前を変えて登場するのはファンなら既知のところ。劇中で“ブギーマン”と呼ばれる闇の怪物は、近作で言うと『アウトサイダー』に登場した“エルクーコ”と同じだろう。喪失の悲しみといった人間の負の感情を貪り、一家が全滅するまで追い詰めるとまるで伝染病のように次のターゲットへと乗り移っていく。時に姿や声音を模倣する様もそっくりだ。『ブギーマン』は中盤、怪物の正体を知る謎の女性(『JUSTIFIED』で女刑事をイイ面構えで演じていたマリン・アイルランド)の登場から転調。ゴシックホラーとアクションの組み合わせは、キング作品への多大なオマージュを込めたNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』を手掛けたショーン・レヴィが製作を務めている影響も少なくないだろう。

 セイディに扮したのはTVシリーズ『イエロージャケッツ』で、ジュリエット・ルイスの少女時代をそっくりのハスキーボイスで演じているソフィー・サッチャー。スクリーミングクイーンっぷりも頼もしく、何より泣きの芝居が素晴らしい。セイディが喪失の痛みと恐怖を乗り越えていく姿は、本作を“正統派”のホラーたらしめている。


『ブギーマン』23・米
監督 ロブ・サベッジ
出演 ソフィー・サッチャー、クリス・メッシーナ、ヴィヴィアン・ライラ・ブレア、マリン・アイルランド、デヴィッド・ダストマルチャン

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ソウルに帰る』 | トップ | 『プロスペクト』 »

コメントを投稿

映画レビュー(ふ)」カテゴリの最新記事