俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

栄養補給

2016-05-16 09:43:02 | Weblog
 食道癌による障害と抗癌剤による副作用のために、この3か月余り、ほぼ絶食状態を続けている。少量であれば食べられる時期もあったが今では液体を少しずつしか飲めない。たった50㏄のヤクルトを飲むのに10分以上掛かるほど悪戦苦闘する始末だ。だから1日に摂取可能な量はせいぜい水1ℓと飲料1ℓ程度に過ぎず、少しでも栄養価が高くカロリーの多い飲料を選ぶことか必須だ。1日当りの目標値は1,000㎉だが500~600㎉しか摂れない日もある。
 癌と闘うために絶食する人がいるらしい。これは癌細胞に対する兵糧攻めを狙っているのだろう。盛んに分裂と増殖を繰り返す癌細胞のほうが正常細胞よりも多くのエネルギーを使う。我慢比べになれば正常細胞のほうが有利になると考えての対策だろうがこの仮説には無理がある。栄養が足りなくなれば癌細胞も正常細胞も活動を最小化する。その場合、崩壊と再生によって生きている正常細胞は再生を停止して崩壊を続け、増殖しかしない癌細胞は成長を止めるということになるだろう。これでは時間の経過と共に正常細胞のシェアが減ることになるのではないだろうか。実際に、絶食によって癌と闘おうとした人の殆んどが死期を早めているらしい。私は全く逆の道を選ぶ。たとえ癌細胞に栄養を奪われることになろうとも少しでも多くの栄養を摂ろうと努める。
 放射線治療は治療と言うよりむしろ放射線による細胞破壊に近い。癌細胞も正常細胞も破壊する。但し様々な方向から照射することによって特定の癌細胞に多くの放射線が当たるようにしている。だから癌細胞のほうが多くのダメージを受けることになる。仮に栄養補給が同等であれば放射線のダメージが少ない正常細胞のほうが有利になる筈だ。だから攻撃は放射線に任せて私は守りに徹しようとする。守りに使える武器は栄養補給だけだ。たとえ放射線が食道から肺に浸潤した癌細胞を破壊してもその部分を正常細胞によって埋めなければ穴が開いてしまう。穴を作らないためには正常細胞の育成が不可欠だ。このことが最大の課題であり、私は今、文字通りに命懸けの戦いを強いられている。負ければ死ぬしその確率は約90%らしい。
 ところがここで困った問題に突き当たる。最も期待すべき素材と考える乳酸菌飲料の大半が脂質や糖質offで作られていることだ。なぜわざわざ栄養価を下げているのかと憤りを覚える。肥満の抑制を優先するからこんな愚行が横行する。低カロリーは決して「ヘルシー」ではない。日本では全く馬鹿げた考え方が常識になってしまっている。痩身願望とカロリー一辺倒の歪んだ健康情報は早急に改めるべきだと痛感せざるを得ない。
 テレビのCМが願望を煽るのは当然だろうが、食べることと同時に減量を奨励しているCМが少なくない。食欲と痩身願望を同時に煽るのは狡い。日本の若い女性の栄養摂取の状態が発展途上国並みという憂うべき現実に対する警鐘は殆んど見掛けられない。