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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『コングレス未来学会議』

2018-02-01 | 映画レビュー(こ)

失われた従軍体験の記憶を遡る『戦場でワルツを』はアリ・フォルマン監督にとって終生の1本であった。戦友たちにインタビューし、その証言から自らのトラウマを呼び起こしていくドキュメンタリーを彼はアニメーションという技法で表現し、記憶の曖昧さ自体を映像化した。それは壮絶な体験であるのと同時に美しく、時に悪夢のような蠱惑性を秘めたアートフィルムであり、横溢する涅槃のような悦楽に魅了された。

長編第2作となる本作はトラウマを克服したフォルマンが独自のスタイルを確立している。スタニスワフ・レムの原作小説を換骨奪胎、シニカルでそして胸に迫る物語がフライシャー兄弟の影響下にある悪夢的なアニメーションの下に展開する。そして何より主演ロビン・ライトへの愛とも呼べるリスペクトに満ちているのだ。

映画は2014年のハリウッドから始まる。かつてスター候補と目されながら結婚、出産によってキャリアを棒に振った女優ロビン・ライト(本人役)は岐路に立たされていた。ハリウッドでは40歳を過ぎた女優が演じられる役はなく、子供は障害を抱え、多額の医療費が必要だった。巻頭早々の業界批判、そしてショーン・ペンの名前こそ出ないものの“だめんず”ロビン・ライト批判が可笑しい。彼女はミラマウント社が提案する全身全感情のデータ化に合意し、未来永劫老いる事のないCG女優ロビン・ライトとしてスターになる。この技術は今や珍しいものではなく、虚実織り交ぜた展開の中、マネージャー役ハーヴェイ・カイテルが切々とロビン・ライトへの愛を語るシーンは感動的だ。

 時は流れ、ライトはミラマウント社の株主総会に参加する。そこは“アニメ特区”であり、全てがアニメーションで存在する不思議な世界だ。カラフルでグニャグニャと変形する姿かたち、夢か現かわからぬ狂騒はまるで死後、永遠に見果てぬ悪夢のようだ。その幾万年の旅路はただ愛だけを追い求め続ける心の彷徨であり、ライトが翼を広げ歌うボブ・ディラン“Forever Young”が美しい。映画館の闇に耽溺する2時間はまさに劇中で人類が酔いしれる永遠の悦楽そのものであった。


『コングレス未来学会議』13・イスラエル、他
監督 アリ・フォルマン
出演 ロビン・ライト、ハーヴェイ・カイテル、ジョン・ハム、ポール・ジアマッティ、コディ・スミット・マクフィー、ダニー・ヒューストン
 

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