俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

覚醒

2016-10-21 09:58:12 | Weblog
 癌による苦痛に負けず劣らず私を悩ませているのは脳の機能の低下だ。鎮痛剤が神経系統に働き掛けて痛みを鎮めているために頭が寝呆けた状態が続き頭が冴えているという状態の時間はごく限られている。この短い時間を有効に使わないと何もしない内に一日を無為徒食で終えてしまう。一日の大半が寝呆けた状態との闘いだ。鎮痛剤に「痛みを鎮める」効果は無い。中枢神経の機能を狂わせて痛みを感じにくくさせているだけだ。覚醒中枢も中枢神経の1つだから鎮痛剤によって狂わされるし癌の痛みによる睡眠不足もあり脳機能を低下させる要因ばかりが豊富に揃っている。思考のためにはまず脳を目覚めさせることから始めねばならない。寝呆けた脳では思索も読書も困難だ。勿論執筆など論外だ。書いている最中に自分が堂々巡りをしていることに気付くし、一旦書いてから読み直したら書いた本人にさえ意味不明という酷い文章もしばしば見受けられる。明らかに知能が低下している。以前に自分が書いた文章さえ理解できないという何とも情けない状態の時もある。
 幸いなことに最近、覚醒のための特効薬が見つかった。コーヒーだ。挽き立て・煎れたてなどと贅沢なことは全く言わない。当たり前の缶コーヒーで充分だ。カフェインさえ含まれていればプラシーボ効果も働いて頭が冴える。長年、朝食後と昼食後には必ず飲んでいたために却ってこの効果に気付かずにいたから癌を患って以来、どうせ飲むなら少しでも栄養価の高いものをという思いからヨーグルト飲料などを優先して飲んでいた。
 誰でも風邪などによる知力の低下を経験したことがあると思うが、鎮痛剤による寝呆けた頭で毎日を過ごすことは辛い。試しにコーヒーを飲んでみてその圧倒的な効果に驚いた。飲んでから1時間後ぐらいから効き始めて6時間ほど覚醒状態が持続する。これまで毎日寝呆けた状態で暮らしていたことが悔やまれるほど覚醒効果が高いように思える。実は煙草の覚醒効果にも最近になって改めて痛感するようになった。
 勿論これはあくまで「個人の感想」に過ぎないしこんなに劇的に効く人は多分少数派だろう。しかしコーヒー愛好者の数の多さを考えれば何らかの薬効が普遍的にあっても不思議ではない。
 感情も覚醒のために有効だ。これもまた誰でも経験したことがあるだろうが、怒ったり驚いたりすれば目が覚める。感情を意図的に自由に操れればコーヒーに頼らずに済むとは思うが残念ながらそんなことができるほどに私は人間ができていない。
 癌患者としての苦痛を減らすためのテクニックは少しずつ身に付きつつある。今後は肉体面よりも精神面が重要だ。突然興奮や不安に襲われて情緒不安定になることを克服できるようになれば闘病生活も少なからず楽になるだろう。

コメントを投稿