長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ビーニー・バブル』

2023-08-11 | 映画レビュー(ひ)

 ナイキのエアジョーダン開発秘話を描くベン・アフレック監督作『AIR』や、89年発売のゲームボーイに『テトリス』がアタッチされた経緯を追う『テトリス』など、今年は社会現象を起こした商品の成り立ちから現在(いま)のアメリカを再考する作品が相次いでいる。90年代に起こった“ビーニー・バブル”を題材にした本作もその系譜に連なる1本と言えるだろう。おもちゃメーカーTyの発売したビーニーシリーズはそのコレクション性の高さから人々の購買意欲を誘い、空前の大ヒット商品となった。しかし実態はインターネット黎明期のオークションサイト“イーベイ”で高額取引される、投機の対象だったのだ。

 監督、脚本を務めるクリスティン・ゴア(アル・ゴア元副大統領の娘)は、ビーニービジネスを支えた3人の女性をクリストファー・ノーランばりの複雑な時制叙述で交錯させ、時の狂騒を描き出していく。エリザベス・バンクス(久しぶりに演者の仕事に集中している)扮するロビーは車検場のしがない受付だったが、同じマンションに暮らすおもちゃ職人のタイと意気投合。2人でビーニーを開発し、ビジネスは瞬く間に軌道に乗っていく。タイを演じるザック・ガリフィアナキスは彼とはわからない変貌ぶりで、『ハングオーバー!』などで見せてきた飛び道具的な喜劇俳優のイメージを一新。自らプロデュースも兼任する力の入れようで、時の実業家の才気を再現することに成功している。

 タイはひょんなことから知り合ったシングルマザーのシーラ(『サクセッション』を卒業したサラ・スヌーク)に惚れ込み、彼女の幼い子供たちから新商品のインスピレーションを得ていく。タイはまさに子供の心を持った大人。アルバイトで入社したマヤ(利発さがキュートなジェラルディン・ヴィスナワサン)のアドバイスでインターネットを知ると、彼は貪欲にネットを取り入れて、さらなる事業展開にのめり込んでいく。

 クリスティン・ゴアの脚本はビーニー人形そのものの魅力にはほとんど無関心で、この製品が初期段階からなぜ人々の心を捉えたのかは映画を観ていてもよくわからない。主軸は後に社会的成功を収める3人の女性が、幼児性の高い成人男性タイによって搾取されていたという構造の看破であり、それは多くの見過ごされてきた女性へのリスペクトかもしれないが、男女の二項対立に物語を収束させたことで『AIR』『テトリス』のような批評性を獲得するには至らなかった。商機を見誤らなかった人々を描きながら、Me too映画としては随分出遅れた仕上がりなのだ。

 ところで終幕にはポケモンについての言及もあり、転売を見込んだ市場原理については大変わかりやすく解説された映画でもある。僕も近年のガンプラが入手しにくいメカニズムについて大いに納得がいった。まったく!


『ビーニー・バブル』23・米
監督 クリスティン・ゴア、ダミアン・クーラッシュJr.
出演 ザック・ガリフィアナキス、エリザベス・バンクス、サラ・スヌーク、ジェラルディン・ヴィスナワサン
※AppleTV+で配信中※

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