俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

ポピュリズム政治

2015-05-23 09:36:52 | Weblog
 多数者の意向を尊重するのが民主主義だが、多数者に迎合するのはポピュリズムだ。昨年の5月22日にタイではクーデターが起こってインラック政権が倒されたが、この政権の政策が典型的なポピュリズムだった。
 タイでは国民の6割が農家だ。だから選挙では農民から支持を得た政党が勝つ。インラック政権がやったことは極端な農民優遇策であり、農民の圧倒的支持を得たから全国レベルでの選挙では絶対に負けなかった。このことに対して農民以外の人が怒った。多数決では絶対に勝てないと分かっている彼らは選挙を否定した。多数決が否定されれば民主主義は機能しない。だから軍によるクーデターが起こった。
 インラック政権の政策は米農家に対する高額融資制度だ。農家を保護・育成するというタテマエの元で、米を担保にして高額の貸し付けを行った。販売価格を上回る貸し付けだから誰も返済しない。その結果として政府は大量の米を保有することになり、引き取り価格を下回る価格で輸出すれば財政赤字は膨らむ一方だ。
 これは実質的には、米の収穫量に応じて金銭を贈与するという制度になる。つまり農家に対する贈賄だ。賄賂を政策の柱に据えるのだから、貰う側の農民は熱烈にインラック政権を支持した。これはとんでもないバラマキ政策だから農民以外は大反対した。こうして収拾が付かない騒動になった。
 最大多数の最大幸福という考え方からすれば、多数者に喜ばれる政策は良い政策だ。しかし少数者を犠牲にしたり、あるいは国益に背く政策であればただの人気取りだ。
 実は日本でもよく似たことをやっていた。食糧管理制度だ。これは政府が米を総て買い上げる制度であり、高額で買い取った米を国民に負担させた。このせいで日本の米は他の食材とはアンバランスに高額になり消費者の米離れに繋がったし、高過ぎる米は幾ら余っても輸出できないから、減反という世界に類を見ない馬鹿げた政策が採られた。今尚、日本の米が国際価格の数倍で高止まりしているのはこの制度の後遺症と778%という保護関税が原因だ。終戦直後は農業人口が多かったのでこの制度を維持することによって自民党は農民票を集めていた。都市から農村への所得移転とも解釈できるが、実際は農民からの集票が目的だった。だからこそこの矛盾が食管法廃止から20年経った今になっても解消されていない。未来を犠牲にしたその場凌ぎの悪政だったということだ。
 今後危惧されるのは高齢者優遇策だ。年金制度の歪みを是正できないのは高齢者の反発を恐れてのことであり、今後更に高齢者が増えれば今以上に見直せなくなる。呆れたポピュリズムだ。多数者に対する利益供与が政策として認められているのだから、多数決という仕組みには致命的な欠陥があると言わざるを得ない。

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