夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

JRのサービスとは何か

2010年12月22日 | 社会問題
 19日、日曜日の東京新聞に「アイデアは即実行」「公募の鉄オタク社長」の大きな見出しで、山形鉄道フラワー長井線が特集された。例によって、国鉄の民営化に伴って不採算路線が廃止される事になり、山形県などが出資をして第三セクターとして残った鉄道である。
 アイデアのお陰で、昨年度の団体ツアー客は50倍にも増えたが、それでも赤字だと言う。そして乗客の7割を占める高校生達の通学客が減り続けていると言う。05年度には81万5千人あった乗客は09年度には72万2千人にまで減少している。
 少子化も原因の一つだが、地方の疲弊も原因になっているだろう。日本全体のどこかが完全に狂っている。
 そして「デスクメモ」と称する短い意見が本質を語っている。

 JR東日本も東海も9月中間連結決算は増収増益だった。東日本は売上高約1兆3千億円、純益971億円。誰もがうらやむ数字だ。なのにJRの顧客サービスの質は…。駅や車内にベタベタはってあるポスターは誰のためか。赤字会社の方がよほど「客本意」の仕事とサービスに奮闘している。

 デスクメモはJRのサービスを槍玉に挙げている。それはこの特集記事の目玉がアイデアによる乗客サービスだからである。しかしJRはサービスは付け足しで良いのである。何よりも安全で安い運賃の鉄道であればそれが最前のサービスになる。もちろん、緻密なダイヤも必要だが。
 いくら民営鉄道になったとは言っても、鉄道その物は元々国民のために存在している公共機関なのである。従って、莫大な利益など不要である。安全と安い運賃と適切なダイヤを保証出来る程度の利益で良いのである。我々はJRにもっと儲けなさいと言って民営化に賛成したのではない。国営による勝手で放漫な経営では駄目だからと、厳しさを伴う民営化を許したのである。
 国のカネで作った、つまりは我々の税金で作った鉄道で大儲けが出来て、国民には還元しなくても済む。こんな旨い話は無い。国民は国鉄の出資者だった訳だ。意識しようとしまいと、そうした構図のはずである。だから国鉄が損をすれば、それを税金でまかなう。つまり、我々出資者が損をしていた。
 国鉄が民営になっても、出資者である国民との関係はそのまま続いている。
 そして損をしていた鉄道が儲かる体質に変わった。であるからには、その儲けは当然に出資者である国民に帰って来るはずである。もちろん、配当金をくれ、などと言う話ではない。儲けを国に還元して、我々の税金をそれだけ安くすればそれで良いのである。

 それに今回の件では、JR東日本は山形鉄道の恩恵を被っている。と言うのは、フラワー長井線の始発駅は山形新幹線の赤湯駅である。05年度よりも増えた団体ツアー客は09年度は、16551人-363人=16188人で、何と1万6千人も増えている。その1万6千人は完全にフラワー長井線の様々なサービスを楽しみに来た乗客である。つまり、山形新幹線はそうした乗客を運ぶ事によってその分の利益を得たのである。そうであれば、その利益の半分を山形鉄道に差し上げたって罰は当たるまいに、そんな話は聞かない。

 そうしたら、今度は東海道新幹線でのハンドル型電動車いすの乗車拒否問題である。前にもあったらしいが、今回は米国人女性の乗車を拒否した。電動車いすには棒状のレバーで操作する「ジョイスティック型」と、小型スクーターのような「ハンドル型」とがあり、JRを含めて国内鉄道各社はハンドル型は重くて大きく、ほかの乗客の妨げになるとして特急車両への乗車を拒否し続けているのだと言う。
 昨年からは、一定の基準を満たし、国土交通省直轄の公益法人の認定を受ければ、特急にも乗れる事になったが、認定作業が進まない上、外国人旅行者は適用外だと新聞は伝えている。
 認定をするのが公益法人と言うのが、どうも臭いが、その認定すら進まないのだと言うに至っては言語道断である。
 米国人女性は乗り降りは自力歩行し、車いすは分解して手荷物として持ち込むと説明したのに、それすら拒否された。彼女は、障害者差別禁止法のあるアメリカはもちろんの事、欧州を旅行して鉄道に乗れなかった経験は無いと言う。私の車いすはジョイスティック型よりずっと小さいのに、何が問題なのか、と問うている。
 それに対して、JR東海は「認定ルールに基づいて適切に対応した」と言っているが、その認定ルールの適否については問答無用だと言うらしい。電動車いすでの乗車だって立派に乗客へのサービスである。JRはサービスとは何かが分かっていないらしい。証拠はある。民営化した当初、乗客からサービスが成ってない、と言われた。それに対して、JRは何と答えたか。「改札での声掛けをしています」と言ったのである。別に再札口で声を掛けてもらいたいなどとは思いもしないが、当然の事をさもサービスをしているかのようにしか考えられないのである。
 私は当初から、国鉄の民営化は国民の鉄道に変身するためではなく、自由に利益を貪る事が許される事業形態への変身だ、と思っている。