長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ピーター・パン&ウェンディ』

2023-06-05 | 映画レビュー(ひ)

 デヴィッド・ロウリーが再びディズニー映画に還ってきた。2016年に1977年のディズニー実写(+アニメーション)映画のリメイク『ピートと秘密の友達』を監督。ファミリー映画の公約数を守りながらオールドクラシックのスタイルを貫き通した手腕が評価され、後に出演のロバート・レッドフォードからは引退作『さらば愛しきアウトロー』のメガホンを託される事になる。テレンス・マリックに師事し、レッドフォードから後継者として認められた、いわばアメリカ映画の正当継承者であり、70年代のニューシネマを想起させる作風は初期作『セインツ 約束の果て』から一貫していた。今回、ディズニーからビッグバジェットを受け取った彼は、スタッフ・キャストを引き連れてカナダの荒野ニューファンドランド島へと渡り、『ピーター・パン&ウェンディ』を何とテレンス・マリック風に撮り上げている。永遠の子供でいることを約束された場所ネバーランドにはレンズフレアの日輪がきらめき、マジックアワーの陽光が草原を照らす。今やトレードマークと言える瞬時に時間を跳躍する力技も健在。美術は深々とした天鵞絨で統一され、私たちはその美しさにため息を洩らす。劇場公開なしのディズニープラス限定作だが、会員を呼び込むためにはあまりに作家性が突出している。

 そしてここには『グリーン・ナイト』と同様、古典を現代に読み直すロウリーの機知がある。民間伝承に材を取った『グリーン・ナイト』ではマチズモ的な英雄譚をトキシックマスキュリニティの解体へと読み変え、それはあたかも伝承自体が持ち得ていたアイロニーのようだった。『ピーター・パン&ウェンディ』はウェンディが原作以上に大人になること=未来への肯定感に満ちている一方、永遠に歳を取らないピーター・パンに不気味さが漂う(ピーター役にイマイチ魅力に乏しい子役アレクサンダー・モロニーが起用されているのも意図があってのことだろう)。ジュード・ロウが映画のグレードを1つも2つも上げているフック船長はかつてピーターとネバーランドで共に過ごした少年であり、母を恋しがって外海へ出たことで歳を取り行き場を失ってしまった。ウェンディにとってネバーランドとは一夜限りの夢であり、ピーターにとっては永遠の遊び相手フック船長がいなければ居続けることはできない場所だ。『ピーター・パン&ウェンディ』では必ずしも“子供で居続けること”が称揚されていない。

 デヴィッド・ロウリー版にあわせて1953年のディズニークラシックを初鑑賞した。永遠に子供のまま歳月を重ねているピーター・パンはやはりちょっと怖い。ウェンディの解釈がそう大きく変わっていない一方、ロウリー版でカラー・ブラインド・キャスティングが行われたティンカー・ベルは、ディズニークラシックのベティ・ブーブ的なセクシャルさがオミットされている事に気付いた。フック船長とワニのスラップスティックな笑いは今見ても十分に楽しく、その献身さにいったいどういう関係かと疑問を抱かずにはいられないスミーは、ロウリー版でフック船長の育ての親とされていた。これを機会に2本を見比べてみるのも面白いだろう。


『ピーター・パン&ウェンディ』23・米
監督 デヴィッド・ロウリー
出演 エヴァー・アンダーソン、アレクサンダー・モロニー、ヤラ・シャヒディ、ジュード・ロウ
※ディズニープラスで独占配信中※

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