で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2272回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『小説家の映画』
書かなくなった著名小説家と出なくなった人気女優が偶然に出会うドラマ。
第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞。
監督・脚本ほかは、ホン・サンス。
銀熊賞は、『逃げた女』、『イントロダクション』に続き、三作目。
主演は、『あなたの顔の前に』のイ・ヘヨン。
共演は、キム・ミニ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ソ・ヨンファ、キ・ジュボンら、ホン・サンス作品の常連俳優が顔をそろえた。
物語。
筆を止めてしまった著名な小説家ジュニは、長らく連絡を取っていなかった筆を折った後輩を訪ねて地方へ訪れる。
後輩と別れた後、彼女は映画監督ヒョジュンとの再会し、最近はほぼ映画に出ていない人気女優ギルスと偶然の出会いを果たす。
近い状況にいるギルスに、ジュニは自分と似た波長を感じる。
出演。
イ・ヘヨン (ジュニ/小説家)
ソ・ヨンファ (セウォン/チュニの後輩/書店の店主)
パク・ミソ (ヒョヌ/チュニの本屋の従業員)
キム・ミニ (ギルス/女優)
ハ・ソングク (キョンウ/キルスの夫の甥/映画専攻大学院生)
イ・ウンミ (チェウォン/映画試写会場の職員)
クォン・ヘヒョ (パク・ヒョジョン/映画監督)
チョ・ユニ (ヤンジュ/ヒョジンの妻)
キ・ジュボン (マンス/詩人)
キム・シハ (女児)
スタッフ。
製作・監督・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
『小説家の映画』を鑑賞。
現代韓国、書かなくなった著名小説家と出なくなった人気女優が偶然に出会うドラマ。
書けないではなく書かない作家と出ないではなく待っている女優が出会い、映画はつくられるのか、何かが生まれるのか。
圧倒的な映画的会話劇。1カット10分ぐらいは当然だが、そこに機微が等高線のように敷き詰められている。
ホン・サンス作品は、ホン・サンス作品としか言いようのない映画が多いが、こことのところは、監督・脚本・撮影・製作・編集・音楽も兼ねていて、個人映画度がどんどん上がって、ホン・サンス濃度が高まっている。
ベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞。(銀熊賞は三作目)
韓国国内でも、高評で、韓国映画評論家協会会員選定ベスト10に選出されている。
今作も、いつもながらの要素で構成されている。(と言っても、おいらは中期以後の7本しか見てないので、違うスタイルの作品もあるだろう。7本の内、『自由が丘』は少しタイプが違ったので。ちなみに、今作は27作目)
だいたいは、人の出会いによる会話で状況を曖昧なまま語ることが多いが、今作はけっこう明確にストーリーがあり、人物の設定なども対比がわかりやすいので、かなり見やすい。
とはいえ、その対比は7つ以上にもわたり、実に凝っており、この毎作品ごとに全然違う映画的語りのしかけこそが、ホン・サンスの凄味の一つだったりする。
小説家役に『あなたの顔の前に』のイ・ヘヨン、女優役にキム・ミニ、映画監督役にクォン・ヘヒョ。その妻役にチョ・ユニ。ちなみに、クォン・ヘヒョとチョ・ユニは、実際の夫婦。キム・ミニとホン・サンスもパートナー関係で、今もまだ難しい状況が続いており、いづれ、この二人の関係は映画になるだろうと思われる。
強いコントラストの白黒の画調は、古い公式写真のようだが、漫画のようにも見える。
会話は、実にスリリングで、ささやかながら、とても張り詰めた緊張感がある。今作はジャンルでいうなら、サスペンスで、裏舞台もの、復活劇。
なにより、とても鑑賞後感がいい。
珍しく、ちゃんと、タイトルにもあるアレが少しだけ見られる。
もはや、キム・ミニへのラブレターだよね。
エンドクレジットが1分も無い、私映画という、稀有なジャンルを大きく成立させ続けている稀有な作家。
リアルなようで、全くの創作物であることを意識させる、このアンビバレンツを乳化させる手腕。世界中の映画人が、?を浮かべ、映画史上の奇跡として、見守り続ける。
これが、ドキドキ見れてしまうのは、もはや魔法。(独自のスタイルなので、退屈な人ももちろんいるはず)
そうそう、外と中の繋がりにも、映画のマジックを感じますよ。
コロナ禍後期の状況をそのまま写し取ったリアルタイム映画でもある。
求める二人が、どう重なるか。
二つの波長が震える歩作。
おまけ。
原題は、『소설가의 영화』。
英語題は、『THE NOVELIST'S FILM』。
『小説家の映画』。
2022年の作品。
形式:白黒(一部カラー)
製作国:韓国
上映時間:92分
映倫:G
配給:ミモザフィルムズ
受賞歴。
2022年の第72回 ベルリン国際映画祭にて、銀熊賞(審査委員大賞)を受賞。
2022年の第42回 韓国映画評論家協会賞にて、韓国映画評論家協会会員選定ベスト10に選出。
ややネタバレ。
92分で、カット数は27程度で、場所も7つ程度。
ネタバレ。
タイトルも不明な劇中映画<小説家の映画>(これが劇中劇のタイトルかもしれない)は、そのままホン・サンスの目と受け取ってしまう。
つまり、キム・ミニへのラブレターだよね。
台本があって、このために撮ったのか、たまたま撮れたものを繋いだのかさえ、分からない。
だって、あの見続ける少女は演出なのだから。
とりあえず、7つの対比。
有名になった小説家の先輩と筆を折った後輩の本屋。
請われると請うという関係。
書かない小説家と出ない女優。
これからの学生と成功した後のプロ。
夫婦とパートナーとシングル。
撮りたいという気持ち(キャストに惚れて)で撮る映画と撮れるものを撮る映画。
本屋(小説の出口)と映画館(映画の出口)。
それをタワーや屋上と地上という関係でも映画的に見せている。
ギルスが出た自主映画とは、あの甥の作品だろうか。
ギルスの出てこない夫は陶芸家だそうだが、ホン・サンスを当てはめちゃうようね。
二人が求めているのは、着火するナニカであり、きっかけ。