菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

世にも微妙な未来予測  『十年 Ten Years Japan』

2018年11月22日 00時00分50秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1407回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『十年 Ten Years Japan』

 

 

 

 

5人の日本の新鋭監督が、10年後の日本をテーマに独自の切り口で描き出していくオムニバス映画。

 

5人の若手のインディ監督が10年後の香港をテーマに競作し、その視点の鋭さと質が話題となり、本国で多大なる評価を得たオムニバス映画『十年』。それを起点に"十年プロジェクト"が日本・タイ・台湾で2017年に始動した。今作は総合監修に是枝裕和監督を迎えて、製作された日本版。

 

 

 

物語。 

収録作品は早川千絵監督『PLAN75』、木下雄介監督『いたずら同盟』、津野愛監督『DATA』、藤村明世監督『その空気は見えない』、石川慶監督『美しい国』の計5編。それぞれ脚本も担当。

『PLAN75』
75歳を超えると本人若しくは医者と家族の同意で安楽死出来るようになっている。

『いたずら同盟』
子どもは頭に小型AIロボットをつけ、多くの監視カメラと連動したプロミスというシステムで守られている。

『DATE』
デジタル遺産を受け取れるようになり、故人のあらゆる電子データを閲覧出来るようになった。

『その空気は見えない』
何らかの汚染により人々は地上を捨て、地下で暮らすようになっている。

『美しい国』
戦争が始まっており、いよいよ徴兵制が行使される。

 

 

 

 

出演。

『PLAN75』
川口覚
山田キヌヲ
牧口元美
美和和枝 

『いたずら同盟』
大川星哉
辻村羽来
中野龍
國村隼 

『DATA』
杉咲花
田中哲司
前田旺志郎
三浦誠己

『その空気は見えない』
三田りりや
田畑志真
池脇千鶴

『美しい国』
太賀
木野花 

 

 

 

 

スタッフ。

エグゼクティブプロデューサーは、是枝裕和。
プロデューサーは、高松美由紀、福間美由紀、水野詠子、ジェイソン・グレイ。

音楽プロデューサーは、齋見泰正。

 

 

 

 

 


10年後にありえるかもしれない日本を描く五つの物語のオムニバス。
その鋭さで香港で歴史的評価を得た映画『十年』のコンセプトを引き継いだ日本版。
だが、その質が引き継がれていたかは疑問。それぞれの出来が悪いわけではないのだけれど。しかし、2本以外は『世にも奇妙な物語』の中くらいレベルで、その2本さえ切っ先は鈍め。他はもはやピザカッターかバターナイフぐらい。
議論も問題提起も弱い。
キャストはなかなか見せるが、多くは思想までは透けて見えない。これに出るということで果たしていないわけではないはずなのだが。
映像の質は高いだけにムズ痒い。
世にも微妙な未来予測な濁作。 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

おまけ。

タイトルは、『十年』だけなのか。
『Ten Years Japan』はつかないのかな?
でも、そうなると区別つかないしなぁ。

 

 

上映時間は、99分。(約20分×5本)
製作国は、日本。
映倫は、G。

 

 

 

キャッチコピーは、「未来とは、今を生きること」。

オリジナル香港版のヒリヒリした感じがない、あたりが今作の内容を言い表してもいる。
香港版のオリジナルキャッチコピーは「為時已晚(もう遅い)」/「為時未晚(まだ間に合う)」。日本公開時のキャッチコピーは「変わりゆく現実と、変らないと願う未来」になった。

 

 


オリジナル『十年』は大ヒットしただけでなく、スター無しのインディ作品として初の香港アカデミー賞作品賞を受賞し、その授賞式は中国本土でTV放送を中止したほどの問題提起をし、それが香港住民に受け入れた作品。
 
日本版の弱さは、日本映画界の弱さを象徴しているようでもある。総合監修に是枝裕和を迎えて、ここに留まるのか・・・。

 

 

ネットより。

『十年』の香港での公開期間中、公開館は毎回満席でチケットが非常にとりにくい状態にあった。フェイスブック上の『十年』の公式ページで、観たいのにチケットが買えないことを訴える観客のコメントがいくつも上がった。これに対し、ある観客はこうコメントした。
「わざわざ映画館に観に行かなくても、『十年』は目の前で毎日上映されてるじゃない」
このコメントにはたくさんの賛同の「いいね」がついた。

