長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ターミネーター:ニュー・フェイト』

2020-01-26 | 映画レビュー(た)

 シリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロンが製作、原案に名を連ね、“『ターミネーター2』の正統続編!”と銘打たれたシリーズ第6作。『ターミネーター3』『ターミネーター4』『ターミネーター:新起動ジェニシス』が失敗するや黒歴史扱いをしてきたツケが回ったのか、市場では見向きもされず興行的惨敗を喫した。やむを得ないだろう。既に35年前のコンテンツであり、度重なる製作会社の倒産、版権移譲によって正しくフランチャイズ展開する機会を失してきた結果だ。

 それでも42年間のシリーズに幕を下ろした『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』の後では断固として支持したい。監督ティミ・ミラーはファンにおもねず、確固たる演出で“現在=いま”の映画として描こうとしているからだ。

 プロットはこれまでの焼き直しに過ぎない。舞台はメキシコ。ここに未来から最新型ターミネーターRev-9が送り込まれてくる。T-800型フレームに液体金属を纏い、分裂機能を備えた強敵だ(分裂してもなぜか大きさは変わらないし、特段スペックも落ちない)。狙いは現地の工場で働く若い女性ダニー。なるほど、今度は彼女が救世主を生むのか?そこへ彼女を守るべく未来から女戦士グレースが現れる。彼女は体の半分が機械化されたサイボーグ戦士だ。おっ、ここで『ターミネーター4』が“供養”されているじゃないか。Rev-9の急襲にダニーの物分かりの良さが気になるが、まぁみんな『ターミネーター』もT2も何度も見てるから当然か。いよいよ追い詰めらた2人の前に現れるのがサラ・コナー=リンダ・ハミルトン!ダダンダンダダン!

 2010年代は90年代前半頃まで活躍した俳優がスクリーンに復活し、その円熟を見せつけた。『スター・ウォーズ』続3部作のキャリー・フィッシャー、マーク・ハミル、『アイリッシュマン』のジョー・ペシ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のチャールズ・ダンス、そして本作のリンダ・ハミルトンだ。ジェームズ・キャメロンとの破局後、引退状態にあった彼女が我が子を奪われ、自暴自棄になったサラ・コナーに並々ならぬ迫力と深みを与えている。ダニーそのものが救世主であると知った彼女がそこに亡きジョン・コナーの姿を見出し、再び立ち上がる姿はキャメロン版への現代的意趣返しであり、感動的だ。映画はサラ、グレース、ダニーという3世代の女性達によるロードムービーになっており、シリーズのアイコンであるシュワルツネッガーが添え物程度の役割に収められているのもいい。

 女戦士グレースに扮し、見事な肉体改造を果たしたマッケンジー・デイヴィスも本作の興行的失敗がキャリアに影響を及ぼす事はないだろう。彼女のユニセックスな魅力がダニー、サラのシスターフッドを強めている(デイヴィスの出演作にLGBTQものの傑作『サン・ジュニペロ』がある事も影響しているかも知れない)。
ジェームズ・キャメロンの強い女性に対する憧れとフェチズムが現代的なフェミニズムに結実したのは意外だが、喜ぶべき事だろう。『ターミネーター』は運命に翻弄されるサラ・コナーの物語として出発しながらリンダ・ハミルトンを捨て、ジョン・コナーの物語へと舵を切った事で失敗した。女性は産むために存在するのではない。真の強さを持っているのは自らの手で運命を切り開いてきた彼女達なのだ。


『ターミネーター:ニュー・フェイト』19・米
監督 ティム・ミラー
出演 リンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツネッガー、マッケンジー・デイヴィス、ナタリア・レイエス、ガブリエル・ルナ
 

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