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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『Fair Play/フェアプレー』(寄稿しました)

2023-10-19 | 映画レビュー(ふ)

 リアルサウンドにNetflix映画『Fair Play/フェアプレー』のレビューを寄稿しました。Netflixが今年のサンダンスで2000万ドルもの大金をかけて配給権を獲得した勝負作。ハリウッドの新たなスター、フィービー・ディネヴァーのブレイク作であり、オールデン・エアエンライクのキャリア復活の1本。見終わった後は誰かと話したくなること必至の映画です。御一読ください!


記事内で触れている各作品のレビューはこちらをどうぞ


『Fair Play/フェアプレー』23・米
監督 クロエ・ドモント
出演 フィービー・ディネヴァー、オールデン・エアエンライク、エディ・マーサン
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『プロスペクト』

2023-09-20 | 映画レビュー(ふ)

 『イエロージャケッツ』で惚れ込んで以来、現在の若手最推し女優となったソフィー・サッチャー。『ブギーマン』の劇場公開に「祝!初主演!」「祝!日本劇場初上陸!」と喜んでいたら、実は2018年の低予算SF映画『プロスペクト』が長編映画初主演で、日本では2019年のカリコレ!で既に上映されていた(←推している割には情報に疎い)。しかも『イエロージャケッツ』に先駆けての大自然サバイバルものだ。

 遥か彼方の宇宙。デイモンとシーの父娘は希少な宝石を求め、かつて“ゴールドラッシュ”に湧いた辺境の資源惑星に降り立つ。そこには彼ら以外にも野蛮な採掘者たちがいて…。2014年の短編映画をセルフリメイクしたジーク・アールとクリス・コードウェルの監督コンビは、ヘルメット越しかのような狭い画角に彼らの内にある広大なSF世界を実現しようと奮闘している。何より評価すべきはSF映画においてヴィジュアルと同等、時にはそれ以上に世界観を支える俳優が重要であると理解していることだろう。シーと手を組む宇宙野盗をペドロ・パスカルが演じ、『THE LAST OF US』よりもいち早く擬似親子SFサバイバルを実現。今や押しも押されぬハリウッドスターであるパスカルの登場からは映画も足腰が強く、97分というランニングタイムを成立させている。近年は“ラスアス”と『マンダロリアン』シリーズのおかげで“理想のパパ俳優”扱いされているパスカルだけに、ブレイク前夜の野性味ある姿が拝める本作はファンにとって拾い物だろう。


『プロスペクト』18・加、米
監督 クリストファー・コードウェル、ジーク・アール
出演 ソフィー・サッチャー、ジェイ・デュプラス、ペドロ・パスカル
 
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『ブギーマン』

2023-09-19 | 映画レビュー(ふ)

 北米では当初Huluでの配信限定作品として製作されていたが、テスト試写での評判から急遽サマーシーズンに公開され、初登場3位のスマッシュヒットを記録。今やハリウッドでこんなポジティヴな話が聞けるのはホラー映画界隈くらいなのか。スティーヴン・キングの小説『子取り鬼』を原作とする本作は、エンドロールが流れる頃にはすっかり暗闇が怖くなる演出に加え、クリス・メッシーナ、ソフィー・サッチャーら俳優陣の献身的演技によって恐ろしいだけではなく、ハートに響く作品となった。

 最愛の母を不慮の事故で亡くしたセイディと妹のソーヤー。時が経ち、ようやく学校への登校を再開しようとするも、未だ気持ちは晴れない。ソーヤー(『オビ・ワン=ケノービ』で幼少期のレイア姫を演じたヴィヴィアン・ライラ・ブレア)はクローゼットの暗闇から怪物が現れると信じており、夜は灯りを消して眠ることもできないのだ。父はセラピストとして事故後も患者とのセッションを欠かさず、かえって患者たちから「先生の方こそ大変だろうに」と声をかけられる。職業倫理がそうさせるのか、娘たちのケアは他の医師に任せきりで、父自身はセルフケアもできていない。そこへ自らの子供を殺したと言う不気味な患者(デヴィッド・ダストマルチャン)が現れ…。

 スティーヴン・キングの原作はこの患者のモノローグを中心とした短編小説で、これを『クワイエット・プレイス』シリーズのスコット・ベックとブライアン・ウッズ、マーク・ヘルマンの3人がかりで脚色し、キングワールドを拡張した。キング作品の全てが同じユニバースに存在し、事象や人物が時に名前を変えて登場するのはファンなら既知のところ。劇中で“ブギーマン”と呼ばれる闇の怪物は、近作で言うと『アウトサイダー』に登場した“エルクーコ”と同じだろう。喪失の悲しみといった人間の負の感情を貪り、一家が全滅するまで追い詰めるとまるで伝染病のように次のターゲットへと乗り移っていく。時に姿や声音を模倣する様もそっくりだ。『ブギーマン』は中盤、怪物の正体を知る謎の女性(『JUSTIFIED』で女刑事をイイ面構えで演じていたマリン・アイルランド)の登場から転調。ゴシックホラーとアクションの組み合わせは、キング作品への多大なオマージュを込めたNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』を手掛けたショーン・レヴィが製作を務めている影響も少なくないだろう。

 セイディに扮したのはTVシリーズ『イエロージャケッツ』で、ジュリエット・ルイスの少女時代をそっくりのハスキーボイスで演じているソフィー・サッチャー。スクリーミングクイーンっぷりも頼もしく、何より泣きの芝居が素晴らしい。セイディが喪失の痛みと恐怖を乗り越えていく姿は、本作を“正統派”のホラーたらしめている。


