goo blog サービス終了のお知らせ 

長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『キング』

2019-11-26 | 映画レビュー(き)
 
 オーストラリアに実在した犯罪者一家を描く『アニマル・キングダム』は監督デヴィッド・ミショッドはじめ、ベン・メンデルソーンやジョエル・エドガートンの名を一躍、世界に知らしめた衝撃作だった。その後の彼らの活躍はご存知の通り。ミショッドは今や名プロデューサーであるブラッド・ピットの製作会社プランBに招聘され、メンデルソーンは世界中の名匠から重用される名バイプレーヤーとなり、エドガートンに至っては映画監督としても才能を発揮している。
 そんな彼らが気鋭の若手演技派ティモシー・シャラメを迎えてシェイクスピア劇『ヘンリー五世』を撮る…と聞けば身構えたくもなるが、気にしなくていい。国王メンデルソーンからシマ(イングランド)を継承した心優しき王子ハルが権謀術数をくぐり抜け、フランスとの仁義なき百年戦争に突入する“史劇版『アニマル・キングダム』”となっているのだ。

Netflix配給映画だが、美しいプロダクションデザインや陰影の濃い映像を自宅で楽しむにはそれ相応のスペックを持ったTVが必要なだけに、ぜひ限られた公開規模の劇場を探して欲しい。クライマックスとなるアジャンクールの合戦は『ゲーム・オブ・スローンズ』以後の史劇演出であり、こんな壮絶なバトルシーンをまたしてもTVで見る事になってしまうのかと歯噛みする事だろう。前作『ウォー・マシーン』が不発に終わったミショッドは見事に大作をモノにしている。製作のブラピは今年、やはりインディーズ映画の雄ジェームズ・グレイに大作『アド・アストラ』を撮らせており、長年バックアップしてきた作家主義の監督達をネクストステージへと導くさすがの慧眼ぶりだ。

史劇は演技巧者の芝居合戦が華であり、本作も曲者俳優達のアンサンブルが大きな見所になっている。メンデルソーンはもはや名優枠ともいえる前王役。主人公ハルを支えるフォールスタッフ役でエドガートンが苦み走った声を聞かせれば(時折、格好良かった頃のラッセル・クロウを思わせる)、ショーン・ハリスもいつものしゃがれ声でこれに応える。そして今や怪優ぶりも板についたロバート・パティンソンが衝(笑)撃の怪演だ。今年は『ウィッチ』のロバート・エガース監督作も控えており、充実のキャリアである。

ティモシー・シャラメは座組に臆する事なく、大スターへの階段をまた1つ上がった。その痩身(さらに絞ったように見える)は陰影の濃い映像に良く映え、史劇おなじみの大演説シーンではスケールも感じさせる。何より彼の個性はこれまでのアメリカ俳優にはないデカダントな色気だ。本作や『君の名前で僕を呼んで』といった“ヨーロッパ映画”との親和性が高く、方やグレタ・ガーウィグらアメリカン・インディーズにも出演し、これらを横断する独自のキャリアは類を見ないオルタナティブである(そしてアメリカ映画における“男らしさ”を再更新するかも知れない)。知性と優しさに冷酷さも身に着けていくハルと、名優への道を進むシャラメが重なり、彼を見続ける上で欠かすことのできない1本となった。


『キング』19・米
監督 デヴィッド・ミショッド
出演 ティモシー・シャラメ、ジョエル・エドガートン、ロバート・パティンソン、ベン・メンデルソーン、ショーン・ハリス、リリー・ローズ・デップ、トーマサイン・マッケンジー
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『教授のおかしな妄想殺人』

2019-08-09 | 映画レビュー(き)

Me tooによりミア・ファローの娘に対する性的虐待疑惑が再燃し、事実上アメリカ映画界から追放状態にあるウディ・アレン監督の2015年作。前作『マジック・イン・ムーンライト』に続きヒロインにエマ・ストーンを起用、鼻の下が伸び切ったデレデレ演出で、旬の女優のキュートな魅力を収めている。

大学に新たな哲学教授エイブがやってきた。風変りでどこか影のある彼に女子大生ジルはたちまち恋をするが、厭世観にまみれ、自殺願望すら持っているエイブはセックスもままならない。そんなある日、ひょんな事からエイブは悪評の高い判事の殺害計画を考案。それ以来、体には活力が満ちてきて…。

