長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『グレイハウンド』

2020-12-31 | 映画レビュー(く)

 コロナショックによってハリウッドが配信事業へと一気に加速した2020年。新興勢力AppleTV+がソニーから買い付けたのがトム・ハンクス主演の本作『グレイハウンド』だ。第二次大戦時、北大西洋を横断する米英商船団の護衛に当たった米駆逐艦グレイハウンドと、ドイツUボート“グレイウルフ”の死闘を描く海洋アクションだ。

 となればオールドファンには嬉しい海戦映画の傑作『眼下の敵』を彷彿とさせるが、こちらはドイツ側の描写を一切オミットしてさらに短い91分のランニングタイム。荒れ狂う北大西洋を駆逐艦が突っ伏さんばかりに航行し、爆雷が勢いよく射出され(こんな描写見た事ない)、水しぶきが上がる。だが本作の異質さはそんなスペクタクルや人物描写もほとんど排し、命令と復唱を繰り返す艦内の戦闘行動プロトコルをひたすら描いていることだろう。娯楽映画としての派手さよりもディテールが優先される本作は、ミリタリーマニア垂涎ではないだろうか。
 そんなC・S・フォレスターの原作を脚色したのは何と主演のトム・ハンクス。実は彼、既に作家デビューを果たしており、250台以上も所有するタイプライターについての小説を上梓しているという。そんな一風変わった文学的趣向が本作の脚色に繋がったのかも知れない。

 艦船がひしめく海戦シーンを大スクリーンで堪能したかったのはもちろん、ソナー音から艦砲の発射音、繰り返される復唱と劇場品質の音響で楽しみたかった。配信戦国時代は視聴者が製作者の意図する音響デザイン、音響演出を味わえる設備を確保することも課題となってくるだろう。


『グレイハウンド』20・米
監督 アーロン・シュナイダー
出演 トム・ハンクス、スティーヴン・グレアム


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