長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ライトハウス』

2021-07-18 | 映画レビュー(ら)

 2016年に『ウィッチ』で長編監督デビューを果たしたロバート・エガース監督、待望の最新作だ。前作に引き続き撮影ジェアリン・ブラシュケ、音楽マーク・コーヴェンらスタッフが再結集し、ここにウィレム・デフォーとロバート・パティンソンという新旧2大怪優が合流した唯一無二のホラー映画である。

 まずカメラの異様に驚かされる。1890年代ニューイングランドの人里離れた灯台島を映すそれは、1:1の画面比でモノクローム。ほとんど自然光のみで撮影していると思えるほどの陰影だ。そこにマーク・コーヴェンの恐怖スコアが漂い、そしてエガースがまたしても抜群の耳の良さで音響演出を加える。断崖で砕け散る波音、吹き付ける海風。それに煽られて建物は軋み、まるで異界の扉をこじ開けるかのような霧笛が登場人物のみならず、僕たちの精神を蝕む。この音と映像は自宅鑑賞ではそう易々と再現できまい。映画館の闇に耽溺してこそ味わえる快楽である。

 エガースとトリオを奏でる1人、ウィレム・デフォーは近年『フロリダ・プロジェクト』の心優しいモーテル管理人から、『永遠の門』のヴァン・ゴッホまでアカデミー賞に2年連続でノミネートされる名優然とした役柄が続いたが、ここでは怪優の本領を発揮。放屁すら放つフルバーストの狂気は笑いと恐怖が渾然一体だ。対するロバート・パティンソンも負けておらず、『悪魔はいつもそこに』のド外道牧師役を凌駕し、またしても自己ベストを更新している。

 エガースの映画では人々が閉鎖空間で「何か」に試される。ここに『ウィッチ』では女性の抑圧と解放というテーマが込められ、来る#Me tooに先駆けるネオウーマンリブ映画の先鋒となったが、対となる『ライトハウス』の男たちに救済はもたらされない。大言壮語を吐き、欲望に身を任せる男たちの姿は行き場を失った有害な男性性そのものだ。灯台はそんな男たちに審判を下し、映画はおぞましい結末を見るのである。古きを知り現在を描くエガースの最新作は、10世紀アイスランドのバイキングを主人公にした『The Northman』とアナウンスされている。


『ライトハウス』19・米
監督 ロバート・エガース
出演 ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン

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