


満を持しての登場となるマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)初の女性ヒーロー映画『キャプテン・マーベル』は期待通り大ヒットを飛ばし、来る『アベンジャーズ/エンドゲーム』へ向けて最高の盛り上げ役となった。主演は『ルーム』でオスカーを受賞後、格段にスターとしての華やかさを増したブリー・ラーソン。今後、彼女のスターバリューを上げる事は間違いないだろう。
ただ昨年の前座(『ブラックパンサー』)がメインアクト(『インフィニティ・ウォー』)を喰ったようなインパクトには残念ながら程遠い。インディーズ映画『ハーフ・ネルソン』で注目されたアンナ・ボーデン、ライアン・フレックの監督コンビはアクションも鈍重で、わざわざ95年が舞台となる90'sオマージュも不発気味だ(これは90年代の映画で育った筆者の資質の問題かもしれないが)。残念なことにブリー・ラーソンの走りはスピード感がなく、アクションがあまり似合っていない。
それでも良しとしたのが今のマーベルの余裕である。今後のMCUフェーズ4の監督人事を見ても『ザ・ライダー』のクロエ・ジャオらが名前を連ねる大胆さだ。失敗しても攻める、というのが今の彼らのプリンシプルなのだろう。
もちろん『ブラックパンサー』が黒人ヒーロー映画の地平を切り拓いたように、『キャプテン・マーベル』も映画史における重要な局面に立っている。男に求められるだけの笑顔なんて持ち合わせてはおらず、さらには「タイマンで勝負を決めよう」なんて粘着してくる男は軽くワンパンでぶっ飛ばす。そんな優劣だけを競い合う闘いなんてもう終わってるんだよ、とっとと次に行かなくちゃ、と。そして砂場だろうが、職場だろうが、戦場だろうが”女のくせに引っ込んでろ”と言う奴らに対して何度でも立ち上がり、ヒーローになれと訴えるのである。
おそらくアベンジャーズでも最強クラスのパワーを持つであろう彼女が打倒サノスのキーパーソンになる事は必至。来る『エンドゲーム』を心して待とうではないか。
『キャプテン・マーベル』19・米
監督 アンナ・ボーデン、ライアン・フレック
出演 ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、ベン・メンデルソーン、ジュード・ロウ、ジャイモン・フンスー、リー・ペイス、ラシャナ・リンチ、ジェンマ・チャン、アネット・ベニング、クラーク・グレッグ
昨今の『スター・ウォーズ』シリーズを見ていて残念に思うのがメカニカル描写のアイデア不足だ。『ジェダイの帰還』から30年間も戦争状態にある世界が何の軍拡もなく同じ兵器を使い続けるのか?このクリエイティヴィティの欠落にかつてジョージ・ルーカスが成し得てきた旧3部作と同等以上の物は2度と登場し得ないのだなと感じてしまうのである。
そんなディズニーのフランチャイズ化に先駆けること数十年、40年間に渡って巨大な帝国を築き上げてきたのがガンダムシリーズだ。富野由悠季から始まり多くのクリエイター達によって創造されてきたこの世界は未だ多くの人を魅了してやまない。最新作となる『ガンダムNT(ナラティヴ)』は前作『UC(ユニコーン)』で新たな地平を築いた福井晴敏による新作だ。大きな期待がかけられていた。
ここにあるのは前述したディズニー×スター・ウォーズ同様、創造性の欠如だ。巻頭早々、30年以上も前になる『機動戦士Zガンダム』に登場したマイナーメカ、ディジェが出てきてウンザリする。今回のラスボスは前作『UC』同様、巨大MAネオ・ジオングの色違いだ。何より主役機ナラティヴガンダムはじめ、モビルスーツが一向に格好良く映らない(ガンプラが欲しくならない)。これはロボットアニメとして致命的ではないか?
ストーリーにも同等の怠惰さがある。主人公ヨナら3人はティターンズのニュータイプ研究所で育てられた強化人間で、そのうちの1人ミシェルはやはり『Z』に登場したルオ商会の娘だ。『スター・ウォーズ』同様、長大なサーガは重箱の隅を突けばいくらでもエピソードが掘り起こせるが、そこに新しさはあるのか?
そして最も深刻なのが福井晴敏の原作小説をアニメへ置換できない鈍重さだ。説明的なセリフは何度も物語を停滞させ、コロニー内で繰り広げられる第2幕は回想シーンをしょい込み過ぎて停止寸前だ。本作の90分は40年分のガンダムシリーズよりも遥かに長く感じる。富野御大ならこの10分の1のセリフ量でやり切っただろう。
そもそもあの傑作『逆襲のシャア』の続編なんて語られるべきだろうか?あの余韻に満ちた幕切れは当の御大が続編を避け続けてきた事で永遠となり、おかげでガンダムシリーズは新たなる作り手に大きく門戸が開かれた。あの超常的な力に理由を付け、語り直した事で本作の終幕はほとんど『ドラゴンボール』みたいな状態だ。今後、『F91』に連なる空白期間の全てを語りかねない勢いだが、一体どうやって辻褄を合わせるのか。こんな過去の遺産を食いつぶすような駄作を量産しない事を願うばかりだ。
『機動戦士ガンダムNT』18・日
監督 吉沢俊一

唯一の慰めはタロン・エガートンの頼もしい成長ぶりだろう。マンガチックなアクション演出のせいで身体性は削がれているが、主演スターとして映画を牽引している。
今回の悪役、ジュリアン・ムーア扮する麻薬王のポピーは政府に麻薬を合法化させる事で市場の独占を目論む。対するアメリカ大統領(ブルース・グリーンウッドがトランプ風に演じている)も麻薬戦争の早期解決のため、敢えてポピーの脅迫に屈して見せる。はて、どこかで聞いた展開だと思えば、アメリカやカナダの一部でマリファナが解禁された未来的施策と同じ理由ではないか。ブリティッシュイズムは薄れたが、前作にもあった風刺性はしっかり残っていた。
色々期待ハズレの本作で唯一嬉しかった(?)のは、前作でオチ(しかも下ネタ)扱いだったデンマーク王女がヒロインに昇格していたこと!てゆーか、デンマークの人たち、よく怒らなかったねぇ!