 

 

 

タイと台湾でもつくられている。比べて見たい。 

  
こういう作品が作られたこと、新人だけに任せたことは讃えるべきなのだが。

日本はキャッチコピーからみても、今とのつながりが弱い。切羽詰まらない。

その理由はネタバレにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

オリジナルの香港版『十年』はすでに現在に問題点があり、そこが発展させた10年後の問題を描いていることで現在を撃ち抜く内容だった。現在の問題と未来の問題を呼応させていたわけだ。

ところが、日本版は現在の問題を発展させたもので終わっている。未来での問題を描いていないのだ。描いているとしても、結局、個人の問題で収まっている。問題を向き合わせない。いうなれば、議論がないのだ。
香港版では、問題と向き合わせていた物語になっていた。描かれた問題は現在における問題が透けて見えていた。
だから、映画を観ても議論が生まれない。あるとしても、物語内のものについてで終わってしまう。

日本版は5作がそうだから、そもそも日本の物語作法のせいなのかもしれないし、現在の日本の国民性がそうさせたのかもしれない。もしくは観客の物語受容度を低く見積もったのかも。

江戸時代には、政治的なことを語れなかたから、現在の問題を過去の出来事に置き換えて描く技法で語った歴史があった。『忠臣蔵』を鎌倉時代の事件に置き換えて語ったりしていたのだ。
今作のコンセプトは、その未来版だろう。
それとも、政治的になりすぎることは、なにかの制限を受けてしまうからか。すでに表現が不自由な国になっているというのか。

一応、『美しい国』と『PLAN75』は権力側に個人を置き換えている部分があり、あなたならどうするかが突きつけられている。だが、そこに議論や戦いはないので、弱い。しかも、この2作は同じ構造で描いているので、それしかできないのか、という弱さを露呈させる。
これは『いたずら同盟』と『その空気は見えない』はほぼ同じ構造になっていることでさらにその弱さがばれてしまう。

しかも、この2作は、何の議論もなくただ子供が行動に移すことで、自然が救ってくれる。アニミズム的解決で、問題点をうやむやにするハッピーエンドにしてしまっては意味がないのだ。
他3作は下手すれば、こうならないしとか、このシステムはもっとうまく使えば機能するなとか、しょうがないとか、個人でそこから逃げる方法を思考させるところに収まってしまうレベルに留まってしまう。

すごくゆるく、躾の問題や情報規制、考えない教育を描いていないわけではない。だが、戦いになっていないのだ。

『DATE』は箸休めなのかもしれないし、上手くまとまっている。ただ10年後のテクノロジーを示しているだけにすぎなく、他の話も同じ箸休め的内容だから、その役目を果たしていないのだ。内容的には個人的にはよく出来ていると思うのだけど。

 

 

 

若手作家が短編を発表させたことは、成果ではあると思う。
しかし、政治的なものが受けにくいから、ビジネスを考えて、この内容で納めたのだとしたら、これは敗北だと思う。

それにしても、劇場は閑古鳥が鳴いていたのよね・・・。 せめて、ある程度は来てて欲しかった。

 

比べるモノでもないが、ガスマスクを日常的にかぶって暮らす日本を描いたショウダユキヒロ の短編映画『blind』や短編漫画には藤子・F・不二雄の老人は食料制限される日本を描いた『定年退食』や老人の人権剥奪法が施行された日本を描いた浅野いにおの『TEMPEST』なんてのもあるのだから、もっと鋭く出来たのではないかと思ってしまうのは欲張りか。

 

平和ボケを感じてしまう。この作品が作られることがそうではないと訴えるはずなのに。

ただ最初はそうでもいい。続けていけるかどうかが大事。ヒットしなくても乗り越えて欲しい。このチームでなくてもいいから。

 

 

台湾版、タイ版も見てみたい。
『Ten Years Thailand』、『Ten Years Taiwan』の内容は、今作のパンフレットに記されていた。
日本版を作ったのと同様、これらを日本で公開するというのも一つの継続だろうから。
(『Ten Years Thailand』は東京国際映画祭で上映された。ただ、どうもこれはアピチャッポン・ウィーラセタクン効果なのかもしれん)
ぜひとも、尽力していただきたい。

 

 

 

 

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