『ブギーマン』23・米
監督 ロブ・サベッジ
出演 ソフィー・サッチャー、クリス・メッシーナ、ヴィヴィアン・ライラ・ブレア、マリン・アイルランド、デヴィッド・ダストマルチャン

 
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『ふたりのマエストロ』

2023-08-20 | 映画レビュー(ふ)

 アメリカの映画産業が壊滅の危機に瀕している一方、自国産の映画で国内市場を回せている国はどこ吹く風で、わずか88分の父子ドラマがこうして本国公開から遅れること1年で日本のスクリーンにかかるのだから、十分に健全と言えるだろう。『ふたりのマエストロ』は取り立てて新味のない人情モノではあるが、程よいユーモア、キャスティングの多様性、観客の満足感を水増しするクラシック音楽といったバランスに富み、もちろんフランス映画らしい恋愛のまだるっこしさもある。大ヒットしようが傑作だろうが配信スルーになることもまま増えてきた本邦でのアメリカ映画事情を思うと、そのどちらでもない凡作が公開されるのは文化的な豊かさではないだろうか。他愛がないと言うのは容易い。ランニングタイム88分、こんな小品、最近ついぞ目にしていなかった。


『ふたりのマエストロ』22・仏
監督 ブリュノ・シッシュ
出演 イヴァン・アタル、ピエール・アルディティ、ミュウミュウ、キャロリーヌ・アングラーデ、パスカル・アルビロ、ニルス・オトナン・ジラール
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『ザ・フラッシュ』

2023-06-29 | 映画レビュー(ふ)

 できることなら過去に戻ってトマト缶の場所を置き換えたいと思っている関係者は少なくないだろう。コロナ禍を耐え抜き『トップガン/マーヴェリック』を大ヒットに導いたトム・クルーズからの大激賞(同じくスティーヴン・キングも大絶賛のツイートをしたが、なるほどキングっぽいプロットである)、テスト試写からさけばれていた“ヒーロー映画史上最高傑作!”という謳い文句に、業界内外を問わず期待値を上げた人は多かったハズだ。ところが主演エズラ・ミラーの度重なる逮捕騒動を受け、本作は主役不在のままプロモーションを慣行。またDCEU(DCエクステンデッドユニバース)はジェームズ・ガンによって“DCユニバース”へと仕切り直されることが確定しており、本作が後続作品に繋がらない“見なくても大丈夫な映画”と認識された可能性も少なくないだろう。なによりライバルMCUもフェーズ4では不振が相次ぎ、スーパーヒーロー映画ブームの地盤沈下がいよいよ目に見えてきた最中の公開である。蓋を開けてみれば前評判とは程遠い批評、観客評価に留まり、全米興行成績は当初の予想値1億ドル超を大きく下回る6000万ドルに終わってしまった。

 字数を割いたが、そんなノイズに劇場鑑賞をためらっているようなら、まずは映画館へ駆け込んでもらいたい。『ザ・フラッシュ』はDCEUの中でもとりわけ愉快痛快な1本。鬱陶しいザック・スナイダー作品から時を経てようやく辿り着いた到達点の1つと言っていいだろう。フラッシュの高速移動はMCUのクイックシルバーと丸かぶりの特殊能力ながら、あの手この手の演出で実に楽しく、エズラ・ミラーはボケ(いつも口が開いている!)もツッコミも1人でまかなう2馬力2倍速ぶりで映画のチャームを一手に担っている。『IT』2部作で豪速球のホラー演出を見せたアンディ・ムスキエティ監督がここでは何ともユーモラスな手腕を発揮してくれたのは嬉しい驚きで、144分をものともしない手さばきはさっそくジェームズ・ガンから次期バットマン映画の監督指名を受けたようだ。そして30年ぶりにバットマンを再演する偉大なるマイケル・キートンのカリスマに、人生初のアメコミ映画が1989年の『バットマン』だった筆者は感無量である。1992年の『バットマン・リターンズ』を最後にバットマン役を卒業したキートンだったが、このユニバースにはあれから30年間バットマン=ブルース・ウェインとして生きてきた時の重みがあるのだ。

 そう、『ザ・フラッシュ』は『マン・オブ・スティール』に始まるDUEUの総括であるのと同時に、ワーナー・ブラザースで展開されてきたアメコミ映画数十年の歴史の総括でもある。フラッシュが限界を超えたスピードで走ると、そこにはかつてのクリストファー・リーヴ版から果ては90年代に盛んに製作が報じられ、実現する事のなかったニコラス・ケイジ版のスーパーマンまで様々なユニバースが走馬灯のように過ぎ去っていく。スーパーヒーロー映画ブームは終わるのか?今後もMCUはセコセコとマルチバースを拡大・膨張させ、ジェームズ・ガンがDC映画を継続していくが、スーパーヒーロー(=作品)同士のクロスオーバーに腐心し、作家にも観客にもパーソナルな存在ではなくなった現在、ブームは頭打ちの感が否めない。奇しくも同時期に公開された『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は『ザ・フラッシュ』とほぼ全く同じ構成、テーマの映画であり、マルチバースという“システム”を否定し、個人の物語として収束していく所にジャンルの終焉を思わずにいられなかった。『ザ・フラッシュ』の興行的惨敗を受け、ジェームズ・ガンの舵取りは決して容易いものではなくなったが、ガン自身もそんなアメコミ映画の時勢は大いに承知しているだろう。DCの次なる一手に注目したい。


『ザ・フラッシュ』23・米
監督 アンディ・ムスキエティ
出演 エズラ・ミラー、サッシャ・カジェ、マイケル・キートン、マイケル・シャノン、ロン・リビングストン、マリベル・ベルドゥ、カーシー・クレモンズ、ベン・アフレック

 
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