いつも通りのウディ・アレン的登場人物エイブがエマ・ストーンにモテモテな展開には苦笑いが漏れるが、演じるホアキン・フェニックスのシリアスで鬱々とした個性によって近作にはない独自の仄暗さが生まれている。この時期は『ブルー・ジャスミン』以後、『マジック・イン・ムーンライト』『カフェ・ソサエティ』と凡打続き。この使い古されたウディ脚本を不確定要素が凌駕する傾向は後の『男と女の観覧車』でより顕著になる。

現在、ウディは再びヨーロッパ資本で復活作を練っている様子。いったい何を思っているのか気になるばかりだ。


『教授のおかしな妄想殺人』15・米
監督 ウディ・アレン
出演 ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『キャプテン・マーベル』

2019-04-11 | 映画レビュー(き)

満を持しての登場となるマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)初の女性ヒーロー映画『キャプテン・マーベル』は期待通り大ヒットを飛ばし、来る『アベンジャーズ/エンドゲーム』へ向けて最高の盛り上げ役となった。主演は『ルーム』でオスカーを受賞後、格段にスターとしての華やかさを増したブリー・ラーソン。今後、彼女のスターバリューを上げる事は間違いないだろう。

ただ昨年の前座(『ブラックパンサー』)がメインアクト(『インフィニティ・ウォー』)を喰ったようなインパクトには残念ながら程遠い。インディーズ映画『ハーフ・ネルソン』で注目されたアンナ・ボーデン、ライアン・フレックの監督コンビはアクションも鈍重で、わざわざ95年が舞台となる90'sオマージュも不発気味だ(これは90年代の映画で育った筆者の資質の問題かもしれないが)。残念なことにブリー・ラーソンの走りはスピード感がなく、アクションがあまり似合っていない。

それでも良しとしたのが今のマーベルの余裕である。今後のMCUフェーズ4の監督人事を見ても『ザ・ライダー』のクロエ・ジャオらが名前を連ねる大胆さだ。失敗しても攻める、というのが今の彼らのプリンシプルなのだろう。

もちろん『ブラックパンサー』が黒人ヒーロー映画の地平を切り拓いたように、『キャプテン・マーベル』も映画史における重要な局面に立っている。男に求められるだけの笑顔なんて持ち合わせてはおらず、さらには「タイマンで勝負を決めよう」なんて粘着してくる男は軽くワンパンでぶっ飛ばす。そんな優劣だけを競い合う闘いなんてもう終わってるんだよ、とっとと次に行かなくちゃ、と。そして砂場だろうが、職場だろうが、戦場だろうが”女のくせに引っ込んでろ”と言う奴らに対して何度でも立ち上がり、ヒーローになれと訴えるのである。

おそらくアベンジャーズでも最強クラスのパワーを持つであろう彼女が打倒サノスのキーパーソンになる事は必至。来る『エンドゲーム』を心して待とうではないか。

 

『キャプテン・マーベル』19・米

監督 アンナ・ボーデン、ライアン・フレック

出演 ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、ベン・メンデルソーン、ジュード・ロウ、ジャイモン・フンスー、リー・ペイス、ラシャナ・リンチ、ジェンマ・チャン、アネット・ベニング、クラーク・グレッグ

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『機動戦士ガンダムNT』

2018-12-19 | 映画レビュー(き)



昨今の『スター・ウォーズ』シリーズを見ていて残念に思うのがメカニカル描写のアイデア不足だ。『ジェダイの帰還』から30年間も戦争状態にある世界が何の軍拡もなく同じ兵器を使い続けるのか?このクリエイティヴィティの欠落にかつてジョージ・ルーカスが成し得てきた旧3部作と同等以上の物は2度と登場し得ないのだなと感じてしまうのである。

そんなディズニーのフランチャイズ化に先駆けること数十年、40年間に渡って巨大な帝国を築き上げてきたのがガンダムシリーズだ。富野由悠季から始まり多くのクリエイター達によって創造されてきたこの世界は未だ多くの人を魅了してやまない。最新作となる『ガンダムNT(ナラティヴ)』は前作『UC(ユニコーン)』で新たな地平を築いた福井晴敏による新作だ。大きな期待がかけられていた。

