長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『タミー・フェイの瞳』

2022-03-14 | 映画レビュー(た)

 1970〜80年代に熱烈な支持を獲得したキリスト教福音派TV伝道師タミー・フェイと、その夫ジム・ベイカーを描く本作は、興味深いエピソードが矢継ぎ早に登場するもそれらを掘り下げるには至っていない。学生結婚した事で神学校を退学させられた2人は、パペットショーや歌謡を取り入れたポップな伝導スタイルで全米を巡業。やがて黎明期のTV伝道と出会い、自らがホストを務めるクリスチャン向けの番組“PTLクラブ”を発足させる。これが今日のメガチャーチに代表される宗教の産業化であり、ついにはキリスト教保守派を取り込もうとしたレーガンによって共和党の票田にまで肥大化していく。敬虔で純真な信仰者であった夫妻がTV伝導の力に魅せられ、何の疑いも持たずに献金横領に手を染めていく過程はポスト福音主義ホラーの亜種と言ってもいい不気味さであり、彼らが政治面でアメリカに及ぼした影響を思うと背筋が寒くなる。126分で語るにはあまりに多層的な人物であり、これはTVシリーズのナラティブが向いていたのではないだろうか。

 その結果、映画はタミー・フェイに対して同情的で、美化しているような印象が拭えない。彼女自身も信者の献金を使って豪遊していたにも関わらず、夫の不倫によって傷つけられた被害者として描かれ、2021年の映画らしく贖罪に対して赦しがもたらされている。キリスト教福音派において彼女がLGBTQの人権保護に熱心だったという姿勢を映画は再評価しているが、それはほんの一面に過ぎないだろう。タミー・フェイに扮したジェシカ・チャステインはフェイを象徴する分厚いメイクをまとい、歌い踊ってアカデミー賞にノミネートされた。実在の人物に寄せたなりきり演技は大女優のそれだが、彼女のベストワークとは思えない。チャステインの本領は舞台仕込みの繊細な心理演技であり、同年のTVシリーズ『ある結婚の風景』の方がより優れていた。

 夫ジム・ベイカー役のアンドリュー・ガーフィールドは『沈黙』『ハクソー・リッジ』に続いてまたしても信仰に取り憑かれた男に扮した。狂信が聖に転じる前2作とは異なり、ジム・ベイカーはとことん俗に堕ちる。一貫した役選びにガーフィールドのこだわりが伝わるが、何か特別なオブセッションがあるのだろうか。題材とのより強いコネクションはチャステインよりもガーフィールドに感じられた。


『タミー・フェイの瞳』21・米
監督 マイケル・ショウォルター
出演 ジェシカ・チャステイン、アンドリュー・ガーフィールド、ヴィンセント・ドノフリオ、チェリー・ジョーンズ
※ディズニープラスで配信中※ 

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