2010年代中頃、女性の社会進出が進み、共働きの世帯が増え、子どもをあずける保育園の数が足りなくなり待機児童が急増した。一方、夜遅くまで子どもを預けられない幼稚園では、園児数が年々減少し、定員割れという状態を引き起こしてしまった。
この状態を解決するべく、幼稚園と保育園をひとつにまとめる幼保一体化が国会でも話題となったが、新たに認定保育園の制度を作り、より問題を複雑化してしまった。解決できない原因の一つは、幼稚園は学校教育法に基づく文科省、保育園は児童福祉法に基づく厚労省と管轄する役所が異なることがあげられる。縦割り行政の弊害の典型である。
さて菅首相は政権の目玉政策として「デジタル庁」の創設を掲げた。世界はインターネットを始めとするデジタル技術がありとあらゆるところに入り込んでいるが、日本は未だに印鑑が幅を利かす等のアナログ社会であり、先進国から大きな後れを取っている。そこで、デジタル社会の形成に関する施策を迅速に推進するため、デジタル庁を設置しようとする訳である。
政府は今秋に創設を目指すデジタル庁の組織と役割の概要を公表している。首相直轄の組織とし、国全体を視野に置くデジタル人材は国と地方自治体、民間企業を行き来しながらキャリアアップできる環境を整備する方針だそうだ。デジタル社会の実現をスムーズの推進する為、中央省庁での人事慣行にとらわれずに民間との人事交流を活発化する目論見だ。
デジタル庁の主要な仕事はマイナンバーカードの普及である。このカードは日本国民に個別の番号を付し、税金や健康保険等の行政サービスをこのカード一枚で受けられるように、2016年から運用が開始されたが一向に普及しなかった。
政府は2023年3月末までにほぼ全国民のマイナンバーカード取得を目指している。現在、マイナンバー制度は総務省や内閣府などに所管がまたがっているが、今後はデジタル庁が制度全体の企画立案を一元的に担う目論みのようだ。
デジタル化は民間企業の方が進んでおり、これらの技術を生かすため民間人の登用を掲げている点は理解できる。しかし人事制度は民間とお役所では異なること、また主要なポストは関係省庁からの出向者であること等、融和が図れるか懸念される。また、幼保一体化で思い出されるのは、出向者は常に出向元の利益代表となることである。
菅政権は更に「子ども庁」の創設も掲げた。子どもに関する政策は厚生労働省や文部科学省、警察庁、総務省など多くの省庁が関係するため、子ども庁に権限や予算を集約する構想のようだ。まだ検討段階のようだが、早くも主導権を巡り、省庁の争いが始まっているとのことだ。
構想は思惑通りに進めば大変結構であるが、まず省庁の壁を取り払うことが肝要であるが、菅首相は官僚の人事権を振りかざし、高級官僚の忖度を引き出してきたが、庁内のすべての人間が忖度する訳ではない。人事権に代わる妙案を持っているだろうか。2021.04.14(犬賀 大好ー694)