政府は昨年12月にGX基本方針を決定し、原発回帰の姿勢を鮮明にした。これは、東日本大震災時の原発事故以来、原発の新増設や建て替えはしないとしてきた歴代政権の基本的な立場を一変させる方向転換だ。
GXとは(グリーン・トランスフォーメーション)、温室効果ガスの排出源である化石燃料から再生可能エネルギーへの転換に向け、社会経済を変革させるという概念だ。あらゆる新しいテクノロジーが世界の二酸化炭素排出量の削減と除去を目指すことで、過去の産業革命やデジタル革命と肩を並べるようなイノベーションの波を生み出そうとする世界の技術の流れだ。
地球温暖化を防止するため、炭酸ガス等の温室効果ガスの削減が差し迫った課題である一方、ロシアのウクライナ侵攻で石油や天然ガスの資源価格の急上昇が電力価格の高騰となり、化石燃料を使わない電力を如何に確保するかが喫緊の問題となっている。
温室効果ガスの削減には太陽光や風力等の自然エネルギーの活用の他、原子力エネルギーの活用もある。原子力エネルギーの利用は事故が起こった場合の影響の大きさから将来は縮小の方向にあったが、化石資源の高騰で原発が前面に押し出されて来た。
歴代政府が10年以上抑制してきた原発規制路線を事情が変わったからと言って、岸田政権は国会審議もせずにいとも簡単に路線転換を決断してしまった。再稼働や既存原発の稼働年限の延長、新増設については安全性や地元の了解を得るなど必要な手順があり、またそれ以前に原発事故の後始末の目途が経っていない状態で原発回帰とは議論を尽くした後の決断とは思えず、増して日本独自の戦略があるとは到底思えない。
脱炭素化の動きが世界的に急速に進む中、電源としての自然エネルギー利用が増加する一方で、自然環境に左右され易く安定した電力供給には大きな問題があり、その穴を埋めるために原発が再度登場するが、原発事故を経験した日本がその経験を十分生かしているとは思えない。
世界はGXの方向では一致しており、各国政府主導による開発支援や海外展開、国際提携、導入にむけての検討や協議が世界的規模で活発化しているようだ。科学技術指標2022によれば、日本は主要国(米英独仏中韓)の中で科学技術のレベルが低下しているとのことだ。原発回帰と技術レベルに直接の関係は無いが、国の支援はその発展に大きく影響する。
例えば、太陽光発電はかっては世界をリードしていたが世界戦略を欠き、中国に先を越された。また、現在、電気とガソリンを使うハイブリッド自動車で日本は世界を席巻しているが世界の流れは電気自動車に向かっている。技術レベルの向上、維持には一企業の努力だけでは無理があり、国の支援が必須であるが、国は世界的な規模での日本独自の戦略を持っているのだろうか。2023.03.18(犬賀 大好ー898)