で、ロードショーでは、どうでしょう？ 第２３４８回。
「なんか最近面白い映画観た？」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『異人たち』
孤独な同性愛者の脚本家が幼少時に事故死した両親と過ごした実家に行き、両親と再会するドラマ。
脚本家の山田太一の長編小説『異人たちとの夏』を翻案し、再映画化。
原題は、『ALL OF US STRANGERS』。
『私みな異訪人』。
製作年：2023
製作国：イギリス、アメリカ
上映時間：105分
映倫：R15+
配給：ウォルト・ディズニー・ジャパン
物語。
現代英国のロンドン。
40歳の脚本家アダムは、12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた。
寂れたタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。
ある日、同じマンションの男性ハリーの誘いを拒否した後、幼少期を過ごした郊外の家を訪れる。
そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。
主演は、『SHERLOCK シャーロック』のアンドリュー・スコット。
共演は、『aftersun アフターサン』のポール・メスカル、『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベル、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のクレア・フォイ。
監督と脚本は、『荒野にて』『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ。
スタッフ。
監督・脚本：アンドリュー・ヘイ
製作：グレアム・ブロードベント、ピート・チャーニン、セーラ・ハーヴィー
製作総指揮：ダーモット・マキヨン、ベン・ナイト、オリー・マッデン、ダニエル・バトセク、ファルハナ・ブーラ
キャスティング：カーリーン・クロフォード
原作：山田太一 『異人たちとの夏』（新潮社刊）
撮影：ジェイミー・Ｄ・ラムジー
プロダクションデザイン：セーラ・フィンリー
衣装デザイン：セーラ・ブレンキンソープ
編集：ジョナサン・アルバーツ
音楽：エミリー・ルヴィエネーズ＝ファルーシュ
出演。
アンドリュー・スコット （アダム）
ポール・メスカル （ハリー）
ジェイミー・ベル （父）
クレア・フォイ （母）
カーター・ジョン・グルート （幼いアダム）
『異人たち』を観賞。
現代ロンドン、孤独な同性愛者の中年の脚本家が幼少時に事故死した両親と過ごした実家に行き、両親と再会するドラマ。
脚本家山田太一が1987年に書いた小説『異人たちとの夏』をイギリスを舞台に翻案し、再映画化。
おいらは原作は未読だが、大林版の映画は既見。
観ればわかるが、大林宣彦の映画『異人たちとの夏』（1988）のリメイクではないのがわかる。それは孤独か郷愁の差。ノスタルジーの方は大林映画の味なので、今作ではその部分はかなり薄めになっている。
説明を省きぎみの映像で語るスタイルで、中年、失った両親、同性愛者、都市暮らしの四つの孤独を浮かび上がらせる。
異人の意味を膨らましている。
原作の女性ケイ（藤野桂）がゲイになったともいえる、というのは言葉遊び。
監督と脚本は、作家性の強いアンドリュー・ヘイが、己の思いを主人公に託して、語る。
不思議設定をきっちりとトーンを守って、一本の映画としての透徹している。
両親のことを思い出すのも両親のことを題材にした脚本にとりかかっているからだし、死んだ両親に会うのもきちんと理由を設定している。しかも、孤独だけでない、その理由の一つでもあるもう一つのテーマも入れ、二つのテーマを相互作用で強化する。
それにより、最後の最後まで刺してくる。
原題は『ALL OF US STRANGERS』つまり、『わたしたちみな異訪人』。そこには居場所のない誰もかれもが抱えるさみしさが漂う。（ちなみに、映画版『異人たちの夏』の英語題は、『The Discarnates』（『化身たち』））
山田太一は、生前に今作を観て、温かく受け入れたとのこと。
作家の思いと向き合った原作のテーマを映画にするならばと同じく作家の思いを反映させているのだ。
ストリーテリングには、＜はなし＞と＜かたり＞の二種があるといえる。出来事を神の視点で話し伝えるものと、人物（作家）の目を通して語るもの。
今作は、もともと＜かたり＞であったものを、さらに作家の目を通して＜かたり＞変えたものと言える。
それを絞った俳優陣で関わりを減らし、人の気配を削ぐ。それにより、それぞれの密度を濃くして、内面へと迫ららせる。
ちょっとした仕草、視点で物語る四俳優の見事なパフォーマンス。アンドリュー・スコットの寂しさを伝える直線。ポール・メスカルの内面をさらけ出す曲線。ジェイミー・ベルの多様性をその身体で見せる収縮。クレア・フォイの周りと重ねようとする放出。
個の物語が浮かび上がる。
じっくりとした親密描写が体温を移すが、そこに感じるものはかなり個々人の生理によるものになるだろう。
その点でも今作は距離を大事にしている。
撮影が光をコントールし、意図を伝えるクラシカルなレイアウトで見せる。
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、ペットショップ・ボーイズ、ブラー、ハウスマーティンズ、ファイン・ヤング・カニバルズなどイギリスのバンドの曲に加え、アメリカのオールディーズなど音楽が映画の気分を語る。
ここには、死の臭い、闇が充満している。
反転して、生きることの光が反射する一本。
ネタバレ。
アダムと両親の最後の会話では、両親は30年前の自動車事故での死に方に従って消えていきます。アダムの父親は衝撃で死亡したため、即座に姿を消しました。彼の母親は、事故後と同じようにしばらくの間生き延びましたが、事故で視力を失ったため、アダムを見ることができなくなりました。
アンドリュー・ヘイは同性愛者であることを公言している。
幼少期に両親（健在だそうです）が離婚し、その両親へのカミングアウトも経験し、80年代にはエイズによる差別や偏見を浴び、仲間の喪失も経験したそうです。
撮影された家は、監督の実家。
映画の中では英国のバンド＜Frankie Goes To Hollywood＞のヒット曲『The Power Of Love』が効果的に流れる。1980年代に人気を博し、同性愛者から支持されていた。
他にも、同性愛を歌った曲がいいくつか流れる。
クレア・フォイは地元の鉛を活かしたセリフをまわしをして、イギリスの田舎の母を演じている。
ジェイミー・ベルはアンドリュー・スコットの目に近づけるため、茶色のコンタクトレンズを着用するなどしている。
データだと、画面が2.39 : 1だけなんだけど、枝卯が神田とスタンダードの画面もあったのよね。
35mmフィルム撮影で、カメラはArricam LTだそうですよ。
アダムと肉体関係を持ったハリーはすでに死亡していたと思われる。
ゆえに、アダムはハリーとの出会いで、彼を受け入れていれば、彼を救えた可能性があるという罪悪感を抱えて、映画は終わる。
孤独は癒されない。
アダムは、その詩の責任を持つことになる。
それは、アダムが抱える両親の死についても同じ。
罪悪感が自己否定となり、人と距離をとることで孤独に結びついていっている。
あの両親は二つの可能性がある。
死んだハリーがアダムと魂で関わったことで、アダムが死の世界とつながったというのと、両親は本当の死者ではなくハリーが見せた幻想でアダムの中にある父と母のイメージというのと。
ハリーは死の間際、アダムへと執着する。
電車の中にハリーの姿がある。
鏡となった窓に彼は映る。
ガラスの向こうにいるものは幽霊とするなら、オープニングのアダムは死の世界に足を踏み入れている。