ここにあるのは前述したディズニー×スター・ウォーズ同様、創造性の欠如だ。巻頭早々、30年以上も前になる『機動戦士Zガンダム』に登場したマイナーメカ、ディジェが出てきてウンザリする。今回のラスボスは前作『UC』同様、巨大MAネオ・ジオングの色違いだ。何より主役機ナラティヴガンダムはじめ、モビルスーツが一向に格好良く映らない(ガンプラが欲しくならない)。これはロボットアニメとして致命的ではないか?
ストーリーにも同等の怠惰さがある。主人公ヨナら3人はティターンズのニュータイプ研究所で育てられた強化人間で、そのうちの1人ミシェルはやはり『Z』に登場したルオ商会の娘だ。『スター・ウォーズ』同様、長大なサーガは重箱の隅を突けばいくらでもエピソードが掘り起こせるが、そこに新しさはあるのか?

そして最も深刻なのが福井晴敏の原作小説をアニメへ置換できない鈍重さだ。説明的なセリフは何度も物語を停滞させ、コロニー内で繰り広げられる第2幕は回想シーンをしょい込み過ぎて停止寸前だ。本作の90分は40年分のガンダムシリーズよりも遥かに長く感じる。富野御大ならこの10分の1のセリフ量でやり切っただろう。

 そもそもあの傑作『逆襲のシャア』の続編なんて語られるべきだろうか?あの余韻に満ちた幕切れは当の御大が続編を避け続けてきた事で永遠となり、おかげでガンダムシリーズは新たなる作り手に大きく門戸が開かれた。あの超常的な力に理由を付け、語り直した事で本作の終幕はほとんど『ドラゴンボール』みたいな状態だ。今後、『F91』に連なる空白期間の全てを語りかねない勢いだが、一体どうやって辻褄を合わせるのか。こんな過去の遺産を食いつぶすような駄作を量産しない事を願うばかりだ。



『機動戦士ガンダムNT』18・日
監督 吉沢俊一

 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『キングスマン:ゴールデン・サークル』

2018-12-09 | 映画レビュー(き)

痛快アクションとブリティッシュイズムがウケて大ヒットを記録した『キングスマン』の第2弾。今回はジュリアン・ムーア率いる謎の組織“ゴールデン・サークル”によってキングスマンが壊滅する所から映画は始まる。前作から引き続いて登場したロキシーや愛犬BBはあっさり退場。新キャラにアメリカのスパイ組織“ステイツマン”(表向きはバーボンウィスキー製造業!)からジェフ・ブリッジス、ハル・ベリー、チャニング・テイタム、ペドロ・パスカルらが参戦する強力布陣だが、それではあれだけ熱狂的なファンを生んだ前作の続編として愛が足りな過ぎやしないか。ブリッジス、ベリー、テイタムらは顔見せに過ぎず、パスカルが身体能力の高さを活かして孤軍奮闘するばかり。映画の後半ではさらなる人気キャラが退場し、これでは第3弾への期待なんて持ちようがない。
唯一の慰めはタロン・エガートンの頼もしい成長ぶりだろう。マンガチックなアクション演出のせいで身体性は削がれているが、主演スターとして映画を牽引している。

今回の悪役、ジュリアン・ムーア扮する麻薬王のポピーは政府に麻薬を合法化させる事で市場の独占を目論む。対するアメリカ大統領(ブルース・グリーンウッドがトランプ風に演じている)も麻薬戦争の早期解決のため、敢えてポピーの脅迫に屈して見せる。はて、どこかで聞いた展開だと思えば、アメリカやカナダの一部でマリファナが解禁された未来的施策と同じ理由ではないか。ブリティッシュイズムは薄れたが、前作にもあった風刺性はしっかり残っていた。

 色々期待ハズレの本作で唯一嬉しかった(?)のは、前作でオチ(しかも下ネタ)扱いだったデンマーク王女がヒロインに昇格していたこと!てゆーか、デンマークの人たち、よく怒らなかったねぇ!


『キングスマン:ゴールデン・サークル』17・英
監督 マシュー・ヴォーン
タロン・エガートン、コリン・ファース、マーク・ストロング、ジュリアン・ムーア、ペドロ・パスカル、ジェフ・ブリッジス、チャニング・テイタム、ハル・ベリー
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする