日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

賃上げ要求は労働組合の役目では無かったか

2017年08月09日 09時14分56秒 | 日々雑感
 安倍政権が推進する異次元緩和は、市場の国債を日銀が買い取り、市場に流通する現金を増やすことにより企業活動を活発化し、企業の利益が増加すると共に、従業員の所得も増え、消費が増し、更に企業が儲かるとの、景気好循環を期待した政策の筈であった。

 この金融緩和は円安と結びつき、輸出企業に莫大な利益をもたらしているようだ。しかし、この利益は企業の内部留保として蓄えられ、労働者の賃金上昇にはつながっていないとのことである。

 財務省が発表した法人企業統計によると、大企業の2015年度の内部留保は前年度を13・5兆円上回る313兆円で史上最高額を更新したとのことだ。配当や役員報酬も前年度を上回ったものの、従業員1人当たりの賃金は減少したそうだ。これは、大企業が儲ければ労働者の家計に回るという安倍政権のトリクルダウン政策の破綻を意味する。

 これにより、景気好循環のサイクルの破綻は、企業の利益が従業員の所得に結びついて居ないところが原因であると証明されたのに、未だ従来通りの金融緩和策を取り続けているのは安倍首相や黒田日銀総裁の責任が大きい。

 しかし、労働者の総本山である日本労働組合総連合会(連合)もこの責任の一端を担っているのではないかと思われる。これは、官製春闘と揶揄される春闘に顕著に現れている。官製春闘とは、民間企業の労使が賃金などについて交渉する春闘に政府が支援することであるが、賃上げ要求を労働組合に代わって政府が主導するとは、前代未聞である。

 安倍政権は賃上げがないために消費が低迷し、デフレ脱却の足かせになっていると認識して、2013年に政府、経済界、労働界の代表者らで作る政労使会議を設置し、安倍首相自らが経済界に対して賃上げ要請に乗り出したのだ。これが功を奏して2014年春闘で賃上げが実現して以降、政府は毎年賃上げ要請するようになったため、「官製」と呼ばれるようになった訳だ。

 従来、春闘では労働組合が従業員の要求をまとめ、経営側に賃上げを求めてきた。しかし、1990年代前半のバブル崩壊で、大企業も破綻する現実に直面し、労働組合も会社あっての労働組合との意識が強まり、労働者も経営者の立場に立つ傾向が強くなったため、春闘での賃上げ要求はあまり強く出られなくなった。労働組合は御用組合化し、ストライキも死語になりつつあるのだ。

 今年の春闘でも政府が経済界に賃上げを強く求めたが、経営側には業績の先行き懸念から政府の圧力に抵抗した。政府が果たすべき役割は、経営者の先行きへの不安を取り除くことであり、そのための規制改革や社会保障改革に政府は努力すべきであろう。賃金を上げるための努力は労働者に任せておけばよい筈だ。

 現在、企業が抱える資金は潤沢のようだ。日銀によると、民間企業が保有する現金・預金は昨年6月末で242兆円と過去最高になったそうだ。一方8月は消費支出が物価変動の影響を除いた実質で前年同月比4.6%減と、6カ月連続の減少となったそうだ。実質賃金の伸び率が鈍っていることが響いているとのことだ。

 労働組合も従来のようにストライキでも掲げて賃上げ要求をすれば、政府は弾圧どころか後押しするに違いない。それにしても、最近の労働組合の動きはおかしい。同じ職場に派遣労働者と正規社員が同じように働き、賃金の格差が非常に大きい現実に直面しても、これを解決する動きは特に見られない。かっての労働組合は、自分たちの生活を守るために必死で戦った。現在、正規労働者は恐らく自分らの生活に満足しているに違いなく、非正規労働者は別世界の人間だ。

 非正規労働者や派遣労働者は、従来の組合を頼りにせず、独自の組合を組織した方が、良いのではなかろうか。何しろ今企業は派遣労働者抜きでは存続できなくなっている。2017.08.09(犬賀 大好-362)