長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・ライダー』

2018-12-11 | 映画レビュー(ら)

風が吹き、大地が鳴る。馬が見つめ、人は触れる。
いつともどことも知れない語り口が映画に神秘的な抒情性をもたらす。
1人の若きロデオカウボーイが落馬し、頭に重傷を負う。右手はあの時、手綱を握りしめたまま開かない。次に失敗したら、おそらく命はないだろう。青年は怖れを感じる。オレの人生はここで終わってしまうのか?だが他にどんな生き方があるというのだ?
父親はまた家賃を吞み潰した。学のないカウボーイにはスーパーの棚卸くらいしか仕事はない。どうやったら自分が自分でいられるのか。そんな心の内を明かせるのは、白痴の妹だけだ。

『ザ・ライダー』はアメリカ映画が綿々と受け継いできた“映像文学”と呼べる作品だ。ジョシュア・ジェームス・リチャーズによる素朴なカメラと実名で演じる素人俳優達には胸をかきむしりたくなるような美しさがあり、とりわけまるで馬以外には何も知らないかのような表情を見せる主演ブレイディー・ジャンドロに心打たれる。
 この伝統的アメリカ映画の筆致を中国系クロエ・ジャオ監督が手掛けていることに大きな意義を感じる。昨年、ディー・リース監督『マッドバウンド』でも触れたが男性的、女性的という論評が意味を成さなくなってきた事はもちろん、“アメリカ映画”という文脈も既に多様な文化、人種の中で消費され、新たな形へと継承されているのだ。ジェフ・ニコルズ、デヴィッド・ロウリー、テイラー・シェリダンらと共に覚えておきたい“アメリカ映画”の新鋭監督である。


『ザ・ライダー』17・米
監督 クロエ・ジャオ
出演 ブレイディー・ジャンドロ
